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ボクサー異世界へ行く  作者: 如月文人
第四章 天才と噛ませ犬
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第四章 其の四


「アンタ、本当に優勝しちゃうなんて凄いね!」

「まあな。 でお前等は俺を餌にまた稼いだのかよ?」

「ふふん、アンタの忠告を聞いて決勝戦は掛け金を控え目にしてたけど、

 こんな事なら全額突っ込んでおくべきだったわね」


 と、得意気に胸を張るアイリス。


「まったくですよ。 正直先輩が霧島さんに勝つのは予想外でした。

 まあそれでもそれなりに稼がせてもらいましたけどね!」

「お、お前等なあ。 少しは俺の優勝を祝う気はねえのかよ?」

「ありますよ。 だって先輩、優勝賞金貰ったじゃないですか? ギラッ」


 そう言う真理亜の眼が妖しく光る。

 それに呼応するようにアイリスとカーミラもピンと耳を立てた。


「お、お前等なあ。 浅まし過ぎるぞ? 少しは俺をねぎらえよ?」

「いやあ、よく見るとヒョウガって……わりといい感じよね」とアイリス。

「そうですね。 凄く甲斐性がありますよね。 よっ、異世界一!」と真理亜。

「ご、五百万レム(約五百万円)。 それだけあれば何でも出来る、じゅるり……」


 と、ごくりと喉を鳴らすカーミラ。

 こいつ等、俺はお前等のATMじゃねえんだよっ!?

 と思いつつも優勝の喜びからか、こいつ等の言動も何処か許せた。


「まっ、少しぐらいなら贅沢させてやってもいいぜ!」

「「「やったあああっ」」」と、同時に万歳する三人。


 やれやれ、現金な奴等だぜ。

 とはいえまだ王者決定戦チャンピオンシップが残っている。


 確か王者決定戦チャンピオンシップの開始時間は午後の三時からか。 

 この試合に勝てば名実共に最強の称号が手に入る。


 ここまで来れば、当然それを狙いに行くべきだ。

 確か王者決定戦チャンピオンシップの優勝賞金は一千万レム(約一千万円)。

 そうなると賞金の総額は一千五百万かあ。 こいつはちょっとした富豪だな。


「おい、アイリス、カーミラでもいい。 

 お前等、ディフェンディング・チャンピオンの情報を何か知らないか?」

「ディフェン……? ああ、前回のチャンピオンの事よね?

 なんか超強いらしいわよ! でも大丈夫、ヒョウガなら勝てるわ!」

「私も詳しくは知らないが、なんか仮面で顔を隠してるらしい。

 なんでも今まで対戦相手の誰一人としてその仮面を割れなかったそうだ。

 そういう意味じゃかなり強いだろうな。 ヒョウガ、気をつけるんだぞ」


 ほう、アイリスは助言になってないが、カーミラの言葉は興味深いな。

 要するに絶対的な自信があるわけだ。 面白い、ならば俺がその仮面を

 割る初めての男になってやろうじゃねえか。 へへへ、燃えてきたぜ。


「ヒョウガ・ユキムラ選手。 そろそろ王者決定戦チャンピオンシップ

 始まりますので、会場に入場してください!」


 大会運営の係員らしき男が控え室に入るなりそう告げた。


「それじゃあな、お前等。 正直今度は勝てるか、わからない。

 だから掛け金の方は程々にしておけよ?

「大丈夫、大丈夫。 アタシはヒョウガを信じてるよ!」

「最後の稼ぎ時です! だから先輩、必ず勝ってくださいね!」

「ふ、二人とも、少しは真面目にヒョウガを応援しないか?

 ヒョウガ、くれぐれも無理するなよ?」と、カーミラ。


 やれやれ、こいつ等は最後まで変わらないな。

 だが泣いても、笑ってもこの一戦がラストバトル。

 ここまで来れば、やはり最後も勝って終わらせたい。


「それじゃあ、行って来るぜ。 お前等も気合入れて応援しろよ」


 それだけ言い残して、俺は意気揚々と試合会場へと向かった。

 観客席は相変わらず満員だ。 歓声や怒声が相変わらず五月蝿い。

 だがこれだけの観客の注目を一身に浴びるのは悪くない感じだ。

 しかし俺の浮ついたその気分も次の瞬間吹き飛んだ。


「……貴様も地球人の転生者か?」

「……えっ!?」


 俺は反射的に飛び退しさりながら、声の方向へ向いた。

 視線の先には漆黒のフーデッドローブを羽織った男が立っていた。 

 目深まぶかに下ろしたフードの中には純白の仮面。 

 仮面の中から覗く青い瞳が俺を見据えている。


「……どうやらそのようだな。 貴様の名前、東洋人か?」

「……アンタがディフェンディング・チャンピオンか?」


 俺達は開始線の近くで接近しながら、言葉を交わす。

 表向きは平静を装っているが、今の俺の心臓の鼓動は異様に高まっている。

 この男は「地球人の転生者」や「東洋人」などの言葉を口にした。

 それらの意味する事は言うまでもない。 つまりこの男も異世界転生者なのだ。


「……貴様もボクサーか? だが大した事はないな。 所詮アマチュアレベルだ」

「な、何っ!? 随分と上から物を言ってくれるじゃねえか!」

「……事実だからな。 貴様では俺に勝つ事は不可能だ」


 と、断言する眼前の仮面の男。

 だが俺はムカつきながらも、この男が放つオーラのような物に呑まれていた。

 どうやらこの男もボクサーのようだ。 それもかなりのレベルのボクサーだ。

 

「そろそろ試合が始まります。 両者、自分の開始線まで戻ってください」

 レフリーがそう告げて、俺達は開始線まで下がる。

「……貴様のサクセスロードもここまでだ」


 仮面の男は去り際にそう言い放った。

 確信に近いような響きの声。 だが俺にも意地がある。

 戦う前から、臆しているようでは勝てる戦いも勝てない。

 俺は気持ちを切り替えて、首と両手をポキポキと鳴らした。


「皆様、大変お待たせしました。 ただ今より王座決定戦チャンピオンシップ

 行います。 前大会の王者アンノウン選手に挑むのが、今大会の優勝者、

 ヒョウガ・ユキムラ選手です。 新進気鋭の挑戦者、それを迎え撃つ王者。

 果たして勝利を掴むのは、一体どちらでしょうか」


 まるでボクシングの世界戦のように長々と喋るレフリー。

 というかアンノウン選手だと? ふざけた名前をつけやがって!


「挑戦者ヒョウガ・ユキムラ選手対王者アンノウン選手による

 王座決定戦チャンピオンシップ。 試合時間は三十分。 

 それでは試合開始です、レッツファイトッ!」




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