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混沌の世 2-2

「まぁ……すまなかったな、坊主」

「無理なものは無理ですよ。出来るならば〈アロクル〉様や従われている士でもないと」


 乳児の〈勇者〉襲撃事件より五年。その時の冒険者と5才の〈勇者〉は言葉を交わしていた。


 内容は冒険者の謝罪と断罪の願い。〈魔王〉側の控えていた〈エルダーリッチ〉により、〈勇者〉を庇った母親が焼け死んだ。討伐は終えたものの間違いなく深い傷になっている。考えた結果、当人に直接話す事にしたのだ。


「……あぁ、思い出しました。魔物の列と人の列の睨み合い…そこが私の故郷でしたか」

「やっぱり列に意識が……俺はもうお前を同族と思えなくなった」

「それで良いと思います。〈魔王〉の為だけに産まれたのが〈勇者〉なのですから」


 〈勇者〉は産まれて少しの時点から〈人間〉から離れていた。そしてこの数年で、使命に殉ずるような発言に至れるのだ。


「同族ではないが大人だな」

「子供です。無邪気に羽虫を殺すような、ね……」


 互いに木製のコップを取り、飲み干す。二人以外にも人はいるが、沈みが場を包んである種の緊張となってしまったからだ。


「貴方、また此処なのね。一応は王族なんだから、もっと良い所に行きなさい」

「此処が良いんです、違いを見れる。分かりますか、リリー先生?」


 緊張をほぐすのは〈勇者〉の迎えに来た、黒い女。〈魔導士〉と分かりやすいにも程がある装備をして、〈勇者〉に魔法を教えている存在だ。


「私なら後が面倒だから来ない」

「来る良さが後の事より優先………どうしましょう、金貨しかありません」

「クラック様。御話しを聞かせて頂いた事が何よりですので、大丈夫です」

「次は無言で飲むとしよう。ミルクだが」


 〈勇者〉は再度の入店を決めて、リリーと場を離れた。


「情けないな、俺達」

「その言葉ですが、〈勇者〉様でしたら『ついでに容赦もなくしてくれた方が楽』と呟かれた事がありましたね」

「そうなる理由、読めた気がするぜ」




 〈勇者〉の部屋は王宮の隅にある。空いている場所がそこにしかなかったからだ。しかし彼は『帰りが遠い』以上の文句はなく、部屋に入る為に駆ける事が許されてからはそれも失せた。


「最近、更新が止まっている。畜生! でも先生達の策に乗らないとなぁ……」


 〈勇者〉ゼノ・クラックことゼノム・ルマ=アウゴは小さな事で、悩んでいた。


 数年生きて〈アロクル〉が言っているより余裕があると思っていたが。魔法教師のリリー、剣技指導員の正体は〈魔族〉であった。〈人間〉の領域、それも中枢に近いものに潜り込まれ、彼らの都合が良くなるように〈勇者〉は導かれている。

 既にレベルがErrorを起こした覚えのある彼でなければ、慣れない術式や型に嵌め殺されるはずだ。ゼノムとしては、実戦の中で進化させる事を命題にした為、無意識に『通常』のものの使用をしない。


 よって、自室への帰りまでの走行記録に更新がないのだ。〈転移〉も可能だが、今ところ誰にも話しても見られてもいない。


「イベントは二年後ぐらいか。7、8、9、10は特別な数字だからな」


 真っ暗の部屋でゼノムは呟く。彼にとってはこの異界は遊び場であるから気楽に、意味合いの妄想が炸裂し続ける。救いとしては、それらを完全に暗記する存在がいないので、更なる悪化は起きにくいという点だ。


「にしてもシュア達からのアプローチ無しってなんだ? あれか? 主人公が出向かない限り、世界崩壊の手を打たないラスボスか?」


 彼が見た中で一番多いもので、理論を組み立てた。そしてこれを否定する材料はない。〈ステータス〉があり、女神の加護により『死に戻り』が出来て、女神が働けば全てが無限に湧き出る世界なのだから。


「〈魔族〉が侵攻しに来るのを待つかぁ……どのみち武勲や存在意義はそれへの対処だし」

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