虚を抜けて
「んん?」
「ほぅ?」
「えぇ?」
【虚空】に籠るゼノムを引き摺り出す為に。そう思って来たのは、同時に三人。
「まぁ、貴様と我は当然として」
「何故、此処に来たのだ、アスカ?」
〈神龍妃〉と〈混天使〉は、ゼノムの娘たる〈九尾〉に疑問を持つ。
実子……しかも遺伝子の違いにより、父を雄として認識しているのだ。余計な心労となるのは目に見えている。
「心配したから…将来の夫を」
「有能株ではあるからのぅ。案ずるな、我とルーシーが解決すると約束しよう」
〈神龍妃〉オークゥは事件の解決を約束した。確信しかなかったからだ。
ゼノムの妻にされた者は、ゼノムの操作をする必要に駆られる。マイナスやゼロに針が向かった時、下半身本位のプラスに持って行く。感情の揺れにより顕れる現象に対処する。
今回もそういうものなのだと。
「………でも」
「分かるともアスカ。自分がしたい気は、芽生えてくるのだから。ただ、やって駄目だった事を抱え、闇に落ちそうな者を、やる前に止めるのが先人なのだ」
親の、年上の、先輩の、そう言ったものを真似るのが子供。そして癇癪を起こし、下手をすればその癇癪が根底となるのもまた。
単一宇宙にて、親の真似と解釈の異なりで、漆黒世界〈奈落〉に堕ちたルシュフェルは語った。
「何かして上げたいの! 生きてるだけで、良い訳がな……いじゃない……」
何のルート立てもなかった事に、アスカはここで気付いた。上手くいかなかったら、何を責めるか。そこまで読んでの、拒否だったのだと。
「申し訳ないが、あやつの世界は我ら妻で完結している。あの暗闇で子や交わった者が見えたのは、自分の魔素因子が入っていたからで、必要な存在かどうかではなかったぞ」
「あぁ、その通りだ。自分や妻を脅かしたり、或いは討伐対象に来ぬように、導くものの。その他の人生設計は『どうでもいい』が根底となる。奴にとっては『死』さえ自他共に、覆せるものなのだから」
新たなる肉体関係は必要ない。縦と横を消滅させるレベルの拒否もないので、増やす気がゼロという訳でもない。だが『完結していない』は虚偽と言える。
「あの~………」
「どうした、変態?」
「どうした、セクシャルコメンテーター?」
ここは【虚無】。一定未満は存在が否定される世界。故に、存在可能な者同士となれば、何の遮蔽も湾曲も起きない。
全てを聞いたゼノムは思考を巡らせ、聞こえていた事のみを伝え、突き刺された。
「ふぅ…無だ……」
「堪能した後にほざくな」
「ただの虚脱であろうに、真の賢者の振りをする……」
「出会った瞬間から愚者筆頭だったろ俺?」
「まさか、精神が未熟のまま神の領域を侵すとはな」
言葉の鍼に刺されたゼノムは、自虐をしつつ戻る。過去の基点世界とは違い、必要なものは実力と通す意志のみと知っているからだ。
「最初から【神】になるのは確定していた」
「なっているなら努めてもらおうか。あらゆる仕事への報酬は、前払いで決済されている」
「パパーおしごといってらっしゃーい」
「……アスカは自力?」
「そのようだ。其方の過去を見れば、どれだけのコストを捧げたのか分かるだろう?」
「何発だろうな……」
ゼノムが立ち、一点を見つめて光の穴を空ける。ルシュフェルとオークゥが手を取り、引き歩く。アスカは後ろから手を振る。
「こうやって済まないがゼノム」
「何だ?」
「余は、まだ向こうでは会うつもりはない」
「我も同じくだ」
「それで、何故まだ手を?」
その声と同時に、ゼノムに繋がれた手が脱力する。ゼノムは察した。
「「そぉい!」」
投擲であると。
光よりゼノムが、天を目指して射出される。
彼の〈闇〉より生まれし軍勢は、本体を染めんと後を追う。が、ゼノムとの距離が物理的にも近付いた妻達の加速は、軍勢を凌駕した。
「ゼル!」
「ゼノ!」
[安地]
「ゼノ ム!」
ゼノムの視界をシュアが埋め、両脇をヤハラとクレアが抱く。ククラは一体化を済ませ、存在が強固に紐付けられる。
後の処理はゼノム任せの為、シュアは結界を張る。
「何アレ」
[お前の心理を糧に生まれたヤツ。無限召喚されて堅いから、ここまで増えた]
「ルーシーやオークゥなら、俺と≠だからって即座に全滅だが……」
「後方支援向けの私達に、火力を求めないで!」
「世界圧縮。禁止されて、他がなかった」
「還しても止めても動くし、経年劣化はないし、斬ったら増えるのも居たし……」
ゼノムは自身がグズッた間の愚痴を吐かれ、自らの大きさを再認識する。
「あんなもん一体でも逃すな! 世界が終わるぞ!」
「急げ! 隙狙いで遠方に潜み始める!」
「余計な犠牲者出さないでよ?!」
「下下下下下下下下下、下、下、下下下下下下下下下下!!」
パーティーメンバーは余裕そうだが、〈勇者〉は混乱している。
「そうだ、n人組手しよう」
[馬鹿だこいつ。超範囲即死あるのに使う気がねぇ]
ゼノムは〈闇〉の性能を、ボディは同等と考え、ならば肉弾戦がスキルアップに都合が良いと、勝ち抜き組手を始めた。




