混沌の世 2-5
最終試験を終えて、暇となったリリーとライが〈プロスワ国〉から出た事になって三ヶ月。都合良く俺の歳は10を迎え。
「くそっ! 何故、発見出来なかった?!」
「ッッ! 外縁の〈魔探結晶〉が壊れてます!!」
「馬鹿な。アレは神代からのもの、我々でも破壊不能と判明しておるのだぞ」
「であれば、その性質だけを変えられたか」
「〈魔〉の軍勢、着々と増員中!」
楽しいイベントが始まった。不敬には当たるが一番、高いので王城の頂点に俺は座っている。
経験値の波が迫る様は圧巻。やろうと思えば『オデ…ゼンブ…クウ……』なんて事も可能だが、問題はまぁ多い。
軍勢は〈大共栄〉を彷彿とさせんと空気を支配している。大方、オークゥの知恵だろう。
「悪魔っ娘の所にリリー居るな。下手すればスライムの所にククラが居るが……」
メイン目的はリリーへの救済だ。よって〈契約〉中の邪魔は許さないようにしたい。が、面倒な事にライが見当たらない。
ただでさえ自分の手で俺を殺せないリリー。それが双方同意の〈契約〉なんて見てみろ。裏切りへの執行官として働かれる可能性が高い。『人魔の架け橋』になる事が目標である俺には、味方からリタイアが出て欲しくない。
よって、同格であるライを行動不能、或いは殺しておくべきなのだ。
「〈勇者〉様!」
確か近衛の長だったか、その男に声をかけられ気を戻す。状況を見る限り、避難経路としての一撃を出して欲しいのだろう。
「了解した。〈天光棒〉……三重」
余りにも一点過ぎると挟撃が辛いと思い、範囲攻撃を選択した。
「よしっ! この時を逃すな!!」
「「「おぅ!!!」」」
まぁ、これでも回り込まれている可能性が高いんだよな。通常〈人間〉がやる数の暴力は向こうがしてくるし、そもそも虫の魔物が量産出来ない訳がないだろ。一時の希望を落とされて滅べ。
どうせ〈ポラリス〉はあるんだろ? 前の時も、ちょくちょく〈人間〉は回収してたらしい。なら問題ないね、リリーへの対処は時間がかかるし、その間に死んでても『守れ…なかった…』の点をwに変えるぐらいだな。
「そろそろ、気付くとしますか」
現場監督として来ているリリーが、俺の足止めと疲労の為に接近している。流石にここで気付かないのは鈍感が過ぎる。
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「リリー…先………生…?」
ゼノは混乱していた。〈人間〉と思い接し、そして師事した存在が〈魔族〉であれば当然の事。
「よく分かったな。何をもって考えた?」
「使い方がとても似ていて、そして…瞳は同じものです」
魔術の運用と目から推測。やはりこの〈勇者〉、内面の年齢が非常に高く生まれているようだ。
「どうして……どう」
「私が〈魔族〉だからだ。〈人間〉と敵対するのに、これ以上の理由は必要ない」
「どうしてその…王宮で時折見かけた〈踊子〉のような装いを……?」
混乱は蠱惑が原因だったが、争う理由より説明がしにくい。〈魔族〉の戦闘服は決められておらず、また由緒無き伝統の可能性が高い、と根源研究機関も発表している。となれば…。
「見慣れたものがこれだったからと使い始め、気付けばこれである必要が産まれた」
「肌の潤いは」
「〈勇者〉ゼノ・クラック。喋っても何も起きぬぞ」
「そうですか? 僕は今、嬉しいんですが」
自身と自軍の不利、それを全くの別件で笑う様に怒りを覚えた。
「〈黒雷槍〉!」
「〈地水抗盾〉!」
出し終えてからでも術名を発する事で威力は上がる。しかし、感情のままに放ったせいか、ダメージにはならない。
「やっぱり強いですね、先生!」
声はかわいいものの、その行動は全くの冷徹。踏み込みが見えれば、洗練された剣が目の前に迫る。
「まだね」
「チッ!」
が、そもそも〈魔族〉の方が身体能力も上。後方に体を反らし回避した瞬間に、〈腐蝕波〉を流すくらいの余裕はあった。〈勇者〉は〈光壁〉で〈腐蝕〉は防いだが、衝撃は防ぎきれず吹き飛ぶ。
「……教えたものは、わざとですか」
「あら? よく分かるね。どこかで必ず致命になるように教えたのを」
〈勇者〉への対抗……いや、〈英雄〉さえ出現させないようにする為の作戦。〈勇者〉は、ほんの少しの攻防から導いた。天才のような存在とつくづく思う。
「それを知ったとして、その基礎から考えるしかなく。そしてその剣はもう使えない」
だが依然と有利なのは我々。〈勇者〉討伐とは、勝って〈人間〉を滅する為の前座でしかないので、この有利のまま押し切りたい。
「丁度良いですね。最近、合う戦い方は剣じゃないような気がしていたので」
〈勇者〉は剣を思い切り振り修復不可能にした。
自信満々の狂行に目が固まる。そのような扱い方で壊すのに驚愕し、続く気配に意識が飛ぶ。
「うん。剣もそうだけど〈光〉も合わなかったのかな」
〈勇者〉の周囲が漆黒に染まる。その中で拳を開き握る。軽く跳ねる。
飛んでいた意識が戻り本能と共に『撤退』を叫んだ。明らかに異常事態である事、〈闇〉への適性を見抜けなかった事、自身を見る目が〈ゴブリン〉である事。
「それじゃ、大人しくしていて下さい、ねッ!」
闇の帯を残して消えた〈勇者〉。刹那、横殴りの突風に足が折れる。
「ぐふっ……!」
「分かってるだろ? この踏み込みは貴様を殺す為のものだ」
「化……物……」
刺突を掴んでいる〈勇者〉の拳は正確に、ライの〈核〉を砕いていた。
一瞬の成長などあり得ない。ならば最初からという事になる。自分たちこそ、手のひらの上だったのか。
「さてと、不安要素は消えたので……リリー先生を〈テイム〉しますか」
「はぁ?」




