本物の家系ラーメン
客「ここが本物の家系ラーメンが出るっていう店か。胡散臭いなぁ」
店員「いらっしゃーせ! 一名様?」
客「はい」
店員「食券買って、お好きな席にどうぞ!」
客「活気はいいな。すみません。本物の家系ラーメンが食べられるって聞いてきたんですけど」
店員「真・家系ラーメンのことかい?」
客「真……多分それです」
店員「一千万円だよ!」
客「え? え?」
店員「だから一千万円だよ!」
客「え? なんでそんなするんですか?」
店員「うちはダイナミックが売りだからね! 心もラーメンもダイナミック!」
客「そうなんですか。ちなみに店員さん体重いくつなんですか?」
店員「38kg」
客「そこはダイナミックじゃないんだ」
店員「あ、もしかしてお客さん初めて?」
客「そうですけど」
店員「だったらタダでいいよ! うちの真・家系ラーメン好きになって貰いたいからね。初めての人にはお試しをタダで出してるんだ」
客「めっちゃダイナミック! じゃあ、それお願いします」
店員「まいど! 「真・家系」お試し一丁ぉぉお!」
バイト「お試し一丁!!」
客「うわ、いきなりバイトが五、六人出てきた。」
店員「じゃあ初めにモデルはどうする?」
客「モデル?」
店員「ああ。和風、洋風、中華風、モンゴル風ってのがあるよ」
客「モンゴル風?! 味にモンゴル風とかあるんですか?」
店員「あるよ。メニュー見てご覧」
客「壁は全面メンマ張り、屋根はチャーシュー瓦、ラーメン構造の『真・家系ラーメン』?! 家系ラーメンってラーメンでできた家ってことぉ?!」
店員「そう! これが本物の家系ラーメン!」
客「偽物だよ!」
店員「それで、どのモデルにするの?」
客「えぇ……。まあ無料だし、せっかくだから和風にしようかな?」
店員「かぁしこまりました! 和風一丁!」
バイト「「「和風一丁ぉ!」」
客「うっさいなぁ!」
店員「香り付けは?」
客「香りづけぇ……?」
店員「芳香剤みたいなものだよ」
客「芳香剤ね。ラベンダーとか?」
店員「いや醤油、味噌、塩だよ」
客「しょ、醤油ぅ?! えぇなんか臭そうでやだなぁ」
店員「そんなことないっすよ。昭和の懐かしい屋台の香りが鼻を擽るよ」
客「古臭いのは変わりないんだな。まあ、僕もチャルメラとか食べてたし、醤油でいいかな」
店員「はい、醤油ぅ!」
バイト「「醤油一丁!」」
客「あ、あのー、すいません。その大声出すのやめてもらえます?」
店員「いやでもこれないとやってらんないんすよ。やっぱラーメン屋は活気が命なんで」
客「いや分かるけどさぁ。ちょっとボリューム落としてもらえると助かるかなぁ」
店員「かしこまりました。声少なめ!」
客「いや油少なめ見たいに言うな!」
店員「麺の硬さは、硬め、普通、柔めのどれにする?」
客「え? どういうこと? 麺って、これでいう骨組みだよね?」
店員「ええそうですよ。硬めはその通りハリガネくらいの硬さです」
客「え、金属の?」
店員「いえ、ラーメンの」
客「どっちも脆いわ! ややこしい!」
店員「ハリガネは台風に強いですよ! がっしりしてるからね。逆に地震に強いのは柔めだね。柳のように揺れるので地震が来ても力を分散してくれるのさ!」
客「おお、それいいじゃん!」
店員「でも柔らかいんで、二時間くらいで麺が伸びて家が潰れちゃうけどね」
客「じゃあ意味ないじゃん!」
店員「逆に災害にも強く、麺も伸びにくいのが普通だよ」
客「じゃあもう普通でいいよ」
店員「フツーでいいですね……」
客「お前が勧めたんだろ!」
店員「じゃあ最後にトッピングどうする?」
客「え、家にトッピング?」
店員「ええ。基本、壁や床はメンマ製で」
客「うん」
店員「チャーシューが屋根の瓦に」
客「ほう」
店員「インターホンを煮卵」
客「はあ」
店員「海苔を玄関のドアにできるよ」
客「いや、下町版ヘンゼルとグレーテルか! 本家のお菓子の家をも超えそうなクオリティだな!」
店員「これが全部乗せ。あとお好みでニンニクもマシマシに出来るけど」
客「え、どこにどこに? あ、ちょっと待って……分かった! 漆喰みたいに、すりおろしニンニクをチャーシューとチャーシューの間に塗るんでしょ!」
店員「違います。つなげて玄関に飾るんです!」
客「しめ縄か! じゃあ真ん中には橙ってか」
店員「いえ、ほうれん草を丸めたやつを」
客「マリモにしか見えんわ!」
店員「ニンニクマシマシする?」
客「いやいいっす。なんかもっと臭くなりそうだし。にしても一切、家系の無駄がないなあ。逆に感心しちゃったわ」
店員「それが真・家系ラーメンですから」
客「なるほどねぇ……。なんか納得させられちゃったわ」
店員「それじゃあ注文繰り返すよ。 真・家系お試し、醤油、麺普通、味普通、油少なめ、全部乗せ一丁!」
バイト「「「「「「醤油お試し、普通、普通、少なめ、全部乗せ一丁!」」」」」」
客「だから声少なめ!!」