エメラルドの瞳
土星の武器商人ロカワ氏は、火星の王宮へ来ていた。
練兵場へ立ち寄って、どんな武器を売りつけようかと算段しているときに、彼女に気づいた。
燃え上がる炎のような赤銅色の髪、きらきらと生きているエメラルドの2つの瞳。
「毛色の変わった女が混じっているが、彼女も兵士なのか?」
大ぶりの剣を振り回し、男と互角に闘っている。
ロカワ氏は王に謁見した折に、戯れに「エメラルドの瞳の女が欲しい」と言った。
王は笑って、「できるものならばやってみるが良い」と挑戦的に応えた。
王宮内の庭園に見事な薔薇園が広がっていた。
訓練の時の服装と装備を脱いで、貴婦人の着るドレス姿のくだんの女の姿があった。
「ミリー、部屋に飾る花なら庭師に言いつければいいのに」
「ケインお義兄様。自分で選びたいのよ」
「やれやれ。僕は部屋に戻るよ」
「ええ」
ミリーは手ずから薔薇を選ぶのに夢中だった。
ガサガサガサッ。
一瞬、何が起こったのか彼女はわからなかった。
自分が何かに拘束されて、薔薇の茂みに押し付けられているのがわかった。棘が頬を傷つけて小さな無数の引っ掻き傷ができていた。
「エメラルドの瞳!これだ!」
見知らぬ男がミリーに覆いかぶさって襲ってきた。
ミリーは憎悪の色を瞳に浮かべて男を見た。拘束さえされていなければ、こんな奴!
お義父様!
王宮のどこかから見ている。試されている。火星の王女として相応しいかどうか。
万事休す。
されるがままの彼女を、さっき立ち去ったケインが救いに来た。
「俺は土星の武器商人ロカワ氏だぞ」
「だからなんだ?」
ロカワ氏はミリーから引き離され、ケインから喉元に刃の切っ先を突きつけられていた。
ミリーは拘束具をはずして自由の身になると、ケインから短刀を手渡され、ロカワ氏に向かおうと身構えた。
「王子、王女!その方は国賓です。傷つけてはなりません」
執事が駆けつけて言った。
「でも!」
「手の届かない宝石ほど心を惹きつける」
不敵な笑みを浮かべてロカワ氏は立ち去った。
「大丈夫かい?ミリー」
「ええ。ありがとう」
ミリーの身体を震えが走り、やがて消えていった。