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ボクサー異世界へ行く  作者: 如月文人
第三章 無差別級武闘大会
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第三章 其の二


 そして俺は再び職業ギルドへやってきた。

 俺はクラリスに事情を説明して、しばらく職業ギルドの道場に

 篭り特訓をしたいと伝えると、彼女は快く承諾してくれた。


「しかし見違えたな。 ほんの数週間で随分逞しくなったな」

「いえいえ、とんでもない。 これも全ては師範代のおかげですよ」

「まあ道場の使用料を毎日1000レム(約一千円)払ってもらうが、

 それ以外は特にこちらから言う事はない。 私や他の師範代が

 時々模擬戦の相手を務めるから、大会まで充分に特訓するがいいさ」

「ありがとうございます、師範代。 時に師範代――」

「ん? 何だい?」

「どうしてそんなに俺から離れているんですか?」

 するとクラリスはわざとらしく「コホン」と咳払いした。

「いや聞くところによると、お前さんが公衆の面前でいたいけな

 少女を毒牙にかけたという噂を聞いてな。 ほら、私も一応女だろ?

 今ではお前さんに力づくでこられたら、私もどうしようもない。

 だから気にするな。 ただの自己防衛本能さ」

「いやいやいや、そりゃ誤解ですぜ、師範代。

 というかめちゃ不本意な言われようですぜ!」

「お、怒るなよ。 怖い、怖い、怖い。 本気で眼が怖い!?」

「なんですか、その強姦魔を見るような眼はっ!?」

「い、いや本当に強姦魔のような目つきだぞ?」


 酷い。 いたいけな童貞少年に言うべき言葉じゃない。

 だが俺自身に非がまったくないわけでもない。 だからここは抑えておこう。


「まあいいッスよ。 どうせ俺は目つきも顔も悪いですよ。

 でも今は本気で武闘大会で勝ち上がりたいんですよ。

 だから武闘大会での戦い方や対処法を教えてください」

「いや顔は悪くないと思うぞ? ……コホン。 そうだな、どうやら

 本気のようだな。 ならば私としても全力でお前さんをサポートしよう。

 とりあえず前と同じように全身に闘気を纏ってみたまえ!」

「了解ッス。 んじゃ行きますよ! ハアアアアアアアアアッ!!」


 俺はクラリスに言われたように、全身に闘気を纏った。

 するとクラリスは眼を見開いて、驚きの声をあげた。


「す、凄い。 まるで研摩された針のように鋭い闘気だ!?」

「まあアレからずっと闘気の鍛錬は毎日してましたので」

「ふむ。 確かにこれなら面白い所まで行けそうだな。

 しかしそれだけで勝ち上がれるほど、無差別級武闘大会は甘くない。

 だから私が武闘大会における拳士フィスターの戦い方を伝授してやろう」

「お願いします!」

「うむ、いい返事だ。 まず一つに武闘大会には様々な種族や職業ジョブ

 強者つわものが集まる。 例えば種族がオーガで戦士や聖騎士パラディン

 などの防御役タンクが相手だとやはり非力なヒューマンでは分が悪い」


 ほう、オーガなんて種族も居るのか。 

 エルフや猫妖精族ケットシーはこの辺りでも見かけるが、

 オーガにはまだ出会った事がない。 多分強いんだろうな。


「だが肉体や体力面の不利を補う事は可能だ。 それには闘気が不可欠だ。

 前にも言ったように、闘気は一点に集中させる程、威力が増す。

 それに加えて相手の種族の弱点属性、例えばオーガなら炎属性、

 猫妖精族ケットシーなら水属性。 それらの闘気を纏い、

 胸部や眉間、腹部を狙い打てば、相手に大打撃を与えられる」


 ほうほう、つまり種族ごとの弱点属性を上手い事使い分けるんだな。

 へえ、結構頭も使うし、戦闘状況に応じて臨機応変に動く必要もあるな。

 面白そうじゃん。 俺はこういう頭を使った戦闘も嫌いじゃないよ。


「だが基本的に拳士フィスターは己の手足のみで戦うので、リーチが短い。

 それに対して相手はリーチのある長剣や長槍、戦斧を使う場合が多い。

 当然相手も闘気を使ってくるから、まともに戦えば勝機はない。

 だがそれも工夫次第では何とでもなる。 よし、実例を見せてやるから

 道場の外に出るぞ!」

「はい、お願いします」


 俺とクラリスは道場の外に出た。

 そしてクラリスは短く刈り取られた芝の上を歩き、太い木の枝に

 吊るされたサンドバックの前で立ち止まった。


「いいか、見ていろ。 闘気にはこのような使い方がある。

 まず炎の闘気を自分の右拳に宿らせる。 そして――」


 そう言いながら、クラリスは右手に炎の闘気を宿らせる。

 そして左手で右手首を掴みながら、右手の平を前方に突き出す。

 するとクラリスの右掌から緋色の炎が直線状に放たれた。


「す、凄い! まるで魔術師マジシャンの初級火炎魔術みたいだ!」

「ああ、原理的には同じだ。 闘気は魔力を変換したものだ。

 だから使い方によっては、このような芸当も可能だ。 この意味がわかるか?」

「わ、わかります! つまりリーチの短い拳士フィスターでも遠距離攻撃が

 可能というわけですね? これならば戦い方にもかなり幅が出る!」


 興奮気味に語る俺の言葉にクラリスは無言で頷いた。


「そういう事だ。 だが相手が魔術師マジシャンなどの魔法職となると

 少し話が変わる。 基本的にモンスターと戦う時は、防御役タンク

 標的になるので、魔法職は詠唱時間を気にせず魔術を放てるが、対人戦だと

 話は変わる。 なにせ相手は人だ。 長時間の詠唱の隙を必ずついてくる!」


 今まであまり魔法職との対人戦を想定した事はなかったが、

 言われて見れば納得だ。 確かに対人戦で長時間の詠唱はご法度だろう。

 だがそうなれば魔法職としては、どう対人戦を戦うんだ?


「お、ちゃんと自分で考えてるな。 感心、感心。 そう、魔法職は

 高火力な魔術を使ってこそ火力として優遇されるが、それがなければ

 只の紙装甲な非力な職業ジョブだ。 だがこういう大会に出場する

 魔術師マジシャンなどは、当然その辺の対策も練ってきてる」

「うーん、つまり短い詠唱の魔術を連発する……という事ですか?」

「その通りだ。 やはりお前さんは飲み込みが早いな!」


 ほう、俺の読みが当たっていたか。 だがこれに関しちゃ簡単シンプル

 考えたまでだ。 要するに長時間が駄目ならば、短時間の詠唱に切り替えばいいのだ。


 やはり魔法職は魔術あってこその存在。 ならば初級魔術を連発するなどして、

 相手をかく乱すれば、対人戦でも問題なく戦えるのではないか?


 それに初級魔術だからといって弱いとは限らない。 この異世界でもスキルや

 魔術にそれぞれ熟練度なる項目がある。 同じスキルや魔術を何度も使い続けると

 威力や精度が上がるのだ。 だから上級者になれば、初級スキルや魔術で

 大型モンスターを一撃なり、一発で仕留める事も珍しくないらしい。


「そう、長い詠唱が駄目なら短い詠唱に切り替えればいい。 本当は無詠唱が

 理想なんだが、生憎と無詠唱で魔術を使える者は殆ど居ない。

 最低でも唱える魔術の名前は叫ばないと、魔術は発動しない。

 それ故に相手が使う魔術を見極めれば、自ずと勝機が生まれる。 あるいは

 敵が使う魔術に対して、相反する属性の魔術を唱えてレジストするという手もある」

「レジストですか? 例えば相手が火炎魔術なら、こちらは水魔術を使えば

 威力が相殺されて、無効化されるという事ですよね?」

「そういう事だ。 試しにやってみるか?」

「はい、是非お願いします!」


 そこで俺とクラリスは模擬戦でレジストの練習を重ねた。

 とりあえず最初はクラリスが右掌から緋色の炎を放出させたら、

 俺が氷属性の闘気を纏い、掌から直線状に氷塊を放ち、レジストさせる。

 何度か練習するうちにコツを掴んで、ほぼ九割方成功できるようになった。


「うむ、いい感じだ。 後は敵の混合魔術に対する対応だな。

 例えば敵が炎と風の混合魔術を使ってきたら、こちらも左手に水の闘気。

 右手に土の闘気を纏えば混合魔術に近い効果を発生させる事が可能だ。

 そうすれば敵の混合魔術をレジストできるが、正直難しい。

 だから基本混合魔術は極力避けるようにするがいいさ」


 まあそれが無難だろうな。

 正直左右別々の闘気を瞬時に纏うのは、想像以上に難しい。

 それならば足に風の闘気を纏い、跳躍して避けるなりした方が確実だ。


 何にせよ、これで大体武闘大会での戦い方を理解できた。

 やはり重要なのは闘気の扱い方。 とりあえず大会までこの辺りを

 重点的に鍛え上げよう。 そうすれば自ずと結果はついて来るはずだ。


「師範代、色々ご指導ありがとうございました」

「なあに、気にするな。 私としても門下生が武闘大会で活躍して欲しい。

 大会まで一ヶ月。 それまで私や他の師範代は全力でお前さんをサポートするよ!」

「ありがとうございます!」

「お前さんの健闘を祈ってるよ」




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― 新着の感想 ―
[良い点] 毎度思うんですが、魔法の設定凝ってますよね。
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