予備 8
「何という……何という悪書だ………」
あの後、ゼノは壁を突き破り何処かへと飛び去った。現状、悪影響でしかない本を〈転移〉でばら撒きながら。
「これら全種を回収せよ。全権を使い、そして処分だ」
「承知致しました。生態や内装、政治に軍の様子が詳しく記載されておりますが、そのページ自体に細工があれば、懸念される事象は直ぐでしょう」
内容も形態も様々な本だ。図鑑があれば、漫画や小説、雑誌と新聞、その領域での安売り広告まであった。
これで、軽くても何人かがゼノ・クラックや〈魔族〉の思考に、理解か共感を示す。人数が増えれば、目も当てられない。いや、人数が少なくとも、〈人類〉生存圏の中枢が共感してしまったら、致命的な裏切りが発生するだろう。
実際、対戦に応用可能な情報はあった。問題はその情報が書かれたそれを、どうするかだ。
俺達は〈エルル大海溝〉で『何でもあり』戦闘を見た。圧倒的に違うのは『世界』の理解力だったと分かった。最早、自分たちが呟き、空に消えるような『○○が某だったらXXXが出来たのに』といった妄想を、実用、実行可能にしている。
そんな奴が大盤振る舞いした本……奴が好きでかき集めて整理した〈魔族〉情報の本だ。ただでさえロストの可能性を低めそうなのに、本を生物にでも分類させ、回復の魔法で『復元』を出来るようにしていてもおかしくない。
一度でも手にとれば『所有者』となり、自動で戻るようになっているかも知れない。
これが魔法が存在する世界の現実。ありとあらゆる事象に『魔法』が絡むせいで、疑心暗鬼になり、使えたはずのツールを削除する。
「……レラース様」
老爺が話かけてきた。手には本……間違いなくゼノが配ったものを持っている。
「済まないが王より、その本の類いは回収せよとのお達しだ」
「ではせめて……〈森の民〉の本国の風景は、この本の通りでありますか?」
同じものは見ていないが、きっと大木や蔦と独特な形状の家と〈世界樹〉を中心とした神殿か城かが、載せられていたのだろう。
「残念ながら、私は………そこまでたどり着けておりません」
「そう…でしたか……このような事をしている暇ではありませんな。ささ、このようなものは、共通になる前にお早く」
「ええ、その通りです」
その通り。前人未踏の地を踏み締め、書き記したものを広めた男は〈魔族〉側に居るも同然だ。
そんな男より、明らかに何処も踏んでいない俺達を、単純な目線で信用出来るだろうか。同等と見れるだろうか。
それにより発生した流れの何処に、罪があろうか。
「……それで絶滅したら、生物種として可笑しくないか? ん? これは……」
何か紙を蹴飛ばしたようなので拾ってみる。
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種族:人間
〈粘性類〉とは異なる可能性の獣。その繁殖可能域は〈小怪〉や〈猪者〉と同様であり、しかし〈人間〉に固定される事はない。
知能は非常に高いが、故に逆転する事が多々ある。情報処理の多さと早さにより、重要視するべき情報を忘却するのもよくあり、非本能の愚かさを見る為に創られた存在と結論される。
なお【人基点世界】における『最初の生命創造』については非常に堅い統制がされており、原理は判明すれ
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最悪のタイミングだ。ゼノが見計らっていてくれた方が、まだ筋の通る。
『非本能の愚かさ』という極端にして正解。矛盾を抱えるように、種も世界も出来ているのだから、抱えない状態こそ違和であると。
誰かが発狂して破いたのだ。解を見つけた狂喜か、否定材料のなさに破壊したか。指紋や魔力を辿れば分かるが、やはりその暇はない。
「…………」
「あの状態の人には話しかけられん……」
「そりゃそうだ。全滅…だったんだろ?」
「あぁ、ほんの数分の心中だ。全く、ゼノめ…」
カラットは神殿方面に向かい、そして地獄絵図の完成を見た。
遺されたのは何かの為に、利用していた者達だけ。純粋に〈アロクル〉に救いを求めていた者……主たる大神殿に居るような者は全員、自害。
『書物より探す程に、拷問により聞きだす度に、信仰の奇跡を実証していくうちに、これこそが真実と証明されておった。なれば、我らの努めは不要。時代の終焉の為に、悪の塊か同志の皮の民に、殺意を向けられるより早く、我らは〈女神アロクル〉の元へ行かん』
整列させてあった遺体の先から、恩師がそう言って終わったらしい。
「信仰の大源が悪を…試練でもない悪を振り撒いていたんだ。前世からゼノ・クラックにより、曲げられたとはいえ」
反抗してゼノに消滅させられたり、脅迫や操作されていれば良かった。そうではない、と過去の事実を探り絶望した。
「これさ……配るのここだけじゃないよな」
「当然だ。話によれば、3年前に初版が出ていた」
「情報源は」
「もちろん〈亜人〉だ」
波は目前。視界は不快を極めるくらいに真っ白。




