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首切り写真 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お、こーちゃんもようやくケータイのカメラ撮影を覚えたか。いや、せっかくケータイを持っているのに、電話とメールだけとかもったいないだろ。

 使えるものは何でも使えるようにしておく。少なくとも、それがどのようなものか知っていれば、相手がそれを使う時に、どう配慮すればいいかが分かる。それがコミュ力とやらにつながっていくんだろうな。


 ――え? 男同士は共通の話題さえあれば、その瞬間に友達?


 まあ、学生のうちならそれで十分だろうね。しかし大人になっても、同じ調子で付き合える友達に恵まれるとは限らないよ。職場は選べても、そこに所属している人までは選べない。もしかしたらウマの合わない人のみの恐れだってある。

 そう判明してからの対処も人さまざまだが……今を大切にしておけ。ひょっとしたら、今後の人生の中で、心の支えとなる青春の一枚になるかもしれないからね。


 ……ああ、そうそう。写真で思い出した。私も若い頃に友達と写真を撮ることが趣味だったんだ。ただし、ちょいと悪い方向のものだ。

 いや、さすがに犯罪絡みなことはしてないよ。不謹慎のニュアンスの方が強いかな。よくある、「やんちゃ」したくなる頃だったわけ。

 ん、興味があるのかい? いいだろ、おじさんの他愛ない思い出として、気楽に聞いてくれ。


 写真は写真でも、おじさんが仲間うちで撮影にやっきになっていたのが、心霊写真だった。私の学生時代は、心霊写真のブームが巻き起こっていた時期。雑誌には心霊写真の記事が掲載され、テレビのワイドショーで取り上げられることもあった。

 こいつは、今ほどカメラの技術が安定していなかったことも、大きい要素を占めているだろう。レンズからして、現代はコンピューターの手によって高い精度を持つようになっている。そこにブレなどを防ぐ様々な技術が開発され、またも科学はその領域を一歩広げることに成功した。

 だが、それはまたひとつ、シュレディンガーの箱の中身が観測された状態になったともいえる。

 質が悪いゆえに不安定。虫食いだらけな真実の柱に、私たちの想像が補修の詰め物を入れていく。人によって詰めるものが違うから、できた真実は人によって異なるわけだ。心霊写真はその「埋め合わせ」が、非常にうまくいった一例だと、私は考えている。今では、だけどね。

 当時はそんな細かいことなど考えなかった。目先の楽しさ、心地よさを貪るために、私たちはカメラを片手に、各所へ突撃していったっけねえ。そして、ちょっとでもそれらしいものが撮れたら、学校に持ってきて品評会を行う。会場はひと気のない教室だ。


 その日に持ってこられた一枚は、インパクトがすごかった。

 メリーゴーラウンドに乗っている人を写している。中心よりやや左よりに座っているのが、持参した友達の弟だという。動いているところを取ったらしく、軽く尾を引く残像が見受けられたが、それ以上の異状がある。その首の部分に、写真全体を横切る白くて太い線が、一本入っているんだ。

 それだけじゃない。弟の首を含めた景色が、線の上と下では写真の上で6センチほど、左へずれているんだ。完全に頭と胴体が分かれを告げ、頭だけが運ばれている。入った線はさしずめ極太の剣といったところか。その刃の「しのぎ」をお盆のように扱い、風景を左へ運んだ。私にはそう見えたよ。


「くっだらねえ」と、誰かが真っ先に吐き捨てた。こんなのは心霊写真でなく、合成写真だと。線から上の部分は、似たようなアングルの別の写真を切り取り、貼り付けたものに過ぎない。そう断じた。

 線より下を写す写真にはない、上の写真のみが写すメリーゴーラウンド脇のワゴンの影が、その証言の強さを後押しする。写真の下の部分は、メリーゴーラウンドを真ん中からとらえており、横に他の景色が写るすき間はない。もしも一枚の写真であったなら、このようにずれた景色が入り込むことはないはずだ。

 結局、注目を集めたいがためのガセネタであるとして、持ってきた友達はたちまち干された。その落胆具合は大きく、残りの品評にはまともに口を出そうとしなかったよ。

 

 みんながバラバラと去っていった後も、彼は動こうとしない。私は気の毒になって、声をかけたよ。

 ちなみに例の写真、私は肯定派だった。根拠とかがあるわけじゃない。ウソに見えそうな要素をえぐり出し、「ありえねえ」と切り捨てる性根が気に食わなかった。私は心霊写真にまだ見ぬ高揚を求めていたのだから。

 その熱に、冷や水をぶっかける行為など無粋。あり得る、という熱を持ち続けていた方が、よっぽどテンションが上がるというもの。他に件の写真に関心が湧いたのがもう一人残っていて、一緒に詳しい話を彼から聞くことにした。

 冷遇の反動からか、彼は上機嫌で話をしてくれたよ。

 

 この写真は先日の休み、弟と出かけた際に撮った写真の一枚だというんだ。場所はここから電車で6つ先の駅近くにある、小さなテーマパーク。有名なアミューズメントパークなどには規模も値段も及ぶべくもないが、その分、懐が寒くなりがちな子供同士でも、気軽に入場できる。

 そのメリーゴーラウンドに乗った時、こいつが撮影された。撮ったのは彼自身で、弟が載っているところをカメラに収めたらしい。


「俺は何も手を加えちゃいない。正真正銘の本物だ。弟には悪いが、これを見た時に、俺は嬉しさのあまり手を打ったね。ようやくチャンスが来たんだと。

 それがあの扱われ方だ。所詮、あいつらは『らしさ』さえあれば、本物だろうが偽物だろうが、どうでもいいんだ。ばかばかしい」


 彼はこちらから提案するまでもなく、私たちを誘ってきた。もう一度、件のテーマパークに行き、同じように写真を撮ろうという計画に。もちろん、私たちもその目論見あって声をかけたんだ。

 次の休みまで数日ある。私たちは準備を進めながら、件のメリーゴーラウンド、ひいてはテーマパークのことについて、調べてみる。何かしらのいわくが出てくるのを期待したが、さしたる収穫はないまま、当日を迎えてしまったよ。


 いくら入場料が安いとはいっても、他のアトラクションや食事を堪能したりすると、あっという間に貯金が吹っ飛んでいく。多少の誘惑はあったものの、私たちはあくまで検証する目的を重視し、メリーゴーラウンドへ向かう。

 今回は3人いるため、撮影プランとしては、まずひとりが撮影のふたり乗り。次にふたりが撮影のひとり乗り。最後にひとりが撮影のひとり乗りを実行する。最後は、彼と弟の時の条件と同じだ。順番を決めて、それぞれが撮影にかかる。

 あまり短時間で何回も乗ると、変な目で見られるかもしれない。ある程度時間を置いて、プラン通りの撮影を続け、いよいよ最後の一騎打ち段階を実施する時がきた。


 これまで乗っていて、メリーゴーラウンドの回る時間はかっきり3分。その間、できる限り撮影者の方を見ながら回るようにとの取り決めで、少々首が痛くなってくる。

 私は上下動する馬の上から、撮影者の方を見続けた。今は、件の心霊写真を撮った子が使い切りカメラを握っている。撮影は順調に進んでいたが、ある周で彼がカメラを構えていない時があったんだ。リュックを前に抱えて中身を漁っているところを見るに、カメラの撮影枚数を使い切ったと見える。

 少しは休めるか、と首を回る方向へ戻した私だったが、すぐに「ヤバイ」と思ったよ。


 メリーゴーラウンド中央の柱から、横に寝かせた刃がこちらまで伸びていたんだ。ちょうど、私が乗っている馬が上昇すると、首に当たるくらいの位置に。

 メリーゴーラウンドは床が回り、それに合わせて馬たちが動くようになっている。柱から伸びる刃は動かず、待ち受けるのみだ。しかも前を行く人、馬、それを支える棒が刃に触れているようだが、彼らは痛がったり、切断されたりする様子を一切見せない。もし、私も撮影者の方を見続けていたら、この刃に当たっていただろう。

 だが存在に気付いた以上、たとえ他の皆が無事であろうと、無視はできない。迫りくる刃に対し、私は不自然なほど身をかがめて直撃を避けた。

 ほっとしたのも束の間。その先にもまた、同じような刃が出ている。それらはいずれも図ったように、上下動した時の私の首へ、直撃する位置をとり続けていたんだ。もう撮影者の方を見続けることなどできず、私は回転が止まるまで正面を見るよりなかったよ。

 

 降りた後、私は二人に自分の見たことを話した。彼らも驚いて、自分が乗る時になると、ひたすらに回転方向の先を見やっていたよ。だが、私のような伸びる刃は、ついぞ目撃しなかったとのことだ。

 そして現像。弟を撮影した子と、私に同行した友達が、それぞれ一人で乗っている写真には、何枚か弟を撮影した時と同じ、線による首の切断。および、上下での風景のずれが見られたが、私を写したものには1枚もそれがない。

 さすがに気味悪さが過ぎて、私たちはそれらの写真を封印。以降、心霊写真品評会には顔を出さず、卒業を迎えたよ。心霊写真に写った2人は今も無事に過ごしているが、あの時、刃をかわした私には、厄介なおまけがついてきた。

 

 電車に乗っているとね、ときどき見えるのさ。あの伸びた刃がね。

 あいつらは線路脇の電柱や、踏切警報器を軸にして、あたかもゴールテープのように刃を張っている。そいつらは車体をすり抜け、一定の方向へ進む電車の中を、私の首の高さに合わせて迫ってくるんだ。

 そのたび私は、首を引っ込めてかわす。立っていても、座っていても、刃は不意に現れるんだ。他にも刃を入れられた乗客はいるが、彼らは何ともない。刃がすり抜けてしまうんだ。

 でもそれを見て、「自分も大丈夫じゃないか?」なんて、うぬぼれはしないよ。あの時、切り損ねた私の首だ。さんざん待たされ、付きまとってくる彼らも頭に来ているだろう。今度、あれに当たることがあれば、実際に私の首がゴロンと転がり落ちることになるかもね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「〜かもしれない」って想像を巡らすのも楽しいですよね。会話の流れで「ありえねぇ」とか言うのは全然ありなんですけど、こう、はなから否定して相手を言い負かすような言い方はね……。 ちょっと気味の…
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