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第一部 ~インスタント勇者①~

視点がぶれぶれだったので修正しました。(9/5)


とある政令指定都市の、とある女子高等学校。

その学校の三階、南側。

そこが高柳香澄たかやなぎかすみのクラスである一年一組の教室となっている。



かなりファンタジーな夢を見ていたが、これを見ているのが自分の部屋のベッドの上だったのなら遠慮なく続きを追うために二度寝するのになぁ…、と思いながら夢の内容について考えている香澄に、隣から声がかかる。



「ねぇ!香澄!やばいって!」と焦った声が聞こえる。


声に反応して香澄が現実に戻って正面を見ると、ついさっき眠りと楽しい夢を妨げた男性数学教師が、顔を真っ赤にして絶句している。



「おお、おまえはっ!!授業中に寝ておいて!!人が説教しているときに何を考えている!!」


「すっ、すいませんでしたぁ!!」


怒鳴りながら唾をとばしてくる数学教師に、生理的嫌悪感が半分、申し訳なさが半分といった気持ちでとりあえず謝罪する。

教師の怒りはそれくらいじゃ静まらなかったようで、授業が終わるまでネチネチと香澄だけを当て続けた。




「ほんと、よってぃの授業であんなに寝れるの香澄だけだよね~。」

「いや、あんな熟睡する気はなかったんだけどね…。」


休み時間になり隣の席の親友、日向ひなたが話しかけてくる。

『よってぃ』は数学教師の吉田先生の愛称。本人をこう呼ぶと怒る。


「うそだ~。気持ちよさそうに寝てたくせに!」

本当に授業の途中まではちゃんと起きていて授業を聞いていたのだが、普段の行いからかあまり信用はしてもらえないようであった。


「うう…。」

日向の突っ込みに、机に突っ伏して落ち込んでいると教室の外が少し騒がしくなった。



「あっ、ね、ねぇ香澄!あれ!」

本日二度目の日向の焦った声につられて廊下の方を見ると、上級生らしき三人組が教室のドアの前に立っていた。なぜ上級生か分かるかというと、この学校は制服のタイが学年で色分けされていて、香澄たち一年生は赤で、三人組は青だからだ。


そしてよく見ると四月に入学してきて半年間、何度も何度も顔を合わせている三人組だった。



「高柳さん。ちょっとお話がありまして。」


三人組の真ん中、亜麻色の髪を縦ロールにしてお嬢様言葉を喋る、あなたは二次元から出てきたんですか?と聞きたくなる人がこの三人の中でリーダー的存在のようだ。


本人が名前を名乗っているのを何度も聞いているのだが香澄に覚える気がなく、心の中で『縦ロル子』と呼んでいることは日向ですら知らない。



「わたしはお話はないです。」


と縦ロル子に答えると、左右に立っている取り巻き二人が口を挟んでくる。

この二人も名前は覚えていない、もとい覚える気がないので『モブ先輩A』『モブ先輩B』と呼んでいる。もちろん心の中で。



「上級生になんて口のきき方!」「先輩から話があるって言われたら走って来なさいよ!」

「大体あなたが私たちのお願いを素直に聞かないからよ!」「そうよそうよ!」

と口々に文句を言ってくる二人を、煩わしいと思いながら反論しようとした。


しかし、そこですっと縦ロル子が前に出て二人の文句を止め、

「まぁまぁ、未来の妹なんですからいまから仲良くなってもいいのです。さぁ高柳さん、いえ香澄さん。私たちにあなたのお兄様たちを紹介してくださらない?」

と言い放つ。



つまり彼女たちが話したい内容というのは、香澄の二人の兄を紹介してほしいということ。



香澄には二人の兄がいて長兄がれん、次兄がしゅうといい、とある女子校の隣にある男子校の生徒で、漣が三年生、愁が二年生である。



れんは、中性的な整った容姿で頭が良くて生徒会長で先生からも一目置かれていると香澄は聞いている。この女子校にもファンが多数いて、ミステリアスな雰囲気が堪らないと日向も絶賛していた。


しゅうも見た目は良い部類に入るが、一番の特徴は抜群の運動神経である。どのスポーツでも始めれば即表彰台に登れるとの評判で、すべての運動部の顧問が隙あらば入部の懇願に彼のもとを訪れているという噂までまことしやかに囁かれている。

現在はボクシング部に所属しており、高校生ながら実力は既に世界で通用するレベルであると言われている。



そんな見た目よし、将来性良しな二人を紹介してほしいと入学してすぐの香澄に近づいてきたのがこの三人。それから半年にわたってこのように頻繁に声をかけられている。


そのため、クラスメイトは君子危うきに近寄らず、といった感じで香澄と距離を取っており半年たった現在、友達が日向しかいないという状況に追い込まれている。

日向も「なんか入学早々、上級生に絡まれて面白そうだったし!」という理由で話しかけてきてくれた少し変な子であり、香澄の高校生活はもうスタート直後で躓いてしまっていた。


そんなことを思い出して少しイライラしていたので、三人を無視して廊下に出て逃亡を図ろうとした。

しかし当然、三人も追いかけてくる。

走って逃げるがもちろん三人も走って追いかけてくる。



「なんだかんだで、休み時間ぎりぎりまで逃げてたら諦めるでしょ。」

という香澄の目論見は、走っているうちに屋上に出てしまうという痛恨のミスによって失敗してしまった。

この学校は最上階の八階が屋上ではなく、六階に中庭のような屋上があるということを忘れてたのだ。


「はぁ、はぁ、もう、逃げられなくってよっ!」

お嬢様だから体力がないのか縦ロル子とモブ先輩A・Bは息も絶え絶えで喋っていた。


しかし追いつめられてしまって状況が悪いことは変わらない。


じりじりとフェンス際に追い込まれていく!


悪そうな表情で手をわきわきさせながら近づいてくる三人!


絶体絶命のピンチ!



(…いや、べつに暴力振るわれるわけじゃないし、始業のベルが鳴るまでごまかせばいいだけのことなんだけどね…。)

香澄は煩わしくて逃げだしたが、内心で逃げ回っている今の状況を楽しんでいた。


階段のせいであがった息と、少し高揚した気分を落ち着けながら屋上の金網フェンスにもたれた。



はずだった。


確かに背中にはフェンスの固い感触を感じていたが、あるはずの「抵抗」がなかった。


驚愕に目を見開いているモブ先輩A。

口元を抑えて真っ青な表情になっているモブ先輩B。

必死な形相でこちらに向けて駆け出し、手を伸ばしている縦ロル子。


そのまま重力に引っ張られるままに落ちていく。



走馬灯のようなものの中で

(ああこのまま落ちて死んだらお父さん、お母さん、れん兄さん、しゅう兄さん、日向は悲しむだろうなぁ…。)


(あの三人組、案外悪い人たちじゃなかったのかな…?特に縦ロル子は。)


(あのドラマの続きが気になるんだけどなぁ…。)


と現実から目を逸らしていたとき、思い出したことがあった。

小さい頃、兄たちとしていた約束。


~~~~~~~~~~


《ずっといっしょに3人でいようね!れんにい、しゅうにい!》


《わかったよ香澄。しゅうもそうだろ?》


《もちろんだ!れんにい!》


《ぜったいだよ?うそついたらおこるからね?》


《わかった。絶対だ。死ぬまで…、いや、死んでもそばにずっといるよ。》


れんにいが言うと本当に死んでもアンドロイドとか幽霊とかになって傍にいそうだよなぁ…。》


《ああ、肉体を機械化させる技術が確立するのはそう遠い未来じゃないからな。死霊術を極めて反魂はんこんの術を試したり、肉体を精霊化させたりして永遠の生命を求めるのもありだな。》


《ほええぇ?またれんにい、むずかしいこといってる~。》


れんにい!それは後半は倫理的にアウトだ!》


~~~~~~~~~~


「だめだ!!わたしが死んだられん兄さんが社会的に死ぬ!!!」


走馬灯で思い出したあの約束は、れんなら実際にやりかねないと香澄は確信していた。


死んでたまるかと目を見開き、手を空に向かって伸ばす!





…手を伸ばした先には、見知らぬ天井があった。


いや、見知らぬ岩肌があった。


そしていつの間にか自由落下している感覚もなくなっていて、背中はしっかりと地についていた。

厳密には、『フェンスを挟んで地についていた』の方が正しい。



状況を呑み込めない香澄が数秒ほどフリーズしていると、視界の端から女性の顔が覗き込んできた。



光り輝く金色の長い髪。宝石のような透明な蒼い眼。彫刻のように整った顔のパーツ。

絹のように滑らかな肌。着ている服は白を基調にところどころ朱色が見える和装。つまり…、


「巫女さんだ!」

香澄が叫ぶと金髪蒼眼の巫女は驚いて仰け反ってしまっていた。



(思わず叫んでしまったけど、なんで金髪蒼眼の外国人巫女がうちの学校に?)


(そしてここはどこ?わたしはだれ?…うん言ってみたかっただけ。)


叫んだことで少し落ち着きを取り戻した香澄が体を起こして辺りを見回すと、辺りは異様な光景だった。



教室よりも少し狭いくらいの広さがある洞窟の小部屋のような空間の真ん中に、フェンスに座った香澄とその隣に金髪巫女さん。


洞窟内ではあるが、ランプのような照明器具が岩の中に直接埋め込まれていて辺りを照らしているからか周囲の様子は問題なく見えていた。


入り口はゲームに出てきそうな木製のドアが一つだけ。


(なにここ?こんなとこ学校にあったっけ!?)

周囲の情報を得た結果、逆に混乱に陥りかけていたところ、



「هل أنت بخير؟」


仰け反った後に体勢を整えた金髪蒼眼の巫女が香澄に話しかけた言葉は、日本語ではなかった。

そして英語でもなかった。



「いや、あの、アイムジャパニーズオンリー…」

香澄の英語力はまあこんなもんである。

そもそも英語ではないので語学力は関係ないことが、唯一の救いなのかもしれない。



「من المحتمل أن يكون أصيب」


(…何を言っているかはわからないけど、わたしの体をじろじろ見ているということは…)

「すいません!わたし、今日は上下バラバラの下着なんですぅ!」




「…、لا أعرف ما تقوله، ذلك يرجى وضع هذه الحلقة في الوقت الحاضر.」

金髪巫女は困った目でこちらを見ながらそっと翡翠色に輝く指輪を差し出してきた。



「指輪…?つければいいんですか?」

いまいち状況が呑み込めない香澄は、とりあえず流れに身を任せてしまおうと考え指輪を受け取る。



とりあえず右手の人差し指にはめようとする香澄の手を取り、金髪巫女が優しい手つきで指輪を取り上げ、左手の薬指にはめ直してくれた。


「ありがとうございます。でもごめんなさい、これぶかぶかで…」

と香澄が指輪のざサイズがあっていないことを伝えようとした瞬間、


 シュゥゥゥン!


指輪が光り、指のサイズぴったりにまで縮んでいった。


「えっ?なにこれ!」

突然の不思議な出来事にあっけにとられていると

「翻訳の指輪ですよ。」

と金髪巫女が教えてくれた。



「なぁるほど!翻訳の指輪かぁ~!…ってそういうことではなく!」


「え?なにかありましたか?…ああ指輪のサイズが自動調節されたことですか?それは魔道具だからですよ。」


ノリ突っ込みを笑顔で返され、さらにわからない情報が増えてしまい脳の処理が追いつかずショート寸前の状態であたふたとしていると、金髪巫女が優しく問いかける。


「問題なく指輪が作動しているようなので、先ほどの質問をもう一度させていただきます。大丈夫ですか?怪我はしていないようですけれど。」



「え、ええ。特になんともなさそうですけど…」

言われて体を一通り動かしてみるがどこも痛む箇所はなく、制服も破れておらず外傷も見当たらなかった。


(いやでもそう考えたら逆におかしい。さっき確かに学校の屋上、六階の高さから落ちていたのに。無傷どころか死んでる可能性も高かったはずだけど…)

怪我もなく命に別条がないことが確認できたが、それが逆におかしいことに気付きパニックになりかけていた。


「あのっ!ここはどこですか?わたしさっき屋上から落ちて…なんでこんな洞窟にいるかわからなくて。あ、あと失礼なんですがあなたはどちら様でしょうか?うちの学校にこんな綺麗なALTの先生なんていなかったと思うんですけど…。」


つい焦って矢継ぎ早に質問をする香澄に、金髪巫女は嫌な顔一つせず、柔和な笑みを浮かべて答えた。


「ここは召喚の間です。詳しくはここを出て落ち着ける場所に移動してから説明しますね。あなたが無事な理由もその時に。そして私はルシーナ・フォルガンド。気軽にルシーナと呼んでください。」


普通にしていても絶世の美女と言っていいほどの美貌をもつルシーナが微笑むと、香澄の状況は最初と何一つ変わっていないのに、何故か安心感を感じていた。

落ち着いたルシーナの雰囲気や、見る者を引き込むような眼がそうさせるのだろうか。


(とりあえずはルシーナさんについていけば大丈夫そうかな…?)

そう思ってほっとしていると、唯一の出口の木製ドアの向こうから騒がしい声が聞こえてくる。



ダンダンダンッ!!

ダンダンダンダンッ!!



大きな音で何度も叩かれるドア。


思わず香澄は体を硬くてしまうが、ルシーナはそっと立ち上がりドアに向かって歩いていく。

立てば芍薬、座れば牡丹。歩く姿はなんとかの花、とはよく言ったもので思わずその流麗さに見蕩れてしまっていた。


(…これは油断すると百合の花が咲いてしまうかもしれない。)


と、香澄が自分の世界に飛びかけていると、

ルシーナがドアのカギを開け扉を開き、そこから飛び込んできた男の大声で現実に引き戻された。



「ルシーナ様!!大丈夫ですか!!お怪我はありませんか!!!」


大声の男は銀色の短髪でオールバックのように後ろに流れて逆立っている。

その髪はとても手入れされているとは言い難く、野性を感じさせる荒々しい印象と威圧感を見る者に与える。

身長は190センチを超え、銀色のプレートアーマーを装備していて実際には見えないが、筋骨隆々と表現したくなるような体形が容易に想像できる。



「大丈夫ですよ。ガルフェイン、お客様がいらっしゃるので少し声を落としていただけませんか?」


この洞窟の小部屋らしき場所は狭く、音がとてもよく反響し、ガルフェインと呼ばれた銀髪の男の大声で香澄は耳がおかしくなりそうだったが、ルシーナは普段から慣れているのか、顔色一つ変えずに答えていた。



「申し訳ありません!いつもより時間がかかっているようであったので心配で!!」

少し小さくはなったが、まだ香澄にとっては駅を通過する特急電車のような五月蠅さであった。



「これこれ、ガルフェイン。静かにしろと言っておるじゃろ。やかましくてかなわんわい。ああ返事はせんでええ。耳がおかしくなる。黙っておれ。」


ガルフェインの後ろから老人の声が聞こえて、ふと振り返ったことを香澄は後悔することになった。



いかにも魔法使いっぽい深緑色のローブを着て、魔法使いっぽい先端がへにゃっとなっている三角帽子をかぶり、頂部に水晶が取り付けられているかなり年季の入ったいかにも魔法使いっぽい見た目の大杖を持っている。


二足歩行のトカゲ人間が。


香澄は泡を吹いて倒れた。

ファンタジーな夢のため二度寝したい、という願望が不本意な形で叶ってしまった。


転移前パート、長かった気がする。

次回から本格的?に本編が始まります!


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