予備 1
「ボボ、ウッホホ」
期待と〈女神〉への裏切りを働いた〈偽の勇者〉ゼノ・クラック。その男が近くに居ると判明し、颯爽と問い詰めに来たのだが。
「シュア、音程はどうだった?」
「ちょっと高いからそれじゃこの地域だと、警告じゃなくて決闘の威嚇になるね」
「ブレ修正のククラさん有能過ぎ…ボボ」
「二回目を目一杯下げたらどうかな?」
類人猿の動きと鳴き声を真似て、内側より支配する為の訓練だろうか。それにしても転生した事もあり、気まずい。
勇んで来たらサルの真似の努力の現場だ。『あっ、ごめん』と言って扉を閉めたくなるが、ここは野外。
「どうすんだレラース?」
「流石にあの状況に突っ込む気にはなれない。撃破ではなく説得が目的なんだから、話せるだろう時を見誤ってはな」
RPG…いやファンタジーにおいて概念、スキルヘッド男戦士、ラウルが判断を任せてきた。
「私としては見定めとして一つ魔法を」
「止めろザツカ。お前の示威行為は、毎度のように洒落にならん」
「あくまで、取り返しが可能な範囲ですがね」
いつ見てもまさに貴族服の尖り黒髪男、魔導士のザツカが未発見クリティカルを相談してきた。
「ザツカ、任せなさい。貴方が撃った直後に〈無陣営領域回復〉を放てば」
「止めろと言っているだろ……!」
俺は、ザツカに賛同した赤長髪の女神官、カラットをどつきに行った。
パァァン
とんでもない大音量で、小枝が割れる音が響いた。
俺の力の込めすぎなんて事も、特殊な植物である事もあり得ない。これは確実に。
「すまない。非常に見苦しいものを、見せてしまったようだな」
謝られたがこいつらの仕掛けである。大方、鳴き真似を届かせた後の反応を、より分かりやすくする為のものだったのだろう。
「成る程、その姿…となるとレラース・コスモは…お前か」
「初めてだなゼノ・クラック。俺はレラース・コスモ、お前の不始末を処理中の男だ」
〈女神アロクル〉から既に、こいつも転移者だと聞いている。正直、ろくでなしを何故、選別したのかを二時間以上は釈明させたかったが、神格との通話は短いのだ。
「不始末ねぇ……確かにそうだろう。本来からしてみれば、現れる前に終わっておくべきものなのだから」
「分かっておきながら、何故だ?」
何かあったのだろう。些細でも、価値観は千差万別、或いは二元。それを発端に精神が変わり、言動が変わる。割り切ったはずのもの、通ってきたものに躓き、時には折れて自棄に破滅に。
「最近、やっと言葉として見つけたんだ。魔族…いや、〈亜人〉側の家族をも守らずして、全ての平和はないのだろうってな」
……彼の有名なスパロボに『○○に乗っているならば人間ではない』と、殺害の意識を薄める方法があった。身体的特長や魔力量等で〈人間〉ではないとして、人権、その始めである生存権の否決執行をしてきたのが、ここの〈人間〉でもある。
生活域を守る為に、血が混ざらないようにする為に、ある程度の観点から『自分たちとは異なる』とした相手を排除する。生態のあるゲームで別種が争う姿はそれ。繁殖や餌場、ヒエラルキーといった目的があれば、現実でも幾度と起きていただろう。
「下らぬ。その程度の事で、全人類を脅威に晒されてなるものか」
「そうさ…そうなんだ。だからこそ、いつまでも争う。例えここで〈魔王〉を討てた所で、散り散りに〈亜人〉は逃げ、逃げた先へ〈人間〉は討伐隊を組み、勅命と天誅として殺し、その種なりの生活を壊すだろう。この仮定の流れを切り捨てられなくなったのさ……」
あり得ない、仮定にも程がある。それを言い訳に人を殺す野蛮さがあるから、討伐隊を組まれるのだ。
そう吐けたらどれだけ良かっただろうか。平均的には、魔力や肉体的に優位な種であったとして、一切の非戦闘員が居ない訳ではない。それらが逃げた先に、追い討ちをかける行為……これを種族単位で〈人間〉が決してしないと誰が誓えようか。
口先だけの誓いであっても、契約や宣言である。これをどちらも破り続けたが故に、この現状なのだから。
「さて、そろそろ夜になる。俺の家に泊まると良い。なぁに、刺客も毒もないぞ? そのような倒し方に挑めば『勇者御一行』なんてものは確実に生き残るからな」
無言の時間でありながら、日が暮れていた。
野宿も魔法による帰還も、リスクは高めであるから、半味方のコイツの家が良いのだが。
「信じよう。ここで切り捨てては、奴との差が縮まると思う」
「俺も信用するぜ。少なくとも結論は『善人』だ」
「野宿も帰るのも嫌だった。これで進行は心配なくなる」
「家には筋道が見えるもの。より正しく見る為に行きますよ」
全員、賛成……いやザツカだけ疑っているか。とりあえずは行って良いようだ。
「悪いが転移などではなく、走破で頼む。あそこの獣道を道なりに行けば、開けた場に出るからそこで待ってる」
言い終わった瞬間に、ゼノは多重の残像を発生させ先行した。
「戦闘にならなくて良かったわ……」
ため息のように感想を出しながら、後を追う。全く見えない影に、絶望は膨らんだ。




