~プロローグ~
初投稿です。読みにくい点等ありましたらご容赦ください。
目の前に浮かぶかろうじて人型だとわかる巨大な黒い霧。
地面からゆうに20メートルほどの高さにあるその頭部らしき辺りに二つの光。
見る者全てに恐怖を抱かせるような朱く光る眼。
朱き眼が捉えているのは5人の冒険者らしき人影とその後ろにそびえ立つ白磁の聖教会。
「クソッ!こんなもんが出てくるなんて聞いてねえぞ!割に合わねえ!帰らせてくれ!」
悪態をつきながら、目の前の黒い霧との戦闘準備を整える黒髪の男。
言葉に反して慣れた手付きで背嚢を下ろし軽装の防具を整えロングソードと小盾を構えるその所作は、男がこれまでに少なくない数の修羅場を乗り越えてきたことを物語っている。
「大丈夫よ。死んだら帰れるわ。…ご先祖様のところへ。むしろ早く還って。大地に。」
男の悪態に辛辣な返しをするのは、この世のものとは思えないほど美しく赤く光る髪をたなびかせる少女。年齢は10代後半といったところか。
黒いゴシック調のドレスは戦闘にはまったく向かない作りになっているが、ドレスの素材、形状、刺繍のどれをとっても魔術的に最高品質のものであり、着る魔力増幅器となっている。そのドレスによって増幅された魔力が、少女が右手に構えている30cmほどの小杖に集中し先端の空間が魔力波で歪んで見えている。
「…土に還るのは嫌。この国では。」
「いや、どこの国だったとしてもまだ死ぬのは嫌だよ姉さん!」
白いフード付きローブから覗く白い髪の少女と少年は見たところ双子のようである。10代前半の幼い容姿に加え、姉のほうは青い眼をとろんとさせ意識を半分手放しながら返答をする様子が、実年齢よりもさらに幼く感じさせる。
そんな姉に焦った様子で突っ込みを入れる弟は、おそらくいままでも苦労してきたのであろう。
姉とは違う碧色の眼に涙を浮かべながら魔道書を左手に持ち、姉をかばうように移動している。
「ッガアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
目の前の冒険者達があまり恐怖を感じていないからか、苛立った様子で咆哮をあげ、腕らしき部分を振り上げる黒い霧。
「っ!まずいぞ!弟、防御壁を!」
「ちょっと待ってください!ページが!」
黒髪の男が慌てて双子の弟に指示を出すが、魔道書のページを捲る手が恐怖で震えて思うように動かない。
その様子を見て、黒い霧の朱い眼が「バカめ!」と言いたげに明滅する。
振りあがった腕のような部分が振り下ろされる瞬間。
「ここ」
弟の横から伸びてきた何者かの手が防御壁のページを捲り当てる。
それと同時に詠唱し、魔道書が輝く。
『ミズガルスの壁!』
魔道書から放たれた光が黒い霧と冒険者の間に壁を発生させ、振り下ろされた腕を受け止めて完全に勢いを殺す。
「よし!やるじゃないか、弟!」
男が安心したように喜ぶが、
「バカっ!ミズガルズの壁は未完成の壁の話でしょ!」
赤い髪の少女が叫ぶ。
バリィィィィン!!!
その直後、光の壁は金属音を立てて消えてゆく。
「…もう一回」
双子の姉が警戒を呼びかける。
黒い霧が逆の腕を振り上げようとしているところであった。
「詠唱インターバルがあるので防御壁は発動できません!」
「命がかかってるんだ!死ぬ気でなんとかしろ!!」
「無理ですぅ!!」
「うるさい!二人とも役に立たないなら黙ってなさい!」
弟と男が言い合っているところを赤髪の少女が叱責する。
「…カスミ」
姉が指差す方向に視線を向けると
「どおうぅりゃゃあああああああ!」
背後から女性の声で、およそ女性が出すような掛け声ではない声が聞こえ全員が振り返ると、
聖教会の屋根から飛び立つ少女が見えた。
黒髪の男とそう変わらない軽装備の少女。男と明らかに違うのはその腰に巻かれた複数のホルスターがついたベルト。
そのホルスターのうち二つに手で触れると少女の背中が輝きだした。
右の肩甲骨辺りから生えてきたのは純白の翼。
神話を描いた絵画に出てくる天使のようなものではなく、あくまで空を飛ぶために設計された鳥の羽。
しかしその美しさは天使のそれに勝るとも劣らない。
左の肩甲骨辺りから生えてきたのは黒い鱗で覆われた鳥のものとは全く違う翼。
龍の翼のような形だが、翼膜は限りなく軽量化されており龍のなかでも飛行に特化した飛龍の翼のようであった。
その一対とはとても呼べない背中の翼で空を駆け、黒い霧に向かって突っ込んでいく少女。
誰もが無謀な行動に悲惨な結果が脳裏をよぎった次の瞬間…
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ガタンッ!!
「ひっ!」
寝ているときにガクンとなってしまうとってもビビるあれで目を覚ましたカスミは、目の前でこめかみに青筋を立てている数学教師の顔を見て
『これも夢だったらどんなにいいか…』と叶わない願いを、夢の中で出てきた聖教会の神様に祈ってみた。
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