実行と結果
「さて……オルカの部屋の捜索だ」
安価を確定させた彼は、第一目標の部屋を目指し思考を巡らせる。
単純に入った回数が多い部屋が怪しいが、ドラゴンは高燃費な側面がある。常に満腹に近付けておく為に、一瞬で胃袋へ流しているかもしれない。
ならば着いた日に彼女が、開けられないように立っていた扉はというと。抱かれた状態で、部屋をつれ回されていたので存在しない。
『そういえばオルカちゃん今どこ?』
『あー、イッチまだ契約してないから』
(外で訓練中みたい。山火事を起こさずに〈ブレス〉出せるかどうかを挑戦しているんだそうで)
『いつか〈創河〉をやってくれるんだろうなぁ……でもイッチの嫁なんだよなぁ……』
自由な書き込みは、選択への悩みを共有してくれない。そうでなくなる場合は、何にせよ緊急事態に限る。
彼は壁に手を沿わせて歩く。幼児の体が故にバランスが悪いのを、どうにか耐えようとした結果だ。
『しらみ潰ししかないようだな』
『ちっ、俺の鼻なら見付けれたものを』
『前の体のまま転移した訳じゃないだろ』
『魂の嗅ぎ分けですか……お前、人間じゃないよ』
(まず、一つ目だ)
彼は、近くの扉を開ける。魔法努力による身体強化の賜物だった。
彼が開けた一つ目の部屋は、物置のようだった。魔具や通常の武具、それらの整備道具、後は雑多に積まれた用具達……。
『ドラゴン娘の物置だからな。100人越えても余裕やろ』
『呪われた装備ない? アロクル界みたいな』
『妙に手を着けると爆発するからな…あれは良いセッションだったよ』
『地下室に剣の台座があるだろう。扉を探せ』
安価になかった部屋なので、彼は横目に撤収した。
(では精査は後日という事で)
『なぜ諦めた!? 伝説の品があるかも知れないのに!』
『引っこ抜いて年単位で気絶しろぉ!』
『タルや壺は破壊してなんぼやろが!!!』
向こうの存在達は煩いものである。確り探索すべき部屋ではないのだから、スルーで当然のはず。
彼は次の部屋を開けた。
『物理法則もあったもんじゃねぇな……』
『これが将来、イッチを悩殺する束』
『一応、書斎でいいんかな? 大図書館みたいなもんやけど』
(書斎なんで暫く見回ります)
本と本棚が重力を無視し、青天井に置かれている空間に出る。
見回るとは言ったものの、彼は知らない言語に突き当たり続けた。
『now reading…』
『我らがマザーが本格始動した……!』
『これで俺らは分かるわけやな』
『えーと〈魔鉱炉心〉〈精霊隷属炉〉〈単純岩石の極限〉〈属性石と斥力〉〈領域論〉〈全能と全知の可能性〉〈淫系図解〉〈原初生命力〉〈廻環する魔力〉〈龍の語学〉〈魔法陣、実は勝手に描かれてる説〉〈局部成長率~種族別~〉〈ベッドとは性域、トイレとは不浄域、然れば職場は何ぞ〉……めちゃくちゃ集めてんな』
『100% complete. 久々に情報局したわー』
ククラが全てのダウンロードと翻訳中に、ゼノムがタイトルを読む。
魔法世界においては有益なものばかりである。恐らくオルカと勇者たる彼の強化の為に、集められたのだろう。
『どうやって集めたんだこれ』
『やっぱループしかないでしょ』
『〈万象庫〉から落と……いや落ちたか』
何にせよ、相当世界の根幹や未来を理解していそうな空気だ。
不思議空間の無量の本という説得力。恐るべし効果である。
(持って行ったらバレるかな?)
『こんだけあるし分からんやろ』
『甘いな……ドラゴンは鼻がいいし、各々にも格がある。魔導にあらば陣として機能し、神々にあらば門として機能する。彼女がそれで……自らの宝蔵からの出納に気付かないとでも?』
『咎められる事はないな……むしろご褒美では』
『俺も めっ! されたい……ママん……』
『ママん「私もされたかったわ……娘から……」』
『今からでも遅くない。ゼノム氏に頼んでTSさせるんだ』
『草吹いた』
『この国さ、やっぱ手遅れだよね』
『ビックリ外道人間:オオ=スンギ(199X~B.C.200)』
話題沸騰であるが、本題については全くない。ゼノムを参考にするしかない状況でもある。
(病んだら怖いんで、何も持たず帰ります)
『チッ』
『けっ、湿気ってやがる』
『乾燥機化して』
『クレイジーサイコを愛する気が無い者を、勇者とは認めません』
『つまり反逆された某女神は、うわなにするy』
『頭のおかしい人を亡くしてしまった』
『待って、ガチでアロクル目の前で、真っ白空間なんですけど』
何故か一人が死んだ(?)ようだが、無視して彼は次の部屋へ向かう。
開ける前から漂う香り。それも種類は一つである。いや、香りというのも正確ではない。ただ鼻がそう感知した。
(来たぞ……オルカの部屋だ)
『パンツ脱いでた』
『用途別にティッシュ用意した』
『こい! 鼻かみの時間だ!』
『異空間化してたら其処に俺ら飛べそう』
『何万種類ものおっさんのガチャを引くのか…』
『俺らってそういう意味じゃね"ぇ"か"ら"!』
間違いなく彼女の部屋である。スレ民も彼も、期待が膨らみ続けた。そして扉が開かれる。
ピンクの畳まれた布団が乗せられているベッド。ベッドの足元に、鳥の巣のようなオブジェクト。ベッドの反対側には机があり、日記らしい本と羽根ペン、インク、絶対に何か込められている両六角錐柱のクリスタル。
『女子なアイテム(偏見)あっても簡素だな……即座に逃走出来るように、最低限のものしか置いてないのか?』
『だとすると窓がないのはどうしてだ?』
『巣作りの練習してるな。頑張れよ』
『とりあえず布団を敷き、ダイブしてみよう』
『冷静になれば、部屋に入った時点で匂いに変化あるから、バレるよね』
品は少ないものの、恐ろしい事実が判明した。
彼がどう調べようと魔力痕跡や皮脂により、部屋か彼かの『匂い』に変化がある。一品でも持ち出せばアウトと言うのに、自室はそうでないはず、等とは言えない。
(逃げたい)
『AAAAAAA』
『逃げるコマンドは破壊されている。説得もボールも同様だ』
『水晶か日記か選べ』
『(全裸待機させといてそれは)ないです』
『お前が勝手に脱いだんだよなぁ』
『だが待てお前ら。これまで衣装ケースが無かったぞ』
『異空間収納技術なんて、持ってるだろ』
(日記と水晶で安価します……)
安価の結果、日記を読む事になる。机のままだと読み難いのか、彼は机から床に下ろした。
__ヤバい、可愛い。言語能力が極限まで落ち込む。幾億もの初めましてなのに、連れ去りたい衝動に駆られる__
そのようにゼノムとククラは意訳した。無論、スレは賑わう。
『ループもロックオンも確定したな』
『何で人外、愛が重くなるん?』
『オル子、それ野生やない』
『生 涯 被 保 護』
『イッチが大人になって逆転しても、ハスハスしてる構図が容易に想像出来る……』
『三才捕りの竜娘』
『通報した』
『訴訟も辞さない』
『マッマwww』
『これクリスタルの内容ヤバいぞ。そして俺の知る限り、視聴中か直後にオルカ登場だ』
『もっと前も読まない?』
(内容の一々への整理が着かなくなるんで、魔具起動する……)
最早、刹那の猶予もない。自分がこれに守られており、嫁にする気満々だった事実を、彼女の考察により自身も忘れようとしているのだ。
起動したクリスタルは、一人の男を投影する。当然、彼を大人にしたような顔だ。
__きっと、この体も跡形なく使う事になる。だから数日しか持たないだろう封印だったんだ。僕は人間のままなのが読める。無事でも長くて、あと114年しか持たない思考に、君が縛られる必要はない。……これでも、君が全てを投じて、僕を取り戻す気になるのも分かっている。そんな熱があったから、僕の側をお願いしたんだって……ありがとう__
直前の周の別れ……これを幾億回とやって来たのだろうか。
『クソ旦那やな。こんなん呪縛になるに決まってらぁ!』
『対抗策として別人の魂をぶちこむ采配。確かに正しい』
『それ、ハッピーエンドなんですかねぇ……』
『そもそもこの映像の人物の魂と、イッチの魂は別って決定してないから……』
『【外】勢なら何時でも変更可能だぜ!』
『つまりこのセリフもスレ民が考えた可能性が微レ存……?』
『そうなら余りにも外道過ぎるな。考えさせたイッチ』
(……ここで皆さん、速報です。通り過ぎる風切り音が聞こえました)




