表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボクサー異世界へ行く  作者: 如月文人
第三章 無差別級武闘大会
13/27

第三章 其の六


「「「「乾杯っ!!」」」」


 一日目の試合が全て終了して、

 冒険者ギルド内の酒場で俺達は乾杯の音頭を取った。

 準決勝、決勝。

 そして前大会王者との王座決定戦チャンピオンシップは明日行われる。


 まあ俺としては今日一日で全試合をこなしてもいいが、大会運営としては、

 興行的な面を考えて、このような日程にしたのであろう。


「ごく、ごく、ごく。 ぷはあっ! キンキンに冷えてるわ!」

「アイリス、オヤジ臭いぞ。 というか只のジュースじゃねえか?」

「いやいや今日はアンタのおかげで稼がせてもらったわ。

 掛け金に掛け金を重ねて、なんと八十万レム(約八十万円)も稼いだわよ!」


 マジかよ、人を餌にそんなに稼いだのかよ!?

 そういえば俺もカーミラに掛け金を渡していたな。


「おい、カーミラ。 例の金、ちゃんと俺に賭けたか?」

「勿論だとも。 おかげで随分と稼がせてもらったよ。

 これでしばらく討伐依頼なんかせずに済む。 うーん、幸せ~」

「ったくどいつもこいつも浮かれやがって! で総額はいくらだ?」

「ああ、総額六十万レム(約六十万円)だよ? まあ君の掛け金とは

 別に私もポケットマネーを賭けて、五十万程儲けたが……」

「私は総額九十万です。 うひひ、これでしばらく遊んで暮らせるわ!」


 カーミラに続き、真理亜までもがそう自慢げに語る。

 こいつ等、完全に浮かれてやがる。

 だがそれは俺も同じ。 だから細かい事は気にしないぜ!


「んじゃカーミラ、俺の掛け金の手数料として十万レム(約十万円)取っとけよ!」

「いいのか!? いやあヒョウガは凄いなあ。 戦えば連戦連勝!

 見たこともない技も使うし、甲斐性はあるし、凄い男だよ!

 あ、なんならまたアイリスの胸を触っても……きゃあっ!!」

「勝手に他人のセクハラ権売りつけてんじゃねえぞっ!!

 そう時は自分の身体で払うんだよ? 甘えてんじゃねえよ!」

「う、うっ……い、いきなりお尻を触らないで欲しい。 こう見えて

 私は敬虔けいけんなグリアス教徒だ。 夫となる男性以外には身体を触れられたく

 ないのだ。 こう見えて私は清い心と身体の持ち主なんだよ……」

「清い心の持ち主が博打で金を稼ぐか? 他人のセクハラ権売りつけるか?

 甘えんじゃねえ、金稼ぐなら身体張れ。 というかカーミラって結構クズいよな?」

「ううっ……ヒョウガだけには言われたくない」と、涙ぐむカーミラ。

「まあまあいいじゃん、いいじゃん。 細かい事は気にしないでおこう!

 アタシ達はセレブなのだ。 セ・レ・ブ。 ヒョウガ、明日も期待してるわよ!」


 このロリ巨級め。 何処まで調子がいいんだよ。

 だが今日の俺は機嫌がいい。 だから無礼講という事で許す。


「ところで真理亜、明日の準決勝進出者の情報はわかるか?」

「ん? いや私達基本的に先輩の試合しか観てませんよ? 

 何せ勝つ度にまたベットしていたので、忙しかったんですよ!」

「あのなあ、俺に勝って欲しいなら、対戦相手の情報とか提供しろよ。 

 ったくお前もこの世界へ来て本当にだらけたなあ~」

「大丈夫ですよ、先輩なら誰が来ても楽勝ですよ!

 だから明日も期待してますよ。 うひひ、明日も稼ぐぜ!」


 と、眼が$マークになっている真理亜。

 駄目だ、コイツ。 もう女子マネージャー時代の面影の欠片もない。

 やれやれ、この調子じゃアイリスやカーミラに聞いても同じだろうな。


 明日はベスト4の戦い。

 ここまで勝ち残った連中が弱いわけがない。

 少しでも情報が欲しかったが、こいつ等に期待した俺が馬鹿だった。


 しかもこのうたげに付き合うのは危険な気がする。

 どうせ夜遅くまで飲食を繰り返し、寝坊するパターンだ。

 無責任な観客のこいつ等はいいとして、出場選手である俺がそんな醜態を

 晒すわけにはいかん。 ここは早々に立ち去り、明日に備えて熟睡しよう。


「じゃあ俺は明日もあるから、もう宿屋へ戻るぜ」

「は~い、ヒョウガ。 たっぷり休んで明日も勝ってね!」

「先輩、お疲れ様です。 明日も期待してますよ」

「ヒョウガ、おやすみなさい。 私達も適当に切り上げて、明日に備えるよ」

「はいはい、んじゃおやすみ。 また明日な!」


 俺はそう言って踵を返した。

 そして明日に備えて、早めに就寝してたっぷりと静養した。



 翌日。

 試合会場であるアルザインの円形状の闘技場は満員御礼だった。

 闘技場の観客席にはびっしり観客が詰め寄せており、闘技場前の

 露天なども異様に賑わっている。 交通機関が発達していた前の世界なら

 いざしらずこの異世界において、ここまでの観客が集まるのは凄いの一言。


 それだけこの無差別級武闘大会の注目度が高い証だ。

 当然その恩恵は出場選手である俺達にも返って来る。


 職業ギルドのクラリス曰く、この大会で優勝すれば王族や貴族とも

 コネクションが出来て、後援者パトロンになってくれる事も珍しくないとの話。


 夢のある話だ。

 だが今は戦いに集中しよう。 その後の事はまたその時に考えたらいい。


 そして正午を迎え、俺が出場する準決勝第一試合が開始された。


「ただ今より第十五回無差別級武闘大会の準決勝第一試合を行います。

 まずは新進気鋭の拳士フィスター、ヒョウガ・ユキムラ選手の入場です!」


 ボクシングのタイトルマッチのようにレフリーにそう紹介されて、

 俺は控え室から出て、身体をゆさゆさと揺らしながら入場する。


「うおおお、ヒョウガ・ユキムラアッ!! 頑張れよー!!」

「また面白い技を披露してくれよっ!!」

「ヒョウガ、今日も勝ちなさいよ!」

「先輩、今日も稼がせてくださいね!」


 観客席から怒声と歓声が沸き立つ。

 ふっ、アイリス達は相変わらずだ。 少しは純粋に俺の応援しろよな。


「続いて猫妖精族ケットシーの希望の星! 

 魔術師マジシャンサルティナ・チャンドラー選手の入場です!」


 ほう、俺の対戦相手は猫妖精族ケットシーか。

 奴等は体力面ではヒューマンに劣るが、魔力面では大きく上回る。

 案の定対戦相手の職業ジョブ魔術師マジシャン

 こいつは警戒した方がいいな。


「頑張るニャ! ヒューマンなんかに負けるニャ!」

「サルティナァ! お前は我等、猫妖精族ケットシーの希望の星だニャ!」

「生意気な若造なんかに負けるニャ! 得意の魔術でぶっ飛ばすニャ!」


 おうおうおう。 観客席の猫妖精族ケットシーが沸いているな。

 というかこのアルザインにこんなに多くの猫妖精族ケットシーが居たのか?

 まあこれだけ注目度の高い大会だ。 各地から集結した可能性が高い。


 俺の対戦相手である魔術師マジシャンのサルティナは猫耳に尻尾という

 何処から見ても、猫妖精族ケットシーという姿で、服装は薄緑色の

 羽根付き帽子に同じくライトグリーンの上下のコートとズボンという格好。

 その手には高価そうな宝石が先端についた漆黒の両手杖が握られている。


「ふん、よろしくニャン」

「ああ、お互い良い試合をしよう」

「ふん、ヒューマンと馴れ合うつもりはないニャン」


 と、言って自分の持ち場に戻るサルティナ。

 身長はそれ程高くないな。 精々150前後というところか。

 まあ猫妖精族ケットシーとはいえ相手は女。 あまり手荒な真似はしたくないな。


「――では拳士フィスターヒョウガ・ユキムラ対魔術師マジシャン

 サルティナ・チャンドラーによる準決勝第一試合開始! レッツファイトッ!!」


 レフリーがそう宣言して試合が開始。

 すると予想に反して、サルティナが先制攻撃を仕掛けてきた。


「――行くだニャン! フレイムボルト連射バーストッ!!」


 連続して放たれる初級火炎魔術。

 やはり予想通り詠唱の短い初級魔術で攻めてきたか。

 俺は両手に水の闘気を纏い、迫り来る火炎弾に対して、

 左右の掌から水を放出して、上手い具合にレジストする。


「まだまだニャン! ――ライトニング・ボール連射バースト!!」


 間を置かず、初級光魔術が連発される。

 教科書通りの攻め方だが悪くはない。


 今度は左手に闇の闘気を宿らせながら、右手は水の闘気を纏う。

 俺は身体を揺らしながら、サイドステップとバックステップを

 駆使して迫り来る光弾を避ける。 だが自動追尾ホーミング機能が

 ついているのか、避けた光弾は大きく弧を描いて戻ってくる。


 それを一個ずつ左手に宿した闇の闘気でレジストしていたら、キリがない。

 そうすればサルティナはまた初級魔術を連発するだろう。

 なる程、力対力の戦いより対魔術戦の方が意外と大変だな。


 しかしこのままだとこちらが不利なのは明白だ。

 ならば少々をリスクを犯しても、攻勢に転じるべきだ。


 俺は両足に風の闘気を纏い、身を低くしながら地を蹴った。

 するとサルティナはやや驚いたような表情をしながらも――


「これ以上近づけさせないニャン! ――ウインド・ブレス!」


 と、手にした両手杖を前方に突き出し、再度初級魔術を詠唱する。

 後方から光弾が、前方から放射状に放たれた風魔術が迫っている。

 定石ならここはレジストするべきだが、俺は違う選択肢を選んだ。


「はあああああっ……ああああああぁっ!!」


 俺はそう叫びながら、両足で地を蹴り大きく飛翔した。

 そして空中でダンゴ虫のように身体を丸めながら、くるくると身体を

 回転させて、そのままの状態でサルティナ目掛けて突貫する。


「チッ、こいつ意外とやるニャン! 接近されるとヤバいニャン!

 ここは一端距離を取るしかないニャン! ――疾走スプリント!」


 そう言いながら、風の補助魔術を唱えるサルティナ。

 疾走スプリントは一時的に走力を大幅に上げる風魔術。

 恐らく一端距離を取って、また体勢を整えるつもりなんだろう。


 だがそうは問屋がおろさない。

 俺は身体を丸めながらも、両足で地面を蹴り軌道を変えた。

 そして右掌を前に突き出して、直線状に水を放出する。


「ニャッ!? み、水だニャン!?」


 一瞬硬直するサルティナ。

 猫といえば水が嫌い。 そしてそれは猫妖精族ケットシーも同じのようだ。

 俺は両足で再度地面を蹴り、そのままの勢いでサルティナに迫る。


「し、しまったニャン!」

「――遅いぜっ!!」


 サルティナを射程圏内に捉えた。

 そして俺は身を低くして地面を滑空しながら、ガゼルパンチを放った。


「ぐ、ぐほっ!?」


 ガゼルパンチがサルティナの腹部に命中。

 プルプルと身体を震わせて、悶絶するサルティナ。

 紙装甲の魔術師マジシャンは接近されたら終わりだ。


 こうなった時点で俺の勝利は約束されたようなもの。

 このままボコってもいいが、相手は女。 故に俺は降参を呼びかけた。


「さあ、もうお前の勝ち目はねえ。 このままボコボコにされるかぁ?

 俺のパンチは痛いぜ? まともに喰らえば病院送りモンだぜ!」

「ご、ごほごほっ……ま、待て、待つだニャン!?」

「待てといって待つ馬鹿が居るかよ? このままボコボコにされるか、

 それとも降参して楽になるか、どちらか好きな方を選べよ!?」

「ぐふっ……うううっ……わかったニャン! 降参するニャン!

 わ、私の負けだニャン! これ以上の抵抗は無駄だニャン!」


 両手を上げながら、降参するサルティナ。

 やや消化不良な結末に観客席からブーイングが浴びせられる。


「サルティナ選手の降参により……勝者ヒョウガ・ユキムラッ!!」


 レフリーにそう告げられて、俺の勝利が確定した。

 まあ相手は猫妖精族ケットシーとはいえ女。

 女を痛めつける趣味はない。 だからこれで良しとしよう。


「遂に決勝だあっ、ヒョウガ・ユキムラアッ!! 決勝戦も頑張れよー!!」

「絶対に優勝しろよなあぁっ!!」

「ヒョウガァ、アンタ最高よ! 決勝戦も勝ちなさいよっ!」

「先輩、優勝賞金楽しみにしてますよおぉっ!」


 観客席から怒声や声援が沸き飛ぶ。

 アイリスや真理亜は相変わらずだなあ。

 だが悪い気分ではない。 とりあえず次の対戦相手の試合でも観ておくか。


 俺としてもここまでくれば、やはり優勝したい。

 だから決勝戦の相手はこの眼で確かめておきたい。

 そして控え室で軽く休憩を取って、アイリス達の観客席へと向かう。

 

「よう、ちょっとお邪魔するぜ。 決勝戦の相手をこの眼で見たいからな」

「あっ、ヒョウガ。 決勝進出おめでとう。 アンタ、凄いわね」

「よう、アイリス。 相変わらずがめつく稼いでるか? だがあまり欲張るなよ?

 掛け金は程々にしておくんだな。 後で泣いても知らんぞ?」

「大丈夫、大丈夫。 ヒョウガの事信じているから!」


 やれやれ、何処までも調子の良い奴だ。

 俺はそう思いながら、真理亜の隣の席に座ろうとしたが――


「せ、先輩っ!? み、見てくださいっ!?」

「ん? どうした? 真理亜」

「あ、あの決勝戦の出場選手です!!」

 と、慌て気味に叫ぶ真理亜。

 釣られて目線を追うと――


「――では拳士フィスターハヤト・キリシマ対魔剣士まけんし

 ラムゼル・ロイスターによる準決勝第二試合開始! レッツファイトッ!!」


 ハヤト・キリシマだとっ!?

 そして俺の視線の先には見覚えのある顔があった。


 ややウェーブがかった栗色の髪。

 鋭い切れ長の眼。 全体的に整っている女受けしそうな甘いマスク。

 だがその鍛えられた全身から放たれるオーラは異質であった。


 そう、奴こそが前の世界で何度も俺の前に君臨した天才ボクサー。

 五輪も期待される高校ボクシングライト級六冠王者。 

 高校ボクシング界の期待の星・天才ボクサー霧島隼人きりしま はやと

 

 マジかよ!? 霧島隼人。 

 お前もこの異世界に転生していたのか!?


 

次回の更新は2018年10月24日(水)の予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ