約束の束縛
「ええ……」
『いや、泥沼化した結果、処理落ちしてロック解除とか』
『激闘になってるからな……それはそうと見つかったんだって』
(そうだよ! ヤバいって、これこれまでループからの大変動だったら俺、どうすりゃ良いんだ……)
ゼノム達が『サイフィvs謎の派遣』にかかりきりになった結果、とある世界が動き始める。
強制転移者スレのスレ主は、焦っていた。予定調和なのか変動なのか、自身では判断がつかないからだ。
『どうするもこうするもない。抱け』
『変わらずお姉ちゃん大好きをかませ。そして落とせ』
『大変動だったら終局じゃないか、オルカちゃん……やっと解放だね』
スレは、好意的に解釈している。否定から入らないスタイル。
(それじゃ……探してくる)
『逝ってら』
『あっ、クソ! 仕事や!!』
『俺も探してくるか……イッチを特定してみる』
『向こうから来てくれればなぁ』
強制転移者は育ての親を探す。どの部屋にも居らず、隠し部屋となれば分からない。外は状況からして危険だと判断し、寝台の下にて寝そべる。
そのまま身体は眠りに落ちて、ゼノム達の状況を聞いていた。いつ終えるのか、不透明な話だ。
(おっ? 浮遊感だ。やっとベッドに運ばれるんか)
『オルカの家のベッドとは言っていない』
『なるほど、魔王勢の誘拐ですね! なぜベッド……あっ(察し)』
『パンツ脱いだ』
『ティッシュ用意した』
『尻を拭く』
『ティッシュ捨てた』
『パンツ履く』
『ティッシュで拭くな』
(いや、このふかふか着地までの間隔からして、オルカだろ)
邪推するスレだがスレ主は否定。しかし、なかなか目が開かない。
(まだ、寝たりんかこのボディ……)
『ガキだからね、仕方ないね』
『というかまだイッチの精神起きてるの凄くね?』
『凍結してたから成長するはずがないんよな。よく肉体と精神を分けられるわ』
起きて話をしたいスレ主だが、肉体の状態を変える程、精神から魔力への影響が出ない。
長い間。スレ主の頭さえ撫でられる事もなく、時間のみが経つ。
「……今回はいつになく早かったね。きっとまた、私に縛られても良いって言うんだ……相手が貴方しかない私の気持ちを知らずに……」
(えぇ……)
『これはひどい』
『チッ。メインヒロインなら人生何周しようと、恋愛ゴールは主人公に収斂しろよ』
『いや落ち着くんだ。同じルートを最終的に毎回選んでしまう事を悩ましく思うだけで、イッチの事はスコスコのスコティッシュだいしゅきホールドやも知れん』
『ケモナーおるやん。自宅で猫の奴隷として収監されとけ』
寝ていて聞こえていないはずの独白。深い本心は分からないが、スレ主と結ばれるしかない周回に思うところがあるようだ。
(俺以外のオスに手を出すのなら、女ではなく『配合母体』として考えねば)
『魔王降臨』
『やっぱ勇者ってメンタル人外だわ』
『モンスターマスターとしては正しいぞ。精神に引かざるをえないが』
『切り替えが邪悪やろ……あぁでもうちらの【神】も大概、邪悪か……』
(いやちゃうねん。俯瞰せな、脳破壊で闇落ちするやろ?)
『既に闇なんだよなぁ……』
『最もドス黒い悪が魔王を討ちに行く。魔王の信念によっては、殺すべきはイッチになるな』
スレ主の邪悪さが滲む。皮の向けた人間の恐ろしい部分が、異世界にて発揮されようとしている現実に、スレ民は震えていた。
「……何故、世界は私達に」
『世界がそう確定してるからなんだよなぁ……』
(当事者より発想が早いのやめろぉ、ナイスぅ)
『大体このスレに来れるのは魔法に詳しい奴。魔法に詳しい奴の大体が、ゼノム世界を履修している。つまり発想が早い』
『〈万象庫/アカシックレコード〉の仕様が恐ろしい……【外】や世界管理者の手出しがない限り、ほぼ全ての正史が記録されているとか』
『俺達がこうしているのも確定された事。怖くなったんでアンドロイドと遊んでくる』
『世界について考えるな。感じるべきものなのだから』
『IQ3になれとは言ってないだろ。爆発しろ』
『【おk】【やる】』
『待てや』
『すまんイッチ。こっち対神し始めるから、自発的に落としといた方が良いよ』
更なる深淵が出現したので、スレ民は無能化してしまった。
そんな時にスレ主の体が目覚める。言葉の裏を読み、無駄に逆を行こうとするスレ民抜きの対話。
ここで死んだのならば、原因が明らかにスレ主にしかないのだ。
「お姉ちゃん、どこ行ってたの?」
「貴方が何処か行っていたのに……寝室に転がっていて良かった」
まずは無問題そうな話から、始めるようだ。オルカの口振りでは『寝室』以外に何かあるようにも取れる。例えば地下室のような、魔物が湧きやすい魔力の淀む部屋があるのかもしれない。
「そうそう! お部屋回ってたら眠くなって、ベッドに行きたかったけど、お姉ちゃん居なかったから届かなかった!!」
「ん~、でも低くは出来ないよ。それに……どうやって部屋の扉を開けたの?」
「頑張って手を伸ばしたら、ふわってして届いた!」
「そう、頑張ったね……」
スレ主は語る。違うのは最初から、手を伸ばすと同時に足を使って跳ぶつもりであった点で、それ以外は事実である。
このまま一時の思い出として過ぎれば、スレ主にとっては未装填の弾丸なのだ。
「私の部屋にも入った?」
只の人であれば騙せただろうが、相手は何度と世界を廻ったドラゴン。部屋にあった器具は起動出来なかった、等の嘘は見抜かれて当然である。
「入ったよ。何か分かんない匂いしたなぁ」
「机にあったキラキラは?」
「…………あれ、大きくなったボクなの……?」
ならば正直に話す他はない。スレ主は、普通の疑問をぶつけた。
内心では黒と桃の混ざった思考が、幾重も捻られている。
「そうだよ。あの人が未来の貴方。どう思った?」
「えーと、顔は良いし、別れは惜しんでるし、相談しないで決めたのは悪いし、でもそうしないとボクは会えなかっただろうし、えー、あぁー」
スレ主は広範囲に答えた。どのような思考……理屈はポイントによって違うのだから。
そのようなスレ主にオルカは、少し驚いた反応を見せている。
「私が思ってたより、いっぱい考えてるね。それじゃあ聞きたいなー、お姉ちゃんをお嫁さんにするの? しないの?」
恐らく、平均を上回る知能だったからであろう。続く質問の難しさが、上がっている事からも窺える。
スレ主は困ってしまう。
妻にするのは確定しているが、姓はどちらでも良い。クリスタルの二以上の舞になりかねない発言は、控えるべきである。寿命問題、国際問題、対魔王……一体、どこまで含めた発言を求めているのだろう。
真剣に眼差しを向けてくる、オルカに対して何と答えるべきなのか。
『まだお前は幼児だ。対象も周囲も知らないガキらしく、よく分からないまま我欲を通す宣言でよし』
(終わったのか?!)
『たった一人への危害だったからな……どうにか対処は出来たぞ』
(しかしそれでは、聡いと思われたものに対して裏切りにならないか?)
『心配するな。ガキが瞬発的に大人を越えるなんて、よくある話だろ?』
『それを言うなら、守る為に死地に飛び込んだお前から、離れようとしているその女のほうが、裏切りでは?』
『頭が拘束のオスですねこれは……。いやイッチも大概で同じなんだけど』
【邪神】への対応を終わらせたスレ民達が、意見を飛ばす。
『悩むなイけ』と言っているようだ。信じたスレ主はそのように伝える。
「したい……。今はまだ、パパとママみたいになるのは難しいけど……」
「……私さ、殆ど貴方に捕らえられてるのよ?」
「それは……」
スレ主は返しに詰まった。早速、スレ民に聞こうとしたところ。
『勇者という強固な運命に組み込まれた以上、勇者と結ばれるというのも当然なんだよなぁ』
『ゼノムさんもそれでNTR対策してたよね。後、転生前のありとあらゆる事象が、転生後の自己確定によって同様に、確定されるってことも』
『故に運命を打ち破るには……てか途中で日記読むの止めたせいで、前の周のイッチが魔王倒したのか分かんねぇ』
(聞く前に提示されているとか、おまいらナイス! 後はこれを子供に落とし込むんやな!)
『落とし込んだとして、三歳の語句選びじゃねぇ……』
『ワイなら語力の差に泣く』
『絵本からやり直せ』
『薄い本しかない』
オルカの発言から、書き込みが始まっていたのであろう。質問をする前に、返すべき方向が示されていた。
スレ主は考える。その間も様々な事が書き込まれ、オルカは静かに答えを待つ。
「ボクも……ボクも勇者に捕らえてる。でも勇者じゃなかったらきっと、オルカお姉ちゃんに会ってない! そんなのは嫌だ!!」
「……あぁ………………貴方に出会って、今になるように助けた時点で、私の未来は決まってしまった……ごめんなさい、お姉ちゃん、イジワルしちゃった」
「うん。好き」
「…………」
運命変動のピンチの一つは越えたものの、素が出て不気味さを植え付けてしまったスレ主。
言うまでもなく、スレ民のおもちゃである。




