第三章 其の一
それから三週間が経った。
俺達は連日冒険者ギルドの依頼を受けて、モンスターを討伐。
アホのアイリスも渋々ながら、回復役に徹して、
防御役のカーミラが敵を引きつけて、攻撃役である
俺と真理亜がモンスターを倒す。 というパーティプレイが成立する。
気が付けば俺のレベルは23まで上がっていた。
真理亜はレベル24。 所持金も三十万レム(約三十万円)まで増加。
装備の方も一新させた。 俺はシルク製の青い胴着に黒のズボン、黒い手甲。
狼と牛の毛皮で出来た黒いレザーブーツという格好に。
真理亜は黒い三角帽子に水色のシルク製のローブ姿。
そしてやや奮発して高めの先端に赤い宝石が付いた両手杖を購入。
アイリスとカーミラは元々俺達よりレベルが高かったので、
レベルも二くらいしか上がっておらず、装備も前のまんまだ。
「はむはむ、うーん。 このカエルの唐揚げ美味しいですっ!」
「でしょ? マリア。 ああ~幸せ。 毎日美味しい御飯が食べれる」
「う、うむ。 正直このパーティに入るまでは毎日金欠状態で
まともな食事にありつけなかったからな。 はむ、はむ」
今日も一仕事を終えて、俺達は冒険者ギルドの酒場で夕食を摂っていた。
真理亜、アイリス、カーミラが幸せそうな表情で食事を楽しんでいる。
こうして見るとこいつ等は美少女に美女だ。
こいつ等、口さえ開かなければいい女なんだよな。
しかし甘い顔をするとすぐ付け上がるから困り者だ。
特に最近ではまたアイリスが前線に出ようとした事があった。
まあそこで軽く叱りつけたら、舌打ちしながらも持ち場に
戻ったから、一応許したが、油断するとまた惨状が起きそうだ。
だがなんだかんだで楽しく毎日を過ごしている。
不満はない。 しかしやや物足りないと思うのも事実だ。
そこで俺は一ヶ月後の七月に開催されるレムダリア王国主催の無差別級武闘大会に
エントリーした。 正直こうして女に囲まれる生活は悪くない。
だがそれだけでは満たされないのも事実。
異世界に来て約一ヵ月だが、まあこちらの生活に不満はない。
でもこのままずっとこの女達に囲まれて、世話を焼きながら
毎日を過ごすだけじゃ物足りない。 そう、俺は血に飢えていた。
こう見えて俺はボクサー。
やはり闘いのない生活は退屈だ。 そこで俺はクラリスから聞いた
無差別級武闘大会にエントリーした。 何でもこのアルザインの町で
年に一回開催される伝統ある武闘大会らしい。
その名の通り無差別級でありとあらゆる種族、職業同士で戦う武闘大会だ。
優勝賞金の五百万レム(約五百万円)も魅力だが、俺は純粋に
自分の力を試してみたいという気持ちもある。
何でも優勝すれば賞金とは別に前大会の優勝者と戦う権利が
与えられて、勝てば名実と共に最強の称号が貰えるらしい。
だがこの二年余りの間は、二年前突如現れた謎の男が一年目で優勝、
王座決定戦でも前大会優勝者を圧倒。
翌年もあっさり挑戦者を撃退。 と名実共に最強の王者として君臨しているとの話。
こういう話を聞くと自然と燃えてくる。
面白そうじゃねえか、いいね。 こういう熱い展開も好きだぜ。
無論いきなり出場して優勝が出来るとは思ってない。
だが最近わかった事だが、この世界の住人は俺が居た前の世界ほど
筋力トレーニングなどが発達しておらず、筋力や体力面では前の世界に
大きく劣る。 基本魔力や闘気を使うのが大前提の戦い方だ。
故に筋力や体力は程々で魔力や闘気の鍛錬を重視しているらしい。
それに加えて転生の際に俺の筋力や体力は大幅に引き上げられたようだ。
だから只の右ストレートでもサンドバックを打ち破る事が可能。
どうりで最初から強いわけだ。 何せ素手で熊を倒せるくらいだ。
ならばここで徹底的に闘気を鍛錬して、この世界に適した戦闘法を
更に学び、磨けば結構面白いところまで勝ち進めるかもしれない。
「ねえ、ヒョウガ。 何掲示板の前で突っ立てるの? ん?
無差別級武闘大会の告知じゃん。 もしかしてアンタ出場するつもりなの?」
と、カエルの唐揚げを頬張りながら横から覗き込むアイリス。
「そうだぜ。 自分の可能性を試してみようと思ってな」
「へえ、でも今のチャンピオンって超強いらしいわよ?
まあアンタも化け物じみた筋力と体力の持ち主だけど、流石の
アンタでも厳しいんじゃないの?」
「ふっ、だからこそやり甲斐があるんじゃねえか」
「おお、先輩が漢の眼になっている。 なに、なに……えっ!?
優勝賞金……五百万レム(約五百万円)ッ!?」
広告の張り紙を見ながら叫ぶ真理亜。
そしてピクリと耳を動かすアイリスとカーミラ。
「ねえ、ヒョウガ。 肩こってない?
特別にこのアタシが揉んであげてもいいわよ?」
「先輩、私は新しいローブと杖が欲しいです。 後、今の宿屋より
いいところに泊まりたいです! それと毎日ご馳走が食べたい!」
「コホン、私も防御役ばかりしているから、身体中が
痛くてな。 新しい剣と盾。 それに鎧を新調したいな……」
アイリスや真理亜に続きカーミラまでそんな事を言い出した。
こいつら何処まで浅ましいんだ。 だがここで甘えやかす俺じゃない。
「ふーん、じゃあ自分の金でやれば? というか俺はしばらくお前等と
別れるぞ? 職業ギルドに篭って大会に向けて特訓するつもりだ」
「ちょ、ちょっ! そ、そんな話聞いてないわよ!?」
「そりゃそうだ。 今話したもん」
「じゃあその間、アタシ達はどうすればいいのよっ!?」
「いや普通に三人で討伐依頼でも何でもすればいいじゃねえか。
それにここ最近で随分稼いだろ? しばらくはそれでしのげるだろうよ」
「いやいやいやいや。 無理だしい、ヒョウガ居ないと困るしい。
面倒くさい事は全部ヒョウガがしてくれたじゃん。 アタシじゃ無理だしい」
「なら貯金を食い潰しながらニートでもしてろ。 俺はお前等の保護者じゃねえよ」
「ちょっと、ちょっと先輩。 私も困りますよ~。 先輩居ないと楽できないし~
またアイリスが暴走して死に掛けるのは、ゴメンです!」
と、真理亜まで騒ぎ出す。 コイツも大概だよな?
「……コホン。 なあヒョウガ。 君が居なくなれば、必然的に私が
リーダー的立ち位置になるだろうが、正直私は自信がない。
なにせアイリスの暴走が止めれず、ブラックリストに載ったくらいだ。
だから毎日とは言わない。 特訓の合間でいいから四人でパーティ
組まないか? というか組んでください、お願いします……」
と、悲痛な表情で訴えるカーミラ。
まったくこいつ等何処まで俺に甘えるつもりだ。
おっぱいの一つや二つ触らせてもらっても、割りに合わんぞ。
だが放置しておくとまた何か問題を起こしたり、野垂れ死にするかもしれん。
そうなると少々目覚めが悪い。 やれやれ、どうしようもねえ連中だ。
「わかったぜ。 特訓の合間ならお前等に付き合ってやるぜ。
ただし極力俺のレベルが上がるように配慮しろよ?
大会までに少しでも強くなりたいからな。 それでいいか?」
「「「いいです!」」」
と、同時にハモる女達。
「んじゃ俺は職業ギルドへ行ってくるぜ。 お前等も元気でな!」
「はーい、ヒョウガ頑張ってね!」
「先輩、賞金楽しみにしてますよ~!」
「頼む、ヒョウガ。 時々でいいから様子を見に来てくれ」
やれやれ何処までこの残念ハーレムに付き合わせられるのだろうか。
だがこのまま残念ハーレムノーマルエンドを迎えるつもりはない。
そう、俺は今燃えている。 この世界でどれだけ自分が強いか試したい。
やれやれ、なんだかんだ言って俺もボクサーだな。
例え転生しても強さという原始的欲求の前には抗えない。
ならば気が済むまで、己の限界に挑んでやるぜ!