幸福は白いかたち
第1回フリーワンライ
お題:
〇〇の犬(〇〇は自由)
寝ても覚めても
終わりははじまり
フリーワンライ企画概要
https://t.co/x1yNSCfKUv
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
溜息をつく黄昏時。白い吐息が瞬間凍結されて頬の熱を奪って行く。せめて夕焼け空なら風情も出るだろうに、冬の帳は容赦なく世界から色を奪っていた。
駅からの道は退屈すぎるのに、冷たい風が切りつけて、ぼんやりすることも許されない。電車の車内でポケットに突っ込んだ扁平の機器が、ほの温かく手のひらに存在感を主張してくる。が、歩きながらいじるほど倫理観の欠けた人間でもない。
紛らわせることの出来ない思考の空白に、とりとめもない想像が像を結びかけては消える。
――ぼんやりと、白い塊が見えた。
例えば。『シュレディンガーの猫』という思考実験がある。一定時間後までにほぼ確実に作動する毒ガスを入れた箱に猫を入れる。所定の時間を過ぎて毒ガスが充満した頃、猫はまだ生きているのか、それとももう死んでいるのか。箱を開けて実際に確認してみるまで、猫の生死は半々の確率で重なり合っている、というもの。
そう、それの犬版はどうだ。題して『シュレディンガーの犬』。どんなものかは実際に今実験してみよう……などとくだらないアナウンスを自ら当てつつ、家路を終えた。
鍵をカチャつかせて、さて、このドアを開けた時に犬がいるかいないかは
「わふっ」
玄関が解放された瞬間、あるいはその寸前に、まるでワープするかのように物体が飛び出してきた。思わず尻餅をついてしまって、そのせいで地面近くになった顔をベロンベロン舐められまくってしまう。
言うまでもなく白い物体とは犬で、我が愛すべき駄犬だ。
『シュレディンガーの犬』――ドアを開ければ必ず犬はそこにいる。起きていようが寝ていようが、家の中でどこにいて何をしていようと、飼い主が帰宅したらすっ飛んでくる。寝ても覚めてもご主人ラブ。それ以外の状態はいかなる確率でも存在しない。
「あー、わかったわかったわかった。はいはいただいま。わかったって。お前の一日はこれからが本番だもんな」
『幸福は白いかたち』了
ちなみに犬を飼った経験はありません。猫も。
全部が全部想像上の産物なので、ひょっとすると劇中にも実際には犬がいなかったのでは? ということに今思い至りました。脳内にだけ愛犬が存在する、それが『シュレディンガーの犬』だったり。こわ。アカン人や。
あ、あけましておめでとうございます。そして久しぶりの投稿。
昨年、開催者の判断によって惜しまれつつも終了してしまったフリーワンライ企画。何か事情があったのだとは思いますが結局予告されていた最終回も開催されず、歯切れが悪くてもやもやしていたのですが、この度有志の方の手で復活したとのこと。賑やかしにはなるだろうと参加しました。今後もちょくちょくやれればなあと。