予備 3
「疲れたよシュア……」
「よーしよしよし」
「くぅーん」
軍勢を退けた直後、ゼノの理世的なストッパーが外れた。もはや、ゼノの方が犬である。
「全く……その調子ではいつまであっても、進まないぞ」
「設備なし、敵対者により遠隔魔術式は解除され、直接操作しようにも邪魔しかない。これで〈死核革肢〉を防ぐ為に、魔力は底まで残り〈灯〉一回、体力的にも意識を保てる限界ギリギリ。俺までの姿勢はなくとも、絶対に休憩を要求するだろう」
口が回っている。いや、自分への間違いだから否定したのか。
残存魔力、体力の両方が3割を下回った時点で、これまでは脱出、脱走してきた。連戦不能と見なしてきたのだ。
ここにゼノレベルのような、下の限界を迎えた奴はいない。
「ゼル、回復終わったよ」
「あぁ次は、精神的な疲れを搾り出して欲しい」
「搾るより圧迫した方が良いかな……一瞬だけ、宇宙の中心になってね?」
「それ完治に20時間かかったやつじゃん」
言語の理解は及んだ俺は、そもそも完治する方がおかしいと思った。
流石にレベルキャップが外れたように思えるので、ゼノに問う。
「ゼノ、どうしてお前はそこまで強いんだ? まだお前は〈勇者〉のはず。〈勇者〉は人類の生存圏の拡大、或いは〈魔王〉を脅かす状況にならなければ、そうはならない」
「んまぁ、色々とあるが分かりやすいのは……そこの神官、〈女神の真実〉とかの、呼称が付けられてる奇跡の実があるだろう」
『奇跡の実』それは実質的にRPGとは切れない存在。消費型アイテムによる素ステータス上昇のものだ。効果はあるものの、形状等はただのリンゴでしかなく『どうこうあって、色々と実験した結果、朝に食べたものが〈女神の真実〉だった』というものだ。
「食べ放題…か……おい、それは何処にあるんだ?」
「簡潔に言えば〈世界樹〉内で育てている。〈森人〉が主任だし、種族的に最も多い職員であるな」
「これはまた」
また、非人間である。コイツ…さては〈人間〉が苦手だな? 何はともあれ、関わりが薄かったのだろう。その割に道理や心理を解く暇はある。
「しっかし、お前は相当に〈魔族〉と関わったようだな。嫁は何人居る?」
「妻と公言しているのはほんの五名だが、手を付けたとなれば……各々の種族的見た目別に、一人以上は居るはず」
『人外好きオタク』だった可能性が一番高い。撫で回しているシュアという女性は、妻の他に『牝、ペット』の要素がある。その他の種族も同様に、前世より明らかな差が出る。
「そうか……それで、手を付けた者達のその後は?」
「産むまでは確実に俺の側。丁度、あの建物の中身くらいの距離には居させた。産まれたら、帰るか側に居続けるか選んで貰った」
あのような機関を可能とし、何なら一人で稼働させた男だ。重婚どころではない人数になるのは、個人が圧倒的に優先されかねない『魔法世界』で当然なのだろう。
〈女神アロクル〉を基準に行動する〈人間〉も、〈魔王〉オウガに与する〈魔族〉も、ゼノ・クラックに群がる存在達も、実在する大いなる個人に依っているのだから。
「それで帰った者達が、立ち塞がっていたという事だな?」
「いやぁ、流石に戦死したとかなら情報回って来るだろ? 帰った奴ら本当に音沙汰無し。ちゃんと故郷まで護衛したし……後世に希望持ちすぎて、張り切ってる方が自然じゃない?」
ザツカが苦戦の元凶を推理するが、ゼノから否定される。
確かに、妻と公言されずとも子は子であり、また責任を負わせようとする女性が一人も居ないのは、不自然である。ゼノが惚けている可能性はあるが。
「それでもお前がヤっていなければ……」
「よしよし、まだこれは近い影響と言えるから俺に言われるが、自分が原因で死んだと言える存在なんて、何人でも現れるさ」
「近いも遠いもない! 己が罪を認めよ!」
「…まぁ、ともかく処刑するにしても、色々終わった後にしろよ? まさか大戦力を削るなんて真似はしないよなぁ」
カラットに内心と外面の正義と、バタフライ・エフェクトという二つの問題を投げる。
そしてゼノに反省はない状態。だが、戦力を削る事はないので、真摯に一早く断罪を求められた方が、闇に戻りそうであり複雑だ。
「ゼノ、他に拠点はないのか? お前さんなら、あんな風じゃない所をいくらでも創ってそうなんだが」
「いずれ狙われる事を想定して、避難の訓練もされていた。確かに狙われないものもあって不思議はない」
ラウルとザツカがゼノの拠点を聞いている。そうだった、明らかに〈女神アロクル〉や〈魔王〉以外からも、狙われる理由があるのだから、そうでない場所も用意していそうなのに。
「ないことはないけど…はっきり言って激戦区だぞ? 属性や種族的に〈魔王〉より撃破難の存在が出るような場所だ。それに一度入ったら、かなり長期間出られない。〈魔族〉の進軍も止めるのも使命だから、行かない方が良いと思う」
そうか……ここは『ゲーム』のような世界だ。〈魔王〉は、大体『ストーリーモード』というやり込む前段階の存在でいわば『通過点』や『フラグ』。それを越える存在が居たとして『ゲーム』としては、何もおかしい所はない。
現実的に見れば、何故そのような強者を〈魔王〉にしないのか。
「だが、行くぞ」
「目指すは〈エルル大海溝〉、あの割れ目の真の名さ」




