母さん俺、プリキュアになるよ(真理)
つくづく、私は社会人に向いていない。
上司や同僚とのアレコレ、派遣社員やアルバイトとのナニソレ。
全てが苦痛でしかなく、常に頭痛に見舞われているような感覚である。
通勤途中、勤務中は勿論、休憩中や休日の何気ない瞬間にも『会社』という物が奥歯に挟まった肉片の様に注意を奪い、不快な感情に貶められる。
正直な話、ハッキリ言わせて貰えば、まぁ、シンプルに辞めたいのである。
「根性がない、情けない、何もない」
何を言われたところでその通りであり、真摯に受け止めるが、だからといって何が変わるわけでもないのが現実だ。
好きで仕事をしている人間など極僅かであり、私より苦労している人間など星の数ほどいることも承知の上で、今の職場から逃げ出したくて仕方がない。
石の上にも三年?
痔になるわ。
まぁ、それでも働かない訳にはいかない。
『かけがえのないもの』という言葉もあるが、何にでもかけがえ可能なお金はやはり必要である。
そしてそれ以上に、世間の目が恐ろしい。
いい歳して定職につかず、フラフラとフリーターで騙し騙し生きている。
そんな印象を持たれるのではないかと思うとゾッとする。
私は酷く弱い人間だ。
オタクというマイノリティ側の人種でありながら、マジョリティに徹していなければ不安で仕方がない。
だから、オタク趣味は親しい友人達以外には徹底的に隠しているし、何処にトラップが仕掛けられているかわからない以上、同類と思われる同僚にも同様の態度を貫いている。
Q.趣味は?
A.読書と映画鑑賞、それからカラオケです。
我ながらつまらない回答である。
よくもまぁこんな正体不明の所属を面接官は許したものであると感心する。
Q.趣味は?
A.エッチな漫画の読書と笑えるホラー映画の鑑賞、それから限界オタクの汗と唾液が飛び散るカラオケです。
うん、こうして肉付けしてやれば中々個性的でつまらなくはないだろう。
なにより私という人格を的確に表現できている。
なんだったら、より理解を深めやすよう、テレビアニメ『明日のナージャ』のオープニングテーマ『ナージャ!!』をフルコーラスで披露しよう。
二次会でサザンを歌っている場合ではない。
いや好きだけど、サザン。
オタ友とのカラオケでも歌うけど。
だからといって、それだけしか歌わない私は既に私ではない。
『私以外私じゃないの』
歌わないが、そんな歌もある。
ならば、と問いたい。
私が私でなくなった時、その間、私は何処にいるのだろう。
ここに意識を持って存在する一個人は何者なのだろう。
まぁ、如何にもリアルが充分充実していそうな、もっと言えばゲスが極まっていそうな一曲を槍玉に挙げたところで何も話は進展しないし、私以外私じゃないとか、言われなくても、そんなことは分かっている。
私が面接官なら即不採用の烙印を押す程に通性的なフレーズ。
当たり前のこと。
個性のかけらもない。
だからこそ大勢が共感する。
個人と大勢。
個性と通性。
私は過剰にマイノリティな個人と個性を孕みながらも、マジョリティな大勢と通性を優先しなければ怖くて仕方がない。
だから働いて、金を稼いで、ご飯を食べている。
国民の三大義務にも、『勤労の義務』があると中学校だったか小学校だったかで学んだし、金がなければ『納税の義務』も全うできない。
義務が守らなければ権利を授かる資格もない。
人としての権利。
人である権利。
究極、人として生きたいのならば働かなければならないのだろう。
生きるのならば。
死なないのならば。
なんて仰々しく綴ってみたものの、死にたいと思ったことはあまりない。
代わりに、事故被害者となって働けない状態になりたいと、そんな不謹慎なことは日常的に考えているが、死にたくはない。
まだ死ねない。
ガルパン劇場版を全て観るまでは死ねない。
今月から連載開始の『citrus +』を読了するまでは死ねない。
来週から始まる『スーパー戦隊最強バトル‼︎』を完走するまでは死ねない。
やりたいことはたんとある。
だから生きたい。
だから働く。
だけどもう嫌で仕方がない。
フリーターでも充分だとは思う。
けれど、過半数でありたい想いと、それを促す安いプライド、将来の不安が邪魔をする。
それらをまとめて埋め立てられたらどんなに幸せか。
夢の島あたりに投下できたらどんなにロマンチックか。
世捨て人にでもなろうかと、思い描いた逃避行はただの妄想活劇。
そんな度胸も度量もないし、努力できるとも思えない。
カスカスの人間がお贈りするスカスカの人生。
廃品回収も受取拒否のお墨付き。
如何かな?
なんて、訊くこともできない。
ただただひたすら如何わしい。
このままでは、犬どころかゴキブリも食ってくれない。
可食部が全くない。
だから、まぁ、その。
長々と語って最終的な何を言いだすかという話なのだけれど、簡単な話。
転職したいなぁって。
勝手にしろよ?
そんなに突き放さないでくださいよ。
結局、転職したところで同じことの繰り返しかもしれないのだから。
その度にこんなグチを聞かされる立場になって考えれば、なんというか、心中お察しします。
長々語って今更だが、転職するにしてもどうするか、それが本題な訳である。
あと少し待てばとりあえず新たな有給が発生するし、梅雨の時期にはボーナスもあるから、そこらへんまでは己の体に鞭打って、馬車馬のように駆け回るとして、そこからだ。
転職するにあたって必要なものは何か、それを考える必要がある。
あぁ、いや、リクナビネクストとか、そういう話ではなく、もっとメンタル的な問題だ。
今の仕事は絶望的にやりがいがない。
楽しさも、達成感も、何も感じない。
無だ。
仕事にそれらを求めること自体が御門違いなのかもしれないが、そんなところに長々と居座れる程、私はできた人間じゃない。
その上で、私に合いそうな仕事を会議中に考えたのだ。
楽しさがあって、達成感もある仕事。
人生でこんなに考えたことはあまりない。
高校も大学も会社も、周りの雰囲気と意見でなんとなく飛び込んでいた私がこんなに考えるのは、意味がわかると怖い話を読んでいる時くらいのものだ。
その甲斐あって、私は私に最適な、私が私でいられる、私以外私じゃないと声を大にできる職業を考え出したのである。
そう、その職業は貴方の御察しの通りである。
『YouTuber』
ブンブン――。
好きなことで生きていく。
もしも叶えられるのならば、そんなに素敵なことはない。
それにまぁ、YouTuberという職業はある程度広く認識されているし、実家の母親にも言えなくはない。
「母さん俺、プリキュアになるよ」
とか、そんなことは言えないけれど。
煌めく星の力で、憧れの私描くよ。とか、そんな風には歌えないけれど。
YouTuberくらいなら、ワンチャンありそう。
とか言って、まぁ、どちらも無理な話だと分かっています。
冗談です。
YouTuberもプリキュアも、どちらも画面の中の存在でしかない。
現実と妄想の区別は付いている。
だから、とりあえずは新しい仕事を探すにあたって、当たり障りのないところに着手するのだろう。
それでも、実のところ。
誰にも言ったことの無い、俺と神様しか知らない夢が叶う事を、どこかで願っている。
そうすれば、マイノリティである事にも胸を張れるかもしれない。
数多のマイノリティの中の一つのマジョリティを生み出せるかもしれない。
だからまだ、やっぱり僕は人として生きたい。
やれるだけとのことはしたい。
プリキュアとしてではなく、人として。