潰れた横
「この部屋に玉座……つまりはオークゥが居る」
「ゼノム、先鋒から中堅として余と他の花嫁に向かわせてくれぬか?」
「良いぞ。じゃあ大将枠はお前らな」
「そういう、お前はどうするんだ?」
「副将だから嫁が全員抜かれたら出る」
俺はルシュフェルからの相談により、人員を決めた。
バグまみれの人外では、正規ルートでないため真のエンドは訪れない。輪廻転生させてでも、アロクルは俺達を使うだろう。
だからトドメは他人任せだ。勿論【外】未満には解除や貫通、無効化不可能な保護を、オークゥの魂にかけているが。
「因みに私はその中に入ってないぞ」
「ククラは特に嫁としての経歴が異彩であったな。まぁ、最初からゼノムの中なのも」
「性格じゃなくて性能で繋がるんだぁ……」
俺と同体のククラは出ない。戦力は激減だが、それが彼女らの覚悟なのだろう。
「開けていい?」
『良いぞ』
扉の向こうから開放の許可が出た。言葉に含まれる圧から、相当の楽しみである事が読める。
結局、あの後から会ってないからな。性欲的にも戦闘意欲的にも、暇が潰れると知れば…。
封印術式の描かれた扉を内側へ開ける。逃がす気のなさがよく分かった。全員が入れば自動で閉まり、通常では引けない段階だ。
「ようこそ〈勇者〉共。我は城主たるオウガ=ラグナログ。貴様ら〈人間〉が〈魔王〉と呼ぶ存在だ」
〈勇者〉達からの視線が冷たい。『いや、城主はお前だろ』と心の中が聞こえる。
「何故〈人間〉のみを狙った? 人間の性質は〈亜人〉も持ち合わせているが」
「崇高な理想など持つものか。ただ一点で感情のままに闇を持ち、厄災という魔を世界に刺す。それが〈魔王〉だろう?」
「………あぁ、これは排除しかないな」
「そういうものさ。故に争いが静まる事はあっても、完全に消える事はない」
「いつまでこの下らない劇会話をするの?」
レラースの問とオークゥの答え、そして〈勇者〉パーティーの女僧侶は冷や水を使った。1mmも間違ってないから、大した反論はない。
「行け! 愛妻達よ!!」
「敵うはずが無かろうて!」
だからGOサインだ。ククラ以外が飛び掛かる。
「〈時間断層〉」
「〈炉心之滅棒〉!」
シュアは時間進行の違いによる斬撃を、クレアは『炎の剣』を文字通りに出した。
「この程度では一層も破壊出来ぬぞ」
「〈真樹籠〉」
「破壊っ!!」
魔力的な壁は分厚く、オークゥにはノーダメージ。その壁ごとヤハラが包むが即座に、眼力で破壊される。
オークゥには概念を当てまくったからな……。元来、皇族だった彼女はより強大な〈龍〉を想像し、己が身体に顕現させているのだ。
「〈双煌射〉」
「〈空化〉」
「〈座壊〉」
「〈龍鱗界〉」
「〈環削〉」
「〈降龍〉」
「【混在無】!!」
「【一在】!!」
予想通りルシュフェルがメイン火力だ。とはいえオークゥは透かし続ける。
そして痺れが切れて【外】すら使用を始めた。ヤバい、世界が持つか心配だ。
一つ上の次元は、下にとっては圧倒的に大きい。無限の点、無限の線、無限の面積、無限の体積……そして俺達の【本体】は最外縁。無限の累乗の彼方さえ、小さいから通常(哲学)の目では観測不能となる大きさの世界。
降りる場合は分割しているのだろうが、それでも天災未満にはなれない。
「城に亀裂が?!」
「脱出は無理だ!」
やはりと言うべきか、空間が耐えきれず割れた。普通なら存在否定の【虚空】になるのだが、真っ白な空間に着く。
「さて、貴様ら。ここが何処か分かるか?」
「……俺は、来た事がある…」
オークゥが戦闘を中断して〈勇者〉達に問う。レラースはオープニングに当たる為、既知。他メンバーは、何はともあれ、他に敵が存在しないのを認識した。
「アロクルが住まう領域。つまり、真に女神の膝元だ」
「これが……俺達の上に………」
「神聖とは、静かなる祝福。何の間違えもない」
「流石は女神様だ。どうやって我々の世界を観測し、影響を与えているのか……見てみたい」
管理者領域。俺としては『〈運〉なしフィールド』のイメージしかない空間だ。
確率といったあらゆる可能性が排除され、入った時点で未来が確定する場。無論【外】の方が上位権力なので、繋がれば不確定な未来を創れる。
「ここでは全てが決定されている。我に対する言葉も、攻撃も、全て選択済みなのだ」
「……」
「その心の動きさえ………悲しきものよ」
堂々たる矛盾、感情と理性の摩擦、感覚と理論式の齟齬……それらを悩み、答えを出すも未解のまま終わるのも、【外】に因らないのであれば確定している事象である。
「何よりだ。ここに来た事で、我のこれまでも同時に確定された。〈魔王〉になるのも、力に目覚めるのも、嵌められるのも、陵辱も……他の可能性は消え、ただの少女になる事も、ただ皇族として在った事も叶わない」
「……つまり、お前らに殺された人々も」
「概算の人数を思えば、その人数だけ死ぬ」
ある時点での全てが確定した場合、その状況に行き着くまでの全ての変動が確定する。過去の確定……どれだけ変えられる可能性があったものでも、変わる可能性はなくなる。
「無駄話が過ぎたな。続けよう」
「あぁ………っ?! ゼノム、退け」
「いや、もう【外】の使用でガタガタじゃん? ルーシー達は休んでくれ」
「故に余は引けぬ」
「じゃあオークゥ頼むわ。ルーシーの立ち回りを変更させる」
「承知。アロクルを困らせようではないか」
オークゥの内なる重みは、この身で受けよう。




