予備 4
ゼノを連れて〈生存圏〉の防衛戦を済ませた。
時折、味方であるはずのゼノ狙いの攻撃があったが、ゼノはそれを利用して敵を葬っていた。
『俺を殺す為に培った全てを放つが良い。それを越えて更に敵を滅しよう』
自信たっぷりに煽る。過ちを許せない者達を、踏み込んで整地して行く様は、とある完成だった。
事情を説明して、どうにか一週間の時間を貰い〈エルル大海溝〉現在は〈センチネル〉と呼ばれる断崖に来た。
「飛び降りるのだが、その前に二つ説明しよう。まずこの下には__」
二重の結界。一つは強化や時限式の魔法の解除、もう一つは確定気絶というものだ。
気絶によってダンジョン内に生息する全てが、一方的に挑戦者へ攻撃を仕掛けられる状態になる。これの対応をしようにも、強化や仕込みの魔法は消え去り、非生命体でさえ一時的に機能停止。
「_結界スレスレで奥へ発動しようにも、弾かれる。パーティーメンバーの気絶からの帰還という、運任せを最初にくぐり抜ける必要があった」
極悪難度だ。足切りにこれ程、運任せを要求されるとは。
「待て、今『必要があった』と言わなかったか?」
「それが二つ目にかかる。この結界への対策として、嫁の一人がついて来ることになった」
確かに、この前居た白毛の〈獣人〉が居ない。一体、どのような〈魔族〉を呼んだのだろうか。
「因みに『奈落の途中で合流』との事で、恐らく俺達が降りてから、彼女も突入するつもりだ」
「……大丈夫なのそれ…?」
「心配するな。実力順の嫁順位で3位に大差つけて、2位に座するくらいはある」
つまり嫁同士で戦闘がそれなりの回数、行われているという事だろう。
改めて〈魔族〉側のとんでも世界を見せられる。
「という訳で………一斉に行く? それとも俺が先?」
正直、ゼノには絶好の裏切りタイミングだと思う。
俺達に先行させて自分は入らないのも、先に行って罠を置くのも、誰かが欠けた状態での戦闘開始も、ゼノに有利だ。
「一斉だ。それ以外はあり得ん」
「そうだな、気絶から起きるまで守りながらだと、ちっとキツイ」
「一度に死ぬかもしれないけど、一人で戦い続けるよりはね」
「うん、じゃあ一斉ので」
ザツカの意見に同意するのを見て、ゼノは崖から身を乗り出して、何かをしている。
「はい、あそこまで行くよ」
光の板が浮かび、最後の板はホテルの一室程度には広い。
「座標でダンジョンの何処に出るか、ちょっとずつ変わるんだよね」
「途中で落ちないよなぁ?」
「この板には隙間があるようでない。流石に板の外までは保護されてないが」
よっぽどがない限り、90cmはある横幅を踏み外す事はないだろう。
恐る恐る最後の板にたどり着く。ここから落下するのか…。
「この設備は、海溝の頃からあったのだろうが」
「聞いたところだと、水上の施設から射出もあったらしい。つまりは」
ゼノが板を拳で叩く。
古き文明は、高度なようで野蛮だ。
「おっ、やっと目が覚めたか」
「…ラウル、遅れてすまない」
「なぁに、向こうを見な」
目覚めてラウルが指差す方を見る。何が行われているのだろうか。
「インターバル、インターバル」
「良いか、雄はこのようにして使うべきであって、同等というものはない」
「いや……それは…」
結界の外にゼノが居り、カラットに協力者であるゼノの嫁が、落とし方を説いていた。
艶やかな黒い長髪、恐ろしく白い肌、白リボンの黒いロングセーラー服。ホラーも含めた、古きよりの学生もののメインヒロインが、優雅に紅茶を嗜んでいる。
「起きたか〈勇者〉よ。余の名は、ルシュフェル・ゼノクレイス=セプテム。ゼノ・クラックの第三妻だ」
一度は環境となるか、ラスボスであれ味方であれ強く描かれるか。そのようにしかなり得ない、名を持つ者がゼノの妻をしているとは_。
「ゼノの精神的には『夫をさせて頂いている』というような要素もあってな。夜遊びや協力を持ちかける事は、そうないのだ。理由は転移か転生であるなら、想像出来るだろう?」
正にその通りだ。致命的な読み違えから始まったとする説もあれど、既に広まりきった〈堕天使〉の名だ。妻にしたとして、支配『した気になった』状態こそ不味いと幾度も、様々なストーリーで記されている。
しかし、先の会話はいったい_。
「あぁ、余とゼノの実力差では余に勝ち目はないが、ゼノは余の下を行こうとするのだ。その癖は余と最初の遭遇からほぼ変わらぬ。生命の即死した〈帝都 ハス・テウス〉の、死体と魂で創られた〈召喚門〉へ知人の女の骸を素として投げ入れ、喚んだ余を一目見たその時からな」
出会い方からやはり邪悪な臭いがする。というか、そのような都市に聞き覚えがないのだが_。
「ん? 彼奴、話しておらぬのか。何ら問題ないとはいえ、余に齟齬をさせたのは許せんな」
理解が及ばぬまま、次の瞬間にはゼノが吹き飛んでいた。
「全感覚過敏、回復阻害、毒を付与した。この程度の負担は切り抜けるであろう」
「「「「えぇ………」」」」
殺す気としか思えない状態異常だ。これで力関係はゼノより下であるという、よく分からない関係性に思考は停止する。
数分間の無言の中、ゼノが『階の全滅』報告をし、結界が解除された。




