混沌の世 2-7
「何故、こちらに?」
「いやすまん。シュアに散歩を頂いていたら、ここに着いちまった」
「引っ張り過ぎだよゼル~」
俺が犬となりシュアと散歩していたら、バルザの所に着いてしまった。
「流石にこの消耗では、父上やシュア様を一瞬でも人質に出来ませんね……」
「んで、相手は誰だ?」
「やはり『暇な奴、行ってくれ』という指令でしたか。手紙にも名前はありませんでしたしね。相手は〈木王〉です」
「あぁ、燃やせないよな。ま、頑張れ」
木製の不燃物という奇跡を相手に、永久の日輪となりうる〈聖緋龍〉がどこまでやれるのか。生で見てみたい気持ちはある。
だが今は散歩の時間。実質的な別荘に、お邪魔するルートではないのだ。
「ほら、行くよ」
シュアに手綱が引かれる。犬らしく飼い主に従おうではないか。
「ゼェエェェェノォォォォォォオォォ!!!」
「見つかっちゃったね」
レラースだ。殺意が濃い叫びと共に、犬形態の俺に聖剣が迫る。
「遊ばないよ?」
固定された時空間を斬れずに、レラースは反作用で姿勢が崩れる。
乗る時はのし掛かりから、顔舐めだが、今は離れたい。しかし繰り返すが散歩なので、そう速くはない。彼らでも追い付けるだろう。
「貴様! 実子を何だと思っているんだ?!」
「親の思い通りにするのは悪だが、数多の賛同者と実働のそれに反するなら、実子でも同等の対応をするべき」
「ゼノムさん……僕、待機ですか……?」
「〈木王〉セイコル、娘を追わずに大丈夫か?」
「ええ、〈勇者〉に発見されてから、封印状態で誰も動かせませんし、危害を与えるのはより不可能と」
恐らくシュアが、無言の刹那でやってくれたのだろう。さて、まだ納得いかない様子だが。
「そうですね。父上は母上の『懐妊、出産、子育て』が主の軸で、私の『成長、将来』は二の次だったのでは? また自身が他者の手により時を戻り、未来を変えた事で『どうとでも取り返せる』と考えていても不思議はない」
予想外だ。レラースへの回答がバルザから出された。
自分の記憶を巡る。論点は主軸か二の次かであり、正当かどうかは自分の中にもあるが〈万象庫〉にもある。
ここで間違えるとククラ警告からの〈奈落〉直行だ。バルザとの修復時間さえ、先伸ばしになってしまう。
「……女達7、〈人間〉絶滅2、自身が呑まれる葛藤0.5、そしてお前の生に0.5。二の次どころか、かなり軽いようだな」
「どちらとも、攻撃性でしか威を示せない存在でしたからね」
「……おい、バルザ……何でそんな顔が出来るんだ……?」
「何でって……泣こうにも父上の思考に納得したので、笑うしかないでしょう」
それは冷笑か嘲笑か。
だが、運命はそんなに変えられない。刺客が大切な者を変質させようとしており、それを殲滅、無害化する。その刺客は親からであると。
「お前の人生は」
「えぇ、ですからこれに抗って認めさせてやるんですよ。少なくとも……〈亜人〉に種族を変えぬままに」
「寿命問題による、一瞬の輝きとなるがな」
「そう言う父上も【虚無列】後で過ごした時間に、追い付けていない」
格式の高い〈龍〉であるが故に、その命が尽きる事はそうそうない。
「…あぁ、父上が結婚そのものに微妙だったのも、彼女の輝きを失った後を考えて。という話ですか」
「溺愛してた二つが完全に消えてから〈世界終焉〉だった。まぁ、最後のゴリ押しって話」
「確かに彼女の死後、悠久の時の中、転生体や写し身の存在を探さないと約束は出来ない。ならば最初から、ほぼ不老不死の私に合わせておいた方が、将来に何も起きない」
しかし眼は『それでも』を言いたげだ。分かるとも。シリーズ恒例で、後々使う事になるだろうアイテムを金策の為に売却し、必要になった時に足りず過去の自分に、怒りか不快感が向く。
結局のところ後悔が見えているが、ここで引き下がるのを良しとしない。
「ふっ…では消えるとしよう。シュア」
「見るんだよね?」
「あぁ、見届けないとな」
話の終わりを察したレラースが飛び込んで来る。が、一撃も入らずすり抜けた。
〈エルル大海溝〉のゲーミングドッグとは、また異なる方式での『防御』の極論。攻撃をする事はしばらく無いため、本当に無敵となり、ついでに姿も消える。
「ちっ! 逃した!!」
「むしろ追えたら俺達じゃねぇよ! それより、封印が切れたはずだ。急ぐぞ!」
「おうっ!!」
〈木王〉とバルザが対するには〈勇者〉はお荷物だからな。では見せて貰おうか、お前の覚悟の火を。




