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ボクサー異世界へ行く  作者: 如月文人
第一章 ようこそ異世界へ
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第一章 其の三


 職業ギルド。

 最初に職業ジョブを選んだ後は、この職業ギルドへ向かうのが基本らしい。


 何でもこの職業ギルドで各職業に関した情報や知識を教えてもらえて、

 師範代から職業ジョブの適正を生かした戦闘方法やスキル構成を

 伝授してもらえるらしい。 これを拒む理由は何処にもない。



 拳士フィスターの職業ギルドは、俺が居た世界での剣道や柔道の

 道場に似た作りだ。 最低限の受付と事務室はあるが、その敷地の

 大半が木造りの道場だ。 ここで訓練や模擬戦をするらしい。


「お前が新人ルーキーか? 私は師範代のクラリスだ。

 見ての通りエルフだ。 ビシバシ鍛えてやるから覚悟しておけ!」

「はい、よろしくお願いします!」


 師範代のクラリスは褐色の肌の二十代半ばぐらいのエルフだ。

 左眼に黒い眼帯アイパッチをつけており、胸元に青い短衣。

 下半身は黒いホットパンツに茶色のレザーブーツという格好だ。

 全体的に露出が多いな。 本人の趣味かな?


 身長は俺と同じくらいの175前後。

 普通に美人だが、その全体から出す雰囲気は格闘家のそれそのものだ。

 

「ん? 私に見惚れてるのか?」

「はい、じゃなくて随分と涼しい格好ですね」

「ふふ、まあ機能性と通気性を優先したまでさ。

 ではとりあえず職業ギルドについて基本的な説明をする」

「はい、お願いします」


 そんなこんなで十分程の説明が続いた。

 話の内容を要約すると、ギルドとは言わば同業者組合だ。

 職業ギルドだけでなく、鋳造とか、木工職人とか、調理師といった

 職人も職人ギルドに属するのが、暗黙の了解らしい。


 ギルドは同業者の互助会であり、権利を護る為の団体であり、

 互いに技術や知識を磨きあう為の組織という一面もある。

 この世界で仕事に従事するには、ギルドに所属する必要があり、

 ギルドに入らずに勝手に仕事をするのはご法度らしい。


 そういう場合は、必ずそれぞれのギルドが横槍を入れるらしい。

 なので冒険者ギルドなどもそれらの事情を理解しているから、

 ギルドに未所属の者には、基本的に仕事を依頼する事はない。


 どうやら職業ギルドの掛け持ちは禁止のようだ。

 これは少々予想外だな。 これだと安易に転職は出来そうにない。

 やれやれこの異世界でもボクシングの真似事を続ける日々になりそうだ。

 俺はとりあえず登録料の3000レム(約三千円)を眼前の女に手渡した。


「毎度あり、これでお前さんは拳士フィスターギルドの一員だ」


 クラリスは金貨をぎゅっと握り締めながら、にやりと笑った。


「基本的にうちのギルドは自由かつ自己責任が唯一無二の規則ルールさ。

 余程馬鹿な真似をしない限り、ギルドを除名される事もない。

 とりあえずこれから十日間、このアタシがみっちり鍛えてやるよ」

「はい。 お手柔らかにお願いします」


 こうして俺は拳士フィスターギルドの一員となった。



 それから十日間はクラリスが付きっ切りで色々教えてくれた。

 まずは最初の三日間は、身体能力を測る為の軽い運動テスト。

 これは余裕でクリア。 こう見えて三年以上ボクシングをやってたのだ。

 体力には自信がある。 更には転生の際に俺の身体能力は随分と底上げ

 されていたようで、クラリスが課す難題も難なくクリア。


「お前さん、本当に新人ルーキーかい?」

新人ルーキーですよ。 まあ肉体鍛錬は我流でしてました」

「ふうん、なんかお前さんの格闘術には見覚えがあるんだよね?」


 ん? それってボクシングの事か?

 しかしこの異世界には当然ボクシングなんて競技はない。

 どういう事だ? なんか気になるな。


「何処で見たのですか?」

「うーん、そう言われると困るんだけど、妙な既視感があるんだよ。

 でもその格闘術は非常に理に適った戦い方を抑えているよ。

 それなら問題なく実戦でも使えるよ。 だから自信を持ちな」

「ハア、それはどうもです」

「まあとにかくお前さんは筋がいい。 ならばここで闘気の使い方を

 教えてやろう。 これさえ覚えれば百人力だよ」


 おお、ようやく闘気の使い方を教えて貰えるのか!?

 この世界では前衛職は、総じて闘気を纏って戦うのが基本らしい。

 故にこの闘気を扱えなければ、前衛職としては失格という事だ。


「では簡単に闘気の説明をするよ。 闘気は魔力を変換して身体や使用する

 武器や防具に纏えば、威力や防御力が上がるのよ。 まずはお手本を見せるよ!

 とりあえず全身に闘気を纏うわ。 ハアアアアアアッ――!!」


 腹から声を出すクラリス。

 すると彼女の全身を明滅した白い光のようなものが覆う。


「この状態が基本だよ? でも闘気は全身に纏うより、一点に集中した方が

 効果は高いのよ。 水鉄砲の穴が小さい程、よく飛ぶのと同じ原理さ。

 とりあえずお前さんも真似してみなさいな」

「了解ッス! うおおおおおお……おおおおおおおおおっ!!」


 俺は見よう見真似で腹から声を出して、全身に力を込めた。

 すると俺の身体にもクラリス同様、明滅した白い光で覆われた。


「ほう、いきなりできるとはやはりお前さんは筋がいい。

 では応用編だ。 この闘気を自分の右拳に集中させて見ろ。

 そして闘気を宿らせた右拳で標的を打ち抜く」


 そう言いながら、クラリスは道場内にある大きなサンドバックを殴打。

 するとサンドバックは激しく上下左右に揺れた。

 ほう、凄い一撃だ。 とても女のパンチとは思えない。

 そしてクラリスは顎をしゃくり、「お前さんもやってみな」と眼で合図する。


 とりあえず俺は両足で床をしっかり踏み締める。

 そしてボクシングの右ストレートの要領で腰を内側に

 捻りながら、闘気を右拳に集中させて、サンドバックを殴打。


 ズバアンッ!!

 右拳に凄い衝撃が走ると共に、眼前のサンドバックを貫き、

 中から砂がざあっとこぼれる。 だが不思議と拳は痛くない。


「ちょ、ちょっとアンタ、何よ? その馬鹿げた破壊力っ!?

 アンタ、本当に新人ルーキー? ベテラン拳士フィスターでも

 そんな真似は普通できないわよっ!?」


 驚き慌てふためくクラリス。

 だが俺自身も驚いている。 おいおいおい、冗談だろ?

 普通サンドバックをいくら強打しようとも、こんな風にはならないぞ?


 こんな芸当は現役のヘビー級世界王者でも無理だ。

 これが闘気の力なのか?

 

「お、お前さんはとんでもない逸材かもしれない。

 こりゃ鍛え方次第では、無差別級武闘大会でも優勝できるかもしれない」

「無差別級武闘大会? 何そか、それ?」

「ああ、このレムダリア王国で毎年開かれる武闘大会の事さ。

 その名の通り無差別級で拳士フィスターだけでなく、

 戦士や聖騎士パラディンなどの前衛職も参加して、

 更には魔術師マジシャンなどの魔法職も交えた最強決定戦みたいな

 武闘大会なんだよ。 大会で優勝すると五百万レム(約五百万円)の賞金も

 貰えるし、優勝者の名声を生かせば、仕事も引く手数多さ」


 と、やや興奮気味に語るクラリス。

 ほう、そいつは面白そうじゃねえか。


 だがその為には、闘気の扱い方をマスターする必要がある。

 俺は自分が特別と思う程、自惚れ屋ではない。

 素人の俺ですら、こんな並外れた威力を発揮したんだ。

 ならばベテランならもっととんでもない芸当もこなすであろう。


「では師範代、もっとビシバシ鍛えてください」

「お、おう。 こりゃ十日後には免許皆伝かもね」


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