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ボクサー異世界へ行く  作者: 如月文人
最終章 ボクサーの挽歌(ばんか)
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最終章 其の二

 

 俺達は一斉に地を蹴り、アルビアン目掛けて突貫する。

 すると待ちかねていたように、

 アルビアンは左フリッカージャブを繰り出した。


 相変わらず速くて軌道が不規則だが、所詮は左ジャブ。 

 殺傷能力は高くない。


「奴の攻撃は私が受け止める! 

 その隙にヒョウガとキリシマが攻撃するんだ!」


 そう言いながら、左手に盾を構えながら、フリッカージャブを防ぐカーミラ。

 その間隙を突いて、俺は左側から、霧島は右側からアルビアンを挟撃する。


 俺は身を低くして、地を滑空してガゼルパンチを、霧島は大きく反動をつけて

 渾身の右フックを放った。 俺と霧島の阿吽の呼吸の連携攻撃が炸裂。



 俺のガゼルパンチはアルビアンの右肘でブロックされたが、

 霧島のスイング気味の右フックは綺麗な形でアルビアンの右顎側面ジョーに命中。

 わずかに身体をグラつかせるアルビアン。



 その刹那せつな、俺は身体を内側に捻り、左フックを二連打。

 最初の一撃がリバーブロウとなり、

 アルビアンも一瞬苦悶の表情を浮かべる。

 だが続いてテンプルを狙った二発目は、右腕でブロックされた。



 三対一の形で左右を挟撃されては、流石のアルビアンも一端下がるしかない。

 バックステップとサイドステップを駆使して距離を取ろうとするアルビアン。

 だが逃がすまいとカーミラが左手の盾を前に押し出しながら、前進する。



「……単純だが悪くない攻め方だ。 だが――」



 そう言いながらアルビアンはカーミラ目掛けて、フリッカージャブを放つ。

 ちょんと相手との距離を測り、

 そこからおもむろにチョッピングライトを繰り出す。


 がこんっ! 強烈な打撃音が鳴り響き、カーミラの手にした鉄製の盾がへこみ、

 その衝撃で数歩後ろに下がるカーミラ。 

 目にも止まらぬコンビネーションだ。


「し、信じられんっ! 素手で鉄の盾をへこませるとはっ!?」

「カーミラ、奴の右は絶対にまともに貰うな。 美人が台無しになるぜ」

「そ、そう願いたいものだな」と少し尻込みするカーミラ。


 このまま距離を取られたら、こちらが不利だ。

 だがこちらには魔術師マジシャンの真理亜と高火力のアイリスが居る。


「先輩、霧島さん、カーミラ! 下がってください! 

 このまま距離を取らせたら、敵の思う壺。 だけどそうはさせません。 

 我は魔術師マジシャン

 我はこの大地レヴァンガティアに祈りを捧げる。 

 母なる大地レヴァンガティアよ。 我に力を与えたまえ! 

 行けえええっ……シューティング・フレアッ!!」


 と叫ぶと、真理亜が手にした両手杖の先から燃え盛る炎の塊が生み出された。

 そして次の瞬間、真理亜の両手杖の先から、

 緋色の炎の塊が連続して発射される。


「我は僧侶プリースト、我はこの大地レヴァンガティアに祈りを捧げる。

 母なる大地レヴァンガティアよ。 我が友を護りたまえっ!!」


 後方からそう素早く呪文を紡ぐ声が聞こえた。

 俺は思わず声がした方向へ視線を向ける。

 そこには銀の錫杖しゃくじょうを手にした純白の法衣を着た女エルフが立っていた。

 恐らくこの女エルフがシャイアという名のアルビアンの仲間なのだろう。



 そして次の瞬間、ごおおおん、という轟音を引きながら放たれた緋色の炎が、

 アルビアンを呑み込んだ。 一瞬、球形に膨れ上がった炎が、

 たちまち激しい爆発を引き起こす。 


 高い火柱が起こり、アルビアンの全身が静止したまま、緋色の炎の餌食となる。 

 これだけの炎を一気に受けたら、流石のアルビアンも身動きは出来ない模様。


 だがそれまで防戦一方であったアルビアンが、

 炎に包まれながら前へ前へと一歩ずつ歩み寄る。 


 よく見るとアルビアンの周りが薄い白い膜で覆われている。

 恐らくさっきあの女エルフが咄嗟に対魔結界を張ったのであろう。

 そして炎に包まれながらも、アルビアンが不敵に笑った。


「……なかなか効いたぞ。 だがこの程度では俺は倒せん!!」


 と、炎に包まれたアルビアンが両拳を握り締めて、踏ん張る。


「ハアアアァァァッ――――!!」


 アルビアンがそう吼えると、大気が震え、その勢いで周囲の炎が消し飛ぶ。 

 恐らく咄嗟に全身に水の闘気を纏い、炎をレジストしたのであろう。

 そしてアルビアンはプスプスと身体の表面から煙と熱を発しながら――


「……反撃開始!!」


 と叫びながら、物凄い勢いで前方にダッシュする。


「なっ!? あれ程の火炎魔術を受けて、これ程の速さで……」


 カーミラがそう言い終える前に、

 アルビアンの右拳が神速の速さで繰り出された。

 ドカァン、という鈍い打撃音と共にカーミラが後方に吹っ飛ぶ。


「カ、カーミラッ!? クソッ……一撃で聖騎士パラディンを倒すとは!?

 一人でも厄介な上に後方には回復役ヒーラーが待機している。 

 ならばここはまずあの回復役ヒーラーを先に潰すっ!!

 アイリス、あの白い法衣を着た女エルフを倒してくれ!」

「なる程、あの女が咄嗟に対魔結界を張ったのね。 了解、私に任せなさいっ!」


 そう答えるとアイリスは手にした金色の片手棍を振り上げる。

 そして後方に待機する女エルフ目掛けて、物凄い勢いで突進する。


「うおおおおおおっ……メテオ・クラッシャー!!」


 繰り出される会心の一撃。

 金色の片手棍で殴打された女エルフは派手に後方に吹っ飛んだ。


 相手が紙装甲の回復役ヒーラーとはいえ一撃で倒すとは大したものだ。

 そしてアイリスは地べたに倒れる女エルフに対して、こう問うた。


「……アンタも魔帝軍と内通していたわけ? 何でそんな真似したのよ?」


 だがアイリスの問いに対して、女エルフは微笑を浮かべながらこう返した。


「ふっ……彼が、アルビアンがそれを望んだからよ。 私は彼の言う事なら

 何でも聞くわ。 だから今回もただ彼の命令に従っただけだわ……」

「何でよ? 何でそんな馬鹿な真似したのよっ!?」

「貴方まだ男性を愛した事ないでしょ? 女は愛する男の為なら何でもするのよ」

「……可哀想な人。 あの男はアンタを利用する事しか考えてないわよ?」


 だがアイリスの言葉を否定するように――


「それでもいいのよ。 大切なのは私が彼を愛したという事実……」


 とだけ告げると、そのまま意識を失った。

 しばらくの間、アイリスはその場に立ち尽していたが、

 すぐに俺達の所まで戻ってきた。


「……これでアンタはもう一人。 大人しく観念しないさいっ!」


 やや睨むように双眸を細めながら、

 手にした金色の片手棍を前へ突き出すアイリス。


「ふん、元々あの女は捨石にするつもりだったから構わん!」

「な、何ですって!? あ、アンタ、それでも男なの? 人間なの?」


 珍しく真剣に怒るアイリス。 彼女のこういう表情は初めて見た。


「何とでも言え。 利用できるものは何でも利用する。 それだけの話だ」

「ゆ、許せないわ。 アンタは女の敵よ! コイツだけは絶対に許せないわ!」

「ええ、関係ない私でも聞いてるだけでムカついてきます」と、真理亜。

「ああ、男の俺が聞いても気分が悪いぜ。 

 アルビアン、アンタを見損なったぜ!」

「激しく同意するよ。 アンタみたいな男を尊敬していた事を恥ずかしく思うよ」


 と、霧島も怒気を含めた声でそう告げた。

 だが眼前の男は動じるどころか、

 半ば開き直ったように不遜な態度を崩さない。


「何とでもいえ、所詮この世は弱肉強食。 

 強者が栄え、弱者は強者の養分となる。

 これは前の世界でもこの異世界でも変わらん。 

 だから俺は利用できる物は何でも利用する。 愛? 友情? 

 くだらん、そんな物、1レムの価値もない!

 さあ最早俺達に言葉は不要。 文句があるなら、実力で俺を倒すがいいさ!」


 そう言って再びヒットマンスタイルで構えるアルビアン。

 どうやらこの男にはもう何を言っても伝わらないようだ。

 ある意味可哀想な男だ。 自分以外の者は何も信じられないんだろうな。


 だが、だからこそこの男は、

 ボクシングという過酷で孤独な世界で成功したのかもしれん。


 かつては俺もそのような生き方に憧れた。

 だが今は違う。 少なくとも俺はアイリスや真理亜、カーミラを捨石にして

 何かをそうとは思わん。 馬鹿で無駄飯ぐらいの連中だが、

 俺と彼女らの中で最低限の信頼はある……と思う。


「霧島さん、俺とアンタで奴の注意を引きつけるぞ。 アイリス、その間隙を

 突いて、お前の超特大の一撃を奴に喰らわせてやれっ!」

「了解だ、雪村君」「いいわよ、あの女の敵に思い知らせてやるわ!」

「――よし、行くぞっ!」

 



次回の更新は2018年10月28日(日)の予定です。

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