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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕なら君を泣かせない

作者: らら

僕なら君を泣かせない


平凡な鹿生かのうたすくの数少ない特徴の一つに喜怒哀楽が分かり辛いというのがある。元々喋ることがあまり得意ではない上、感情が上手く表に出ないらしく周りからは「いつも冷静だね」とか「なにを考えてるか分からない」といった類いのことをよく言われるのだ。そんな自分の性格をたすくは昔からよくよく自覚出来ていた。だから恋人と喧嘩した翌日だろうと、表情はもちろん、態度やちょっとした仕草でさえ、いつもと全く同じように振る舞えていると自負していた。現に先程帰った友人達からは最後まで指摘されることはなかった。放課後もこの調子でいつも通り遣り過ごせれば、誰に気付かれることなく一日を終えられるはずだ。


──そう、思っていたのに。


勉強が出来るたすくは生徒会役員の一人に選ばれ、書記を任されていた。生徒会室で仕事をしていると生徒会長である鏡達樹かがみたつきがいつも以上にたすくを気に掛けてくる。鏡はたすくと違いとても分かりやすい性格の男だった。喜怒哀楽を真っ直ぐに滲ませる表情は彩り豊かにキラキラと輝いていて、ただでさえハッとするほど人を惹き付けてしまう容姿を持っている彼の魅力はいつだって溢れんばかりだ。少し格好付けなところがあるのでそこが玉に瑕だと思うのだが、目をハートにした生徒達からは「王子様みたい」と呼ばれはしゃがれているので気にしているのはたすくだけらしい。何にせよ、鏡は己の感情を隠さず思うままに振る舞っている。鏡はたすくに特別甘く、優しい。室内に二人きりだという条件も大いに作用しているのだろう。今日の鏡はいつも以上にあからさまで、しかしたすくは気の所為だといつも通り、遣り過ごそうと思っていたのだが──。


篤久あつひさと喧嘩したの?」


鏡のストレート過ぎる質問で失敗に終わった。たすくはゆっくりと瞳を瞬かせながら思う。


(この人にはバレてしまう)


上手く出せないと自覚してる喜怒哀楽を……。これでもう何度目か分からない。いつもいつも鏡はたすくの表情をさらりと読み取って言い当ててしまうのだ。どうしてバレてしまうのかは考えないようにしている。決して自惚れではなく痛いくらいに鏡の想いが伝わってくるのだが、ちゃんとした言葉で言われた事は未だ一度もないので、あえて思考を巡らさなくてもいいだろうと目を反らし続けていた。


(第一、俺にはあっちゃんがいるし)


あっちゃん──篤久は副会長でたすくの恋人で幼なじみだ。今日は別件があるらしく生徒会室には来ないようで、寂しい反面どこかホッとしている自分がいる。昨日の喧嘩を思い出す。文武両道で容姿端麗な篤久は、もうそれだけでモテる要素が有り余るほどあるというのに面倒見も良く頼りがいもあるのだ。昨日だって可愛らしい顔立ちをした男の子──華多はなたから相談をされていた。華多は事あるごとに篤久を頼って相談に来ていた。最初のうちはたすくも華多に同情的だったが、そう何度も篤久を頼られると面白くない。華多は相談そのものではなく篤久目当てなのが露骨になってきた。それを包み隠さず指摘すれば、篤久は「ヤキモチを妬くな」と怒った。「そんなんじゃないよ」たすくはついムキになって反論する。するとまた篤久から言葉の刺が返ってくる。そこからは売り言葉に買い言葉で盛大な喧嘩を繰り広げてしまった。こんなはずではなかったのに。たすくは一人になるとわんわん泣いて、一晩過ごした。



「たすく」


すっかり考え込んでしまったたすくの直ぐ近くで聞こえてきた鏡の声を合図にふと意識を浮上させた。思ったよりも時間が経ってしまっていたらしい。はらはら顔の鏡はたすくを心配そうに見ていた。ここでようやく質問されていたまま答えを放置していたことを思い出す。返事をしなかった所為で元気がないと取られたのだろう。鏡の張った男らしい、大きな手でよしよしと頭を撫でられる。


「子供じゃないよ」


何だかとても可愛らしい慰め方につい笑ってしまった。たすくの笑顔に安心したように鏡はふっと目を細めて微笑む。その眼差しは驚くほど情熱的でたすくだけを愛しげに見つめていた。


ドキリ、とした。


(やばい……)


そう悟った時には鏡の視線と交じり合い、まるで時が止まってしまったかのように目をそらせなかった。くらくらと、眩暈にも似た覚束無さがたすくを支配して喉が乾いていく。抗おうと喉元をゆっくりと上下した時だった。


「好きだ、たすく。俺なら篤久よりも笑わせられるよ」


そう、あまりにも自然に言うから一瞬聞き流してしまおうか、なんて、そんな狡い考えが咄嗟に浮かんでしまう。しかしハッキリと言葉にされた以上、鏡の気持ちは返さなければならないと思い直した。


瞳はそらさない。


(あっちゃんがいるし)


目の前の鏡を見ながらも恋人のことをもう一度思い浮かべて覚悟を決めた。


「俺、たっちゃんといると楽しいし、笑えるよ……でも、でもね」


先程まで笑っていた鏡の双眸が、今度は悲しそうに揺らめいてしまったのでたすくは言い淀んでしまう。しかしその躊躇いは僅かの間で直ぐに考え直した。自分には篤久がいるのだ。優しさの意味を取り間違えてはいけない、と口を開く。






「俺は貴方には泣かされないよ」



──貴方の為には泣かないよ、と。


恋人の篤久と友人の鏡との決定的な違い。つまりはそういう事なのだ。それまで繋いでいた視線は鏡の方から外れた。うつ向いてしまった顔は驚くほど曇っていてたすくの胸はズキズキと痛む。傷付けたい訳じゃないのに。でも生半可な優しさは余計に傷を広げてしまうと思うので、間違ってはいないのだとたすくは自分自身の行動を肯定する。二人の間に重い沈黙が落ちた。こんな時、どうすればいいのだろうか。きゅっと下唇を噛んだたすくに鏡がふ、と一息を吐いて顔を上げた。再び、二人の視線が交わり空気が和らいでいくのが分かる。



「笑わせる自信はあるけど、泣かせる自信はないな」


これでも王子様なんて呼ばれてるからね、と鏡は冗談を言って笑ってみせる。たすくの目頭が熱くなった。結局最後までたすくには甘いのだ、彼は。傷付けてしまった鏡の方が笑うので、たすくも無理矢理笑顔を作ってみせる。ただでさえ表情下手なのにきっと今までで一番不格好な笑顔に違いないと思いながら。

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