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予備 6

「格闘猿が〈転移〉してきたぞ!」

「遠距離対応カウンターだな。砲手殺しという攻城戦、艦隊戦の基本なんだが、個人に発動させる鬼畜」

「こいつッ! どんだけ魔力あんだよ!!」

「〈アイボーラー〉HP反転型だな。苛烈だからって攻撃すると、逆に回復する。ん? ついでに支援型でもあるのか」


 『厚かった』から、まだぬるま湯かと思っていたが、待っていたのは怪奇な存在だった。


 ザツカの遠距離カウンターはともかく、HP反転型はもう訳が分からない。生命体としても物体としてもおかしい。


 魔法ならまだ理論的ではあるが、相手をしているのはラウル……ゴリゴリの物理だ。体が削れたり、斬れたりするはずのもので、どうして生命力が湧いてくる。俺にもある『ガッツ』の類いでもない。


「なっ」

「即死カウンター。お主に付いてる加護では、突破されていよう。面倒な骨よ」


 カラットは倒したものの、特殊効果にかかりそうだった。ルシュフェルに押されていなければ、塩になっていたのだろう。


「ゼノ! こいつは何だ?!」

「タイマン式スピード系DPSチェッカー。遭遇から時間がかかる程、強くなっていく布だよ」

「ソシャゲのインフレかよ、畜生!」


 壊れた世界だ。製作者の悪意が見えてくる。



「はぁ…カウンター中は無防備で助かった…」

「鎧と盾の使い方が上達した気がするぜ……」

「封印術の展開図を忘れていたら死んでるわ……」

「視界が真っ黒になった中で、勝てて良かった…」


 どうにか突破法を編み出して、大群を退けた。種族単位で固定されるから楽だが、察するに。


「さぁ、どんどん下に行くぞー。勿論、ボスレベルになると、特殊能力は複数持ちで当然だからなー」


 との事だ。これらより撃破条件が厳しいのが現れるらしい。


 このダンジョンは地獄である。上層の存在はどれも、生命体か何かが生命体を目指したものだったのだが…裂け目のあの位置から落ちたからにせよ、深部の存在は『こういう設定』が皮を被っただけ。


「あぁ、そりゃそうなるよな……」

「方向性が解ったのかな、レラース」

「あんなモノが居ては……抑止力であるが故の実験だ」


 階を降りて直後に居た、輪郭は何の変哲もない犬。その体はパチンコの演出のように、七色で発光していた。


「あれはこの実験場の一つの極論だ。戦ってみると良い」

「因みに、撃破は?」

「俺か? 絶対に勝つし、50体は倒したぞ」


 絶対にまともではない相手だが、譲られては戦うしかないだろう。


 幸い、この一体以外に敵はない。逆に今しか倒せそうにないのだが。


「何の条件があるか分からない! とりあえず突っ込むぞ」

「おうよ!」


 まずはラウルと共に、魔力を込めた剣での一撃を放つ。もう、どんな条件が来ようと対応しきってみせる。だからこれは、そのお試しだ。


「は?」

「透けた?」

「わん!」


 剣に何の手応えがなく、一瞬の思考停止。そして戻る前に犬が吠えた。


 吹き飛ぶ体と、様々な痛みが同時に現れた。ここは斬られた、ここは殴られた、ここは刺された、ここは抉られた、ここは溶かされた。


 七色犬はたったの一声。しかしこの体には、いくつもの負傷がある。


「条件がさっぱりだ……」


 何故聞かなかったのか、全く予想が出来ない存在だ。戦闘経験者のゼノが居なければ、当然のように全滅しているだろう。


「簡潔に言うと、体はそこにないぞ」


 本体は別という事だ。恐らく線で結ぶ事が不可能なところ。


「どうすんだ、レラース。一方的に殴られるだけだぞ」

「距離的な『そこにない』じゃない。微弱な魔力を纏うこの剣が、完全にすり抜けたんだ」

「肉体も霊体もないと言うの?」

「幻影ですらない。…ゼノは俺達の何が、条件に合うと判断したんだ……?」


 ゼノの方を見れば、見かけ上、ゼノの拳が当たり七色犬は吹き飛ぶ様だった。


 体はないんじゃなかったの、と言いたいが条件達成していないからの話だ。達成すれば普通に当たる。


「わぉん!」

「魔法ならば相殺は可能だ!」


 ザツカが火の玉を撃ち落としてくれているうちに、考えをまとめなければ。


「まだ分からない、よな。更にヒントだ。シューティングゲームとアクションゲームの共通点。以上」


 ゲーム的世界だから、攻略方法もゲームから推測出来る。そう言いたいのだろう。


 残機、時間制限、スクロール……いやそこじゃない。そもそも当たらなかったのは『体』の問題なのだから。


「ゲーム…『体』……当たる………当たり…判定……当たり判定がない……?!」

「その通り。ではどうやって、俺は当てているか分かるか?」

「……何らかの手段で発見したHPに、直接、ダメージを叩きつけているから」

「そこまで読めれば大丈夫だな。バフもデバフも〈領域効果(フィールド)〉類も試して、ステータスの変動を観測するんだぞ」


 観測したところで、どうやってHPにのみ刺すのか見当がつかない。何の〈スキル〉が有効打になるんだ。


「ともかくまずは生命力の確かめか……ザツカ! 毒煙の瓶はあるよな!」

「あるがッ! 巻き込むしかなくなるぞ!」

「構うな、やれ! ……済まない、ラウル」

「気にすんな。痛み分けの強要は、訓練としてやったぜ!」


 ザツカの魔法の嵐が止み、毒煙の瓶が七色犬の付近に投げられる。


 七色犬は飛び退くが、俺やラウルに投げ渡された分を使い逃げ場は消えた。


「ウォォォオォォォオオン!!」


 遠吠えにより空気の流れが変わり、七色犬に安全地帯が生まれる。


 このままではただの自爆だ。


「〈封楼(シルダット)〉!」

「グフッ! 分かってたが、体が重っ」

「仕方ないさ……反撃の準備だ」


 カラットが壁を造り霧散は避けられた。代わりに此方も毒状態になったが、必要経費。


「ふん!」

「そら、毒れ!」


 七色犬を毒煙に追いやるように剣を振るう。


「ぐぐるるる!」

「さて、多少の、変化があれば、良いが」

「ガオン!」

「ッ! 『体』は無くとも、爪はあるのか!」


 毒状態になった七色犬は、俺を仕留めようと押さえつけに来た。


 剣で弾いたところ爪に当たり火花が散る。爪の堅さは横に置き『体』と爪が同じではない事を確認。面倒さがはね上がる。


「おいおい?! 弾かれたぞ!!」


 死角からのラウルの剣がすり抜けなかった。『体』がないはずなのに。


「ダメージタイミングと無効…ならば…試しだ!」


 ゲーム脳が極まり、自身を蝕む毒の周期を察して、瞬間を待つ。


 ラウルから離れようとした時に、剣を七色犬に投げる。バックステップ直後に頭部へと刺さり、七色犬は倒れた。


「消失無敵の切れ目と毒ダメージ判定が合わさり、更に『近接無効』へ『飛び道具』を使用するとは……中々に貴重な撃破方法だ」

「……」

「〈正浄(クリーン・ブラッド)〉。『近接無効』って二人とも相性、最悪じゃない!」


 発想が間に合わなければ、死んでいた。


 しかし、ゼノの目を見れば分かる。まだ階は浅いのだと。

ゼノの突破方法:ダメージ計算が 敵現在HP-ゼノの火力 という防御機能の全てを排除したものとなっている。


アロクル「師匠ポジだから仕方ないね(白目)」

ククラ 「あのさぁ…」

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