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我ら撲滅委員会!  作者: 北野灰兎
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二話

「……む?昼休みがもう終わるな……」

 一通り雑魚共を蹴散らした後、雪姫は腕に着けていた時計に目を落とした。なんとあの騒動から十分とたっていなかったらしい。その事実に半ば愕然としていたが、雪姫がメリケンサックを指から外し、ポケットに突っ込んだ後に金属バットを刀のように腰に差して(よく見れば制服の中に専用のベルトが巻きつけてあった)こちらに近づいて来るのを見ると、一気に体中から嫌な汗が噴き出してきた。

 彼女は自分の名前を知っている。そしてなにか目的があって僕に近づいて来るのだ。もしかしたらあいつらのように僕も痛めつけられるかもしれない。

ザリッと土を踏む音と共に影が落ちる。彼女が目の前にくると、僕は情けなくも「ひぃっ!」と短い悲鳴を上げてしまった。

 殴られる……!そう考え身構えるが衝撃や痛みはなく、かわりに言葉がふってきた。

「今はもう昼休みが終わるからな。放課後また迎えに行くから待っていろ」

 顔をゆっくりと上げると目があった。

 僕はこの時どんな表情と目で彼女を見ていたのだろう。

 彼女は悲しそうに苦笑した。


 それから僕は半ば無意識に教室に戻り、授業を何事もないような顔をして受けていたが授業の内容も右から左。午後はほとんど意識がどこかへ飛んでいた。

 帰りのHRもあっという間に終わり、気づけば放課後になっていた。僕の席は窓側の一番後ろ。窓の外がよく見える。椅子に腰かけながら外を覗けば、気合の入った掛け声とともに運動部の人たちが走り回っているのが視界に入った。元気だなぁ、などと現実逃避気味の思考回路で雪姫を待つ。

 ほんとなら待ちたくない。今すぐに帰ってあの出来事を夢だ幻だと片づけてしまいたい。何度も逃げようかとも考えた。だが、あの後「逃げられると思うなよ?1―Cの伊藤茂君?」とあの悲しそうな表情から一変、完全な悪役のいい笑顔で言われてしまったので逃げれない。逃げても地の果てまで追ってくるぞあれは。

 その光景を想像し、恐ろしくなり身震いしていると、教室の後ろのドアがドアと思えない音と共に開け放たれた。

「またせたな!!」

 開け放たれた。というより破壊された。

 ずずぅ……ん。という音と共になぜかひしゃげて倒れたドア。これを破壊といわずになんという。

 ありえない光景に戸惑っていると、雪姫はまるで気にせずに近寄ってきた。

「遅くなってすまなかったな。もう少し早めに来るつもりだったんだが、自分の立場もわきまえない馬鹿どもがいたから少し説教をしてきた!」

 いい笑顔で言われたが、説教などとかわいらしいものではないだろうと考えたが、口に出すのはやめた。

「やれやれ……まったく学校をなんだと思っているのだか……」

 まるで友人と会話を楽しむように軽く話してはいるが、あの現場を実際目の当たりにしている僕はそれだけでなるほどと片付けられるような頭は持ち合わせてはいない。

納得も理解もしていない頭の中で今だ喋り続ける雪姫を見上げた。

 ……もしかしたら僕はそれを知りたくて今この教室に残っているのかもしれないな。

 自分自身理解していなかった自分の行動を頭の中で軽く整理すると一度目をそらし、椅子から立ち上がって目の前にいる台風のような雪姫と向き合った。もう目はそらさない。

 雪姫は喋っていた口を閉じ、じっと茂を見つめると、何を感じたのか、ニイィと男前に笑った。

「よし、じゃぁ、ついてこい!」

「はい!」

 返事をし、彼女の後ろをついていく。だが、当たり前のように通り過ぎてしまったので一応声をかけてみた。

「あの……ドア……」

「あぁ、あとで委員会の誰かに直させる」

 いいのかそれで。


◇◆◇◆◇◆◇


「自己紹介がまだだったな、私は2―Aの岩白雪姫。風紀委員長をしている。」

 ずいっと見せられた左腕には確かにその証である『風紀委員長』という文字の入った腕章が。というか先輩だったのか……。

「えと……僕の事はもう知ってますよね?」

「おう!必要ない時間の無駄だ!」

 自分の自己紹介を無駄と言われてしまった。ショックである。

 ちなみに今の現状はというとあれから僕はなぜか彼女に学校内を案内してもらっていた。

 学校内なのになぜか普通にローラーブレードを履いて走行中の雪姫(金属バットは持ってなかった)。それを見てほんとにこの人が風紀委員長で大丈夫なのかと考えながらも、自分の歩行速度にあわせてゆっくりと進む雪姫にすこしだけ感謝した。

「……ここが家庭科室。たまに授業で爆発事故が起こるが気にするな。その奥が理科室だな。蛍光灯が切れかけていて薄暗く、なおかつなぜかライトアップされ大量に置かれているホルマリン漬けの標本がマッチしてほどよいホラー感が味わえるぞ。子供がみたらトラウマ確実!」

「なんかさらっと恐ろしいこと言いまくってる!?爆発事故ってなにがあったの!?」

「理科室行ってみる?」

「全力でお断りさせていただきます!!」

「遠慮しなくていいのに……どうせ授業で使うだろ?ちなみに担当の先生も少しイカレてるから気を付けろ?」

「ひぃ……!!」

 子供じゃなくてもトラウマになる……!

 雪姫は楽しそうに笑いながらどんどん進んでいく。一つずつ丁寧に説明してくれるが、なぜか必ずホラーチックな注意を付け加えていく。おかげでこの学校の見方が百八十度変わってしまった。なんだこの怪奇学校。噂もあって七不思議じゃすまないぞ。むしろ授業で使う時にかなりの抵抗感があるぞこれは。

 まぁ、そんなこんなしているうちにもうほとんどの場所を見回った。場所を覚えているかはわからないが。

「じゃぁここで最後だ」

 色々連れまわされてさすがに疲れていたので少しほっとした。ここで最後なら今日はもう帰れる。帰ったら風呂に入ってゆっくり休もう。考えるのも全部明日にしようと考えていたが、一瞬にしてその望みは打ち砕かれた。

「ここが我が風紀委員会本部!そして伊藤茂!お前を風紀委員会へとスカウトする!!」

 雪姫は委員会本部である教室のドアの前で言い放った。

「え……?」

 えと……なんか意味の分からない単語があった気がする。

「スカート……?」

「おもしろくないな、潰すぞ?」

「すみませんっしたぁ!」

 すごいにこやかな笑みで言われた。まじこえぇ。

「スカウトだ!風紀委員に入れ!YES以外は聞かない!!」

 むぎゅ。と両手で耳を押さえて聞かざる状態。それではYESも聞こえないだろうに。

「なんで……?」

 色々と混乱して無意識に小さく呟くが、聞こえているのかいないのか。

 というか、今日会ったばかりの初対面の人間を急にスカウトって……。いくらいろいろと諦めている僕といえどもそれで「はいわかりました僕は今から風紀委員です」と言ってしまうほど僕は浅はかではない。

 口の動きだけで何を言っているのか気づいたらしい雪姫はおずおずと耳から手を話し、少し戸惑いながら口を開いた。

「嫌なのか?」

「それ以前の問題ですよ」

 少し伏し目がちに問いかけてきた雪姫に引け目を感じながらも、なんとか言い訳を考える。

「そもそもそんな簡単に決められるものでもないでしょう?委員会ってクラスでちゃんと決める時期と決め方が必ずあるはずなのに……」

 世間一般の常識を考えてそれは無理なことだと主張してみた。しかし雪姫は、あぁ、と納得したように頷いた。

「それがな、私のまとめる風紀委員会はな少し特殊?らしくてな。誰もなりたがらないんだよな。何も知らないやつが入ってはすぐに逃げてしまってな。おかげで年中人材不足。まぁ、昔からまともに人が入ったことなどないっぽいが」

 生徒手帳にも載っているぞ?という言葉と同時に生徒手帳を開き、委員会のページを開く。そこには委員を決める時期と決め方が載っていたが、一番最後の注意書きに「風紀委員会を除く」と書かれてあった。

 百歩譲ってそれはわかった。だが、雪姫のなぜか所々疑問形だったり他人事のような物言いに茂は少し眉を寄せた。

 まぁ、風紀委員の仕事が昼間のような暴力的なものであれば何も知らない人間で、正常な思考回路の持ち主なら逃げ出すのはわかる。そこは納得する。

「なので風紀委員は特別にいつでも人を入れていいことになっているんだな」

 うんうん。と自分が納得したように頷きながら説明を終えようとしたが、もう一つ思い出した、というような表情をし、手のひらを広げた状態で茂の顔の前に突き出した。

「ちなみに、今のメンバーの人数は私を含め五人だ」

「少な!!」

「あ、でもそのうちの一人はほとんど来ないからな。実質四人……かな……」

 何かを思い出したのか、その表情には苦笑が浮かんでいた。何かあったのかを聞いてもきっと答えは返ってこないだろうと思い、何も言わなかったが。

 しかし少ない。なんだ5人て。委員会としてどうなんだ。

 まぁ、そこは深く考えないようにして、今のところ常に視界に入っているもう一つの疑問を口にしてみた。

「じゃぁ、撲滅委員会って……?」

「え?」

 なんでそれを……。みたいな顔をしている雪姫に恐る恐る委員会本部のドアの隣に指をむけた。

「…………………………!!?」

 そこには『風紀委員会』と取り消し線が入った文字の隣に『撲滅委員会』とでかでかと書かれた札が壁に掛けられていた。

「またかこのやろぉぉぉぉ!!」

 バキャァ!

 一種にして粉砕された。ローラーブレードで。

フ ーッ!フーッ!と荒い息をついて粉砕された札をもう一度睨み付けてさらにメリケンサックを指に装着し、まるで親の仇のように恨みを込めた拳で殴りつけ粉々にしていく。      

 その様子はまるで猛獣というよりも、もはや鬼神だった。

 あまりの剣幕に尻込みしてしまう。近づけない。というか近づきたくない。むしろ帰りたい。

 一歩後ろに下がり、このまま走り出そうかと考えた瞬間、雪姫がグルン!と急に顔をこちらに向けてきた。鬼の形相をした雪姫に対し「ひっ!」と短く悲鳴を……ってあれ?デジャヴ?なんて現実逃避をしていると、思いっきり肩をつかまれた。やばい肩メリメリいってる。

「……とりあえず、中、入るぞ?」

「か、肩……痛い……」

「入るぞ?」

 メキィッ!

「はいぃ!!」

 めっちゃ瞳孔開いてる。やばい命の危機。むしろ肩のほうがやばい。折れるこれ折れる肩の骨折れちゃう!

 そのまま半ば引きずられるように部屋の中へと連れ込まれる。

 あぁもうどうにでもなれ。


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