予備 2
リミットブレイクし過ぎたら
ムードブレイク・ワールドになるぜ!
後悔も反省もしてない
やっと見えた人影。基礎能力の違いは圧倒的だ。同じようにレベルキャップがあるはずなのに、どうしてそうなる。
俺が着いて10秒程後にラウルが到着し、それより40秒後にザツカとカラットが同着。
待っているだろう間にゼノは。
「ふぅ……二度おいしい……」
「わん!」
さっきは女性の姿だった狼………犬を撫でていた。
こいつ…平和を感受して良い存在か? が、否定の遂行は、それこそ争いの種以外になり得ない。
「集まったな。それじゃ、解除っと」
結界にゼノが触れて解除され、家が外観を露にする。
「…凝りの塊かコイツ…」
「何とも飾らない建築……機能としては極限…か…?」
ビル…そう、ガラス張りのあのビルが出現した。
異界に来て、前の世界の再現をするのは二択。再現に伴う技術を目的とするか、再現そのものに意味があるのかだ。
思考が言語化される前の段階で、吹っ切れていたと思い、再現そのものに凝ったと呟いた。
ザツカは機能を考える余裕はあるが、ラウルとカラットは未知に絶句。
「中は異世界に合わせたから、二重に異色だぜ?」
そしてエントランスに入り、今度ばかりは俺もザツカも、言葉を失った。
中央に地球儀のような幻影が浮かび、その上は吹き抜けのよう。一階には様々な店舗が存在し、そもそもビルの底面積より広かった。
大体のデザインは、主人公が属する組織が『宇宙蛮族』と呼ばれた事のあるMMORPGの拠点に近い。
俺の記憶上は新しくないが、区域レベルは圧巻だ。サボりで完成させていなければ、歓喜のまま感謝をゼノに伝えていただろう。
「はい、中央行くぞ」
「あぁ……俺達、別の世界に来たのか?」
「余りに高度……故に人から離れた……」
「ここ、残るよね? 〈魔王〉で維持されてる訳じゃないよね?」
ラウルは夢見、ザツカは暗い納得、カラットは俗欲……いや、生活の完成を優先した考えを示した。
中央に来て吹き抜けを見上げた。層があるらしく、蔦や枝が絡まった層や、水が宙に浮いている層がある。
「地下へ参りまーす」
そうゼノが言うと、デザインだと思っていた床の一部が上がり、エレベーターが出現した。
「なぁ、これどこまで下がるんだ?」
「到着した場所を見れば分かるさ」
乗ってからの質問は躱される。答えは落下する感覚のないまま、到着し降りた瞬間に追い付いく。
「星の中核…だと…?」
「あくまで、この世界の場合はこうなっているってだけだろうがな」
中心から、黒の穴、白から青、赤や橙の光の層、そしてマグマの層。一つの世界の真実を見せられた。
「ゼノさんよぉ、これで何が分かるんだ」
「星の息吹きとも言える強力な魔力の動き。大災害や凶悪な魔物、ダンジョンの発生が読める。ラウル、これを使えるなら、あらゆる体勢が整う」
「追加するならば、国や拠点をつくるべき場所か。…成る程、神々の曰く付きの場が線で繋げられるのも…」
「おいおい、俺の家だぞ? 紹介前に考察を始めんなって」
ラウルの質問に俺とザツカが答える。きっとここは、動力源観測所でしかなく、中間や地表にも観測所が置かれている。
「「「お帰りなさいませ、総長様」」」
入室から遅れて、挨拶が入る。もっとも、一切こちらを見ていないが。
「おつー、ぶち込みや防壁は?」
「予測では116:40:51後に注入、117:47:09後に遮断壁発動です」
「了解」
本当の世界への脅威はこいつではないだろうか。星の心臓の活性も腐敗も思うがまま………。
それ以上は何も話さず、ゼノは歩き始めた。俺達も静かに付いていく。
「ゼノ……これを建造していたから」
「計画スタートから、二ヶ月なんだよなぁ」
「チートかよ」
「〈吸血鬼〉が設計し、〈森人〉が量産し、〈巨人〉が小型高性能化してだな」
二ヶ月。砦の落とし方を試行錯誤していた間に、ファンタジーの技術力がSFになるレベルか。
恐らくだが、各々の種族や家系にある秘伝を余すことなく、使用したのだろう。
「途中で邪悪なる豊穣の女神が出たりして、大変だった」
「〈生動木〉が増えたり、神殿の〈聖木〉が茂った原因は、それだったの……」
「邪悪とはいえあくまで性格……いや、俺達が【邪悪】と思うような使い方しかしないだけで、属性まで〈闇〉に染まる存在ではなかったからな」
余波で地獄絵図をつくる存在さえ喚べる。〈魔王〉オウガの討伐に乗り出さない理由が、言った通りの感情論以外では説明不能だ。
「ここが客室だ。しばらく待てば飲み物はくる」
「木製……そうか、非生物的な岩や鉄よりは木であった方が」
一風変わって質素な部屋。ギャップの衝撃にザツカは、発想が前世界に追い付く。
置かれているソファに腰掛け、来てから膨らんだ疑問をぶつける。
「ゼノ・クラック、星全体へ影響を与えられる施設など造って、〈魔王〉征伐を怠けるとは、何がしたい?」
「…そうだな…。まず、この施設の目的を話すが、予想してみるか?」
真面目なのか否か分かりにくい。しかし、俺が答える前にカラットが突っ込んだ。
「〈女神アロクル〉様に成り代わるつもりね! 今に天罰が降りなさい!!」
「あぁ、惜しいな。確かにこれは〈アロクル〉の代用となれるシステムだ。だが真意はそこにない」
神の代変わり。しかしそれを野望としないのならば……。
「真意は「神からの脱却」」
「いくら何でも、そこまでする必要はないだろ」
「ふっ……実際、〈魔王〉を生み出したのは〈アロクル〉であると言うのにか?」
「そんな馬鹿な事………!」
ゼノをある程度、理解したので答えを被せた。そして話の続きは、〈女神アロクル〉が〈魔王〉の原因と。
そりゃ、カラットはキレるわ。どうにか宥めて座らせたが疲れたよ…。
「彼女はね。蒸気を見て疑問に思ってから、空気の違いを発見し続けた。そして許されざる禁術とまだ許される禁術の二つを創った。許されなかった術が元で、運命はトコトン闇に落ち、最後は絵画に封印されたそうだ。この話は、許された禁術で生き永らえた同時代の存在から聞いた」
「最初からそういう宿命だったのでは?」
「本来であれば、世界破壊思考も技術も制限出来る立場にありながら、それをしない。少なくとも、あらゆる命への軽視が見えたんじゃないか?」
何とも難しい問題だ。〈女神〉との呼び名が広まっているが、その実、行動を鮮明に記すならば創世神の方が似合うレベルだ。
そのような創世神が、〈闇〉属性などを手付けずにいたのだろう。確かに元凶と言える。
「例えそうであれ、被創造物どもの不完全なままの集合だ。綻びが出ぬ訳があるまい」
「諦めて、その癖、戦乱などの悲鳴に共感して泣くのだろう。限界までやろうとする者を、そう抑えて」
「それは……」
言葉は続けられなかった。
突如、鳴り響く警報に身構えたからだ。
『予想通り、〈魔王〉の手先が侵入した! 総員、コピーデータを持って避難せよ。なお、他観測所も同様に襲撃されていると思われる。その他の場を目指し、この場を去れ! 繰り返す__』
『予想通り』……元より〈魔王〉に対抗しうる戦力だったのだろう。そしてその研究の粋はここだ。
「さて、レラース。どうして〈魔王〉が破壊工作に動いたと思う?」
「目障りだからだろう。自分の支配を磐石にする為の」
「それか。ところで、そこの方は貴族か?」
「…何が言いたい」
自分は少ししか合わなかったからか、ザツカにゼノは対象を変える。確かにザツカは貴族からの者であるが、何の答えが欲しいのか。
「正義たる長が暗部を動かした事は、最近あったか?」
「あったな」
「この襲撃はそれが答え、だ!」
ゼノが拳を突き上げると、〈死霊〉が姿を現し天井に穴を空けていった。
「喋る暇はなくなった。敵を叩くぞ」
「癪だが、敵が〈魔王〉より送られたとなればな」
「あんたも死ぬなよ」
「貴方に回復はしません」
「脱出戦だ! ゼノの事は気にせず行くぞ!」
まだ整理は出来ないが襲撃は襲撃。対処しなければ次はない。




