予備 11
オウガ城の仕掛けは、特にゼノに対して悪辣だったと言えよう。何度もあいつは『挟まった』だの『済まん。帰国した』だの……。
秒で戻って来るが、逐一止まるのはあまりにも疲れる。集中力を高頻度で切り替え続けると、電気消費のようにエネルギーが激減だからだ。
「ゼノ。お前はもう、試すな」
「同意する」
「まぁ、たまになら……いや、待ち伏せを全員が合意した時だけだ」
「完全に世界を穢す行為ね。覚えておいて」
俺達は静かに語った。極まりが故に、感情表現の逆転が起きている。
「分かった。シュアに装備されておくよ」
「おいで~」
大人しく従ったが、我欲優先なのは変わらずだ。しかし、これでも連れて行く以外の選択はない。
魔王軍の幹部は遥かなる強者。ゼノによる強さの深淵を叩き込まれた存在達である。ルールブレイカーで基本な状態の集団に、正規のみで突っ込めば、即座に散るだろう。
クラッカー対策、空き巣対策、犯罪心理学………チーターはより上位の権能でしか、潰しきれないのである。
「お次は誰かな?」
「尻拭いを楽しむな」
「ん? 蒔いて芽吹いた強者を刈る。楽しみじゃあないか」
「確信して蒔いた種か。こいつがまだ〈勇者〉を名乗れるのが怨めしい」
この期に及んでゼノは〈勇者〉を剥奪されていないらしい。ゲーム的な異世界なのに、チェクはガバガバだ。
「ドーモー。ゼノ=サン、デース」
重厚で巨大な扉を蹴り上げた入室。中には誰もいないように見えるが、居るのだろう。
「……レラース達は入るな。部屋からも遠ざかって待機だ」
「四体目か? 塗り替えに時間のかかる〈支配者〉は」
「そうだな。そして今、お前らもターゲットにされた。頑張れよ」
俺達は即座にカラットに集まり、防御壁の中。それでも体は傷付く。
防御性能を無視して、物理的な距離は関係ないと魂を攻撃する。勝利条件を引き出す為の戦い方の極論だ。
それをゼノム達は『無傷』で立ち回る。何ならガードや反らし、いなし……〈エルル〉の最下層さえお遊びだったのかと、疑いたくなる。
「ナイフでも投げて援護するか?」
「あらゆる攻撃はやめておくべきだろう。〈支配者〉というのは『演算』の塊。『逆算』されてターゲットがより深刻になりうる」
「嫌になるな……分かってたが戦闘じゃ、お荷物だよな俺達」
「ラウル。ゼノムの行動は、身内と遊んでいると思え」
「……別の感情が沸いたぜ………」
ラウルの怒りは当然だ。厄災を降り注げるだけ降らせ、何の責任も負わずに帰るのだから。
自分たちが思う責任の取り方では奴らには『端的』な時間や経費でしかない。完全なる『死』すら、世界線の絶交という形で偽装したと聞き、創世も戦闘の余波で可能だとも。
「なぜだ?! なぜ倒れぬ!! 我が魔力は無限! この場より貴様らに向かう魔力など、ないはずだ!!」
「その通り。俺達は場の魔力を吸収してない。まぁ、『越えられる存在である』って話をまともに受け止めていたお前が悪いな」
「……そうであれ! 永久に戦いは続く!」
「面白い事言うね、その式、その精神。【神】への挑戦状だろ? やってみせろ」
誰の姿も見えないまま、声だけが響く。
魔力無限ってなんだよ。そしてそれらを十分に相殺した上に、反撃してる奴らもだよ。場の魔力が敵なのに、何の気なしに動き回りやがる。
「それでは教えて差し上げましょう」
「ぇぇ……ク…クラさん? なぜここに?」
「解析完了して、あんまり仕事ないのが読めたから暇潰し」
「では何を下さるので?」
「魔力無限のメカニズム」
実質負けているチートだが、理論は知りたい。本当に訳の分からないままでは、終われないのだ。
「一体、何処の何から魔力を引いている?」
「〈支配者〉は支配領域内の全てを扱える小さな全能神。なら領域内の魔力しかなくて」
「それでは直ぐに枯れないか? 到底、無限に至るとは思えんのだが」
「うん、普通だと持続はしないよ。『今』だとね」
ただの吸い上げでも凶悪なのだが……『今』だけでないのならば、二つなのだろう。
「『未来』や『過去』からもか……長く空白になるぞ、この土地」
「まぁ、採掘に前借りも出来るのはあくまで、うちのアレが関わらない範囲なんだけどね」
「それで…未来永劫の分まで引いて互角な彼らは、自前の魔力で戦っているだと……?」
支配の塗り替えは可能らしいが、それまで凌ぐのも不可能に思える。どうやっているのか、より分からなくなった。
「自前……それもあるが、ちょっと失礼」
「うげっ。俺の頭の中が回って」
「気持ち悪い……」
「……ふぅ…これが君の視点かい?」
「この管は魔力?」
「せやな。で、向こう見てーや」
頭や魂をパズルのように回され、魔力の流れがより具体的に見えるようになった。点な溜まり場と毛細血管、大動脈。自身に、床や空中にもある。
それでゼノ達を見れば。
「……ゴムの袋で遊んでんのか…」
「前までは30cmくらいだったんだけどねー」
ゼノとの繋がりが太すぎて、ネタなアクティビティにしか見えなくなった。というかこれ、分身への譲渡とかそういうレベルだろ……。
「あいつとはな……胎内回帰を何回かやっているせいで、座標値を即座に変われるんだ」
「ゼノがそこに居るとなりつつ、実際に使うのは別人か。只々、ゼノが飛び抜けているな」
「何度も見せられるな、あの化物」
無限を分割しているようなものだが、何も落ちるはずもなく……。
「ちぇりおー」
「さぁ、次行こ」
気軽な撃破が続くのだ。




