アルール歴2182年 7月8日(同時刻)
――カナリス2級審問官の場合――
朝一番から通り一遍の事務的な仕事を片付け、基礎的な体力トレーニングと武術トレーニングを終わらせると、気がつけばもう午後2時を過ぎようとしていた。
今回のように長期間、最前線で捜査を続けていると、体力的にも技術的にも基礎力が損なわれていく傾向にある。ランニングや各種筋力トレーニングにはじまり、武器を使った基礎的な鍛錬、無手格闘の基礎訓練といった、体を動かす基本となる能力は、実のところ、任務中にどんどん衰えていくのだ。
市井で流行の戯曲が描くように、「実戦で磨き上げたカンによって群がる敵を次々に切り倒していく」などといったことは、実際には起こらない。こと荒事に限って言えば、実戦で磨かれるカンといえばせいぜいがいつ逃げるべきか程度であって、むしろ「実戦で消耗し続けたことによる基礎能力の衰えを、ついに隠しきれなくなって戦死する」というのが実戦で起こることだ。
事実私も、帝都に帰還し、ある程度まで状況が落ち着いたところで審問会派専用の運動場で自主トレを再開した直後は、ひどいものだった。実力を測るために軽く20キロほど走ってみたところ、15キロ近くでほとんど何も考えられなくなり、走りきったときには荒い息をつきながらしばし動けなかった。
サンサに出向く前であれば、ハルナを後ろに従え、聖歌を歌いながら楽しんで走れた距離だ。だが捜査に集中する毎日(さもなくば馬車で移動する毎日)を1年半近く続けていれば、体力はここまで衰える。武器を操る正確さや格闘技術に至っては、何をか言わんや。
ともあれ、衰えたものは取り戻すしかない。幸い、審問会派には任務が開けた審問官が基礎体力と技術を磨き直す専用のプログラムが存在するので、若干不本意ではあるがそれを活用することにした。私としては「未だ任務の途上にあり」が本音なのだが、この件に関しては意地を張る場面ではあるまい。
そんなこんなで今日の再トレーニングプログラムを終えた私は、訓練場の水場で体を清めてから、パウル1級審問官の執務室に向かった。
と言っても、パウルに会うためではない。なにせ奴は帝都での政治工作に忙しく、執務室に滞在している時間は非常に短いという。私としては「そんなことでは衰えた体力を取り戻せんぞ」と言いたくなるところではあるが、政治戦においては彼に完全依存している自分がそれを言うのは筋違いも甚だしいだろう。
パウルの執務室に入ると、そこには大量の書類を右から左に捌き続けているライザンドラ見習いと、我関せずで書物に首ったけになっているユーリーン司祭がいた。これもまた、もう見慣れた風景だ。
ライザンドラ見習い曰く、事実上の食客であるユーリーン司祭は、自分がなすべき仕事がまったく存在しない(表向き、ユーリーン司祭は審問会派が勾留しているのだから当然だ)ことに極めて強く恐縮しているらしいのだが、いったん神学関係の最新文献を読み始めたが最後、本を無理やり取り上げるくらいのことをしなくては食事すら忘れて読書に没頭するという。
いやはや、サンサ教区で見たユーリーン司祭は「異様に博学で勤勉な司祭」といったところだったが、おそらくは今の彼女のほうが本来の姿なのだろう。
私が入室してきたことに気づいたライザンドラ見習いは、私に向かって軽く会釈をすると、目の前に広がった書類をひとまとめに片付けた。座ったままちょっと伸びをしてから立ち上がると、特に何も言うこともなく、執務室備え付けのミニキッチンに向かう。
私はその様子を見るとはなしに見ながら、最近ではすっかり定位置となりつつある、小さな応接セットのソファに腰をおろした。言うまでもないが、ユーリーン司祭はこの間、ただひたすら本に集中している。
それから10分ほどで、銀のポットを手にしたライザンドラ見習いが執務室に戻ってきた。給湯室でお湯をもらってきたのだろう。彼女は実に手際よく応接セットのテーブルの上にティーセット一式を並べると、陶器製のティーポットにお湯を注いだ。茶の味に疎い私だが、彼女が選んだ茶葉の香りは素晴らしいものだと毎回思う。
私は私で土産に買ってきたクッキーを、ライザンドラ見習いが置いた皿の上に広げた。まだあまり名の知られていない店のものだが舌触りも味も申し分なく、審問会派の訓練場に近いこともあって最近では常連になりつつある。
しかるに準備万端となったところで、ライザンドラ見習いがユーリーン司祭の読んでいる本のページに、そっと指をかざした。どうやら彼女はユーリーン司祭がどのあたりを読んでいるのかわかるらしく、読書を邪魔されたユーリーン司祭は一瞬むっとした表情になったが、すぐに恥じ入るような顔になって、本を閉じた。これももう、このところ毎日のルーチーンだ。
「今日もこんな素晴らしいものを、わざわざありがとうございます」
恐縮しきって礼を言うユーリーン司祭に、私は「こちらこそ大事な研究を邪魔して申し訳ない」と返す。ボニサグス派にとって学ぶということは生きることであり、それすなわち祈ることであり、神に尽くすことであるという言葉は、彼女を見ているとこういうことかと納得できる。
派閥の開祖たるボニサグス司祭は、読書に夢中になるあまり、過ぎ越しのミサも新年のミサも忘れてしまい、信徒たちに「司祭に何かがあったのでは」と心配されたという逸話が残っているそうだが、さもありなんだ。いや、それはさすがにマズいだろうとも思うが。
個人的な感想はともかく、私たちは短く神に感謝の祈りを捧げてから、お茶とクッキーに取り掛かった。
今日のクッキーも、実に良い仕上がりだ。どこまでも軽い舌触りと歯ごたえを追求したという、若きパティシエこだわりの逸品は、口に入れただけで淡雪のように溶けていく。それでいて、最初にさくりと軽やかな歯ごたえがあるのがまた素晴らしい。
この手の楽しみに不慣れなユーリーン司祭でさえ無心で味わっているのを見ると、買ってきてよかったと、素直に思える。
だが今日は、ただ素晴らしい菓子を楽しむだけでは済ませられない。クッキーがあらかた皆の胃の中に消えたところで、私は話を切り出した。
「パウルから簡単な報告は受けている。随分と難しい橋を渡っていることは、理解した。
ライザンドラ見習いも、帝都政界のど真ん中で魑魅魍魎どもと堂々と渡り合っているようで、何よりだ。政治工作においては、既に私よりも上手であろうな」
これはなにも、彼女をおだてているわけではない。パウルも師匠も、「ライザンドラ見習いの交渉力は1級審問官クラス」と認めている。
私が未だに公式には2級審問官なのはこの手の政治を忌避しているからであり、師匠が「1級審問官と肩を並べる」と言うのであれば、政治工作において彼女は既に私より上なのだと考えるべきだろう。
そしてだからこそ、私は口うるさいと思われることを覚悟で、一言を付け加えておく。
「それだけに君は、もっと基礎トレーニングに時間を使い給え。
審問官たる者、たとえ教理課の研究職であっても、総務課の事務職員であっても、武器を手に戦い、敵に勝つ能力が求められる。
『審問会派に後方なし』の言葉を、審問官自身が裏切ってはならない。たとえ未だ見習いであったとしても、だ」
私のお小言に、ライザンドラ見習いは神妙な顔で頷く。
ダーヴの街で彼女を見習いとして採用した直後よりは随分マシになった(パウルが彼女を見習いとして採用すると聞いた直後、試しに赤牙団の屋内練習場で特別行動班と一緒に短距離往復ダッシュ50本をやらせたら、30本目あたりで床に這いつくばってピクリとも動けなくなっていた)とはいえ、彼女はまだまだ「戦える」と言えるレベルにはない。あの小さな体で小器用に立ち回ってみせたハルナとは比較しようもないほどの素人だ。
「さて、とはいえこれをあまり強く言えば、私も師匠から『貴様は座学を鍛えなおす必要があるようだな』と凄まれよう。鬼の居ぬ間のなんとやら、これ以上は追求すまい。
それよりも今日は、貴女らに少し、相談に乗ってほしい」
私の言葉に対し真っ先に反応したのは、ユーリーン司祭だった。
「――いま貴女らとおっしゃいましたが、私も、ですか?
審問会派の捜査に関わることなら、私は席を外すべきかと思いますが……」
無論、厳密な筋論で言えば、それが正しい。
だが形式的には彼女を勾留している側としては、席を外されてしまっても面倒だ。その間、彼女を見張っている別の審問官が必要になる。
「いや、願わくばユーリーン司祭にもご協力頂きたい。
サンサ教区においては、司祭の知見は幾度も決定的な転機をもたらした。願わくばその知恵を、この場でも拝借したい。
それに今日相談したいのは、ナオキに関することだ。彼と少なからぬ交流があったユーリーン司祭には、むしろ積極的な同席を願いたい」
私の言葉に、二人は一気に緊張の度を増した。当然だろう。ナオキは私とパウルが追う最重要ターゲットだが、彼女らにとってみると恩人でもある。そう簡単に「割り切った話」はできまい。
「さて、まずは現状分析だ。
我々の目的は、ナオキ容疑者の確保。それに尽きる。それを実現するための下地を作るために、パウルもライザンドラ見習いも奔走しているのだからな。
一方で我々とナオキの関係だが、これについて言葉を飾らずに言えば、我々はナオキに翻弄され続けた。
なるほど彼は自分の商会を失い、傭兵団を失い、サンサ教区における人脈の多くから遮断され、少なくとも審問会派内部においては最重要容疑者として情報が共有され、そして今は行方も知れず落ち延びている」
ライザンドラ見習いは神妙に、ユーリーン司祭は冷静に、それぞれ小さく頷く。
「だが彼がダーヴの街に初めて姿を見せ、賭博王として名を上げる以前、彼はまったくの徒手空拳だったという。
つまり彼は自分の商会も、傭兵団も、ダーヴの街における地位も、サンサ教区における人脈も、その何もかもを、ゼロから作り上げたのだ。
この情報に誤りはないな、ライザンドラ見習い?」
透き通るようなアイスブルーの瞳が一瞬閉じられ、それから、見事なまでに整った唇が同意と承認の言葉を語った。
「よろしい。
つまりナオキは多くを失ったと言ったが、実のところ差し引きではプラスになっている。
ナオキが逃亡した際、傭兵ザリナを筆頭とした元赤牙団の精鋭部隊によって、彼の身柄は奪取されている。従って彼は人脈のすべてを失ったわけではないし、傭兵団のすべてを失ったわけでもない。
また、傭兵ザリナとその一味は、元ナオキ商会から多額の金塊を持ち逃げしている。普通に生きていくのであれば、しばらく困らない程度のカネだ。彼は、経済力のすべてを失ったわけでもない」
私の指摘に対し、ユーリーン司祭は少し感心したような表情で同意の言葉を語った。
「なるほど、その視点はありませんでした。
もし彼が最初にダーヴの街に姿を現したその段階から彼の何らかの企みが始まっていたのだとすれば、現状、彼の収支はプラスと言えるかもしれません。
とはいえ、審問会派に最重要容疑者として指名手配されているというのは、けして小さなマイナスとも思えませんが?」
実にユーリーン司祭らしい指摘だ。だが遺憾ながら、その指摘はあまり正しくはない。
そしてこれは「正しくはないのだが、正しくないと宣言するのがとても難しい」案件でもあり、思わず私は口ごもってしまった。
と、私の苦慮を理解したライザンドラ見習いが、素早く解説を引き取ってくれた。
「審問会派に指名手配されるというのが致命的な問題になり得るのは、主に帝都に住む人だけだ、と言っていいかもしれません。
確かに、手配書には人相書きや名前が乗っています。
ですが人の印象など簡単に変わるものです。極端な話、よほど訓練された人でない限り、髪の毛を全部剃られてしまうだけでも、似顔絵からの識別はほとんど無理になってしまいます。
失礼ながらユーリーン司祭は、ニリアン領に赴任されていた頃にそういった手配書を見て、目的の人物を識別し、通報できたと思いますか?」
ユーリーン司祭は腕組みをして少し考え込むと、首を横に振った。
「お恥ずかしながら無理だったかと。
ナオキがニリアン領に来るまではただただ絶望に支配されていましたし、それからは帝都時代でも味わったことのないくらいに激動の毎日でした。最大の努力はしたと思いますが――成果は怪しいですね。
ですが、例えば辺境に飛ばされはしたけれど、野心を失わなかった人にとってみれば、そういった手配書は大きなチャンスとなるのでは?
帝国辺境の小規模コミュニティは基本的に閉鎖的で、余所者に敏感です。
十分に発見・通報のチャンスはあるようにも思えますが……」
さすがと言うべきか、ユーリーン司祭は基本的には納得がいっていないようだった。
ライザンドラ見習いは自分の説明がいささか属人性の強いものだった(つまり「ユーリーン司祭では気づかなかったでしょう?」という説明)ことを反省したのか、やや姿勢を正してユーリーン司祭に向き直る。
ユーリーン司祭と対峙した者は、ライザンドラ見習いでさえ、「曖昧であること」を許されないのだ。
「ユーリーン司祭とは、綺麗事では戦えませんね……結果論ですが司祭を侮ってしまったこと、深くお詫びします。
最大の問題は、実のところ発見や通報ではありません。その先なんです。
仮に手配された容疑者を発見し、通報したとしても、それが帝都の審問会派本部にまで届くには相当の時間がかかります。審問会派が持つ緊急通信網を使っても、サンサ教区から帝都まで通信が届くには、一番いい季節で2週間程度ですね。
この知らせに対し審問会派が特捜チームを送り込むとして、到着まで最速で3週間。完全装備の特別行動班を送り込むとなれば3ヶ月。
カンの良い容疑者が何らかの前兆を察知し、再び逃亡するには十分すぎる時間です。しかも緊急通信の使用には莫大な費用がかかりますから、緊急通信で通報した挙句成果なしとなれば、いかに審問会派と言えどもそれなりに問題視されるでしょう。
つまり、帝都から離れれば離れるほど、手配書の効果は小さいものになります。審問会派の地方支部がもうちょっと充実すれば状況は改善するのですが、現状では難しいと申し上げるほかないですね。
さもなくばアルール帝国がもっと地方に権力を与えるようにしてくださるか、画期的な通信ないし移動手段が発明されるのでも良いのですが」
今度こそユーリーン司祭も納得がいったようで、しきりに頷いている。
「なるほど……理解しました。
審問会派が長らく『地方に特別行動班の拠点を置きたい。さもなくば地方の世俗領主から軍権を一時的に借り受けるシステムが必要だ』と訴えている理由も、理解しました。いずれも非現実的な要求ではありますが……。
ともあれ私としては、今の話は聞かなかったことにします。ライザンドラ見習い、私のほうこそ貴女の配慮に思い至らず、失礼しました」
少し青い顔をして頭を下げるユーリーン司祭を見て、思わず苦笑してしまう。
ユーリーン司祭が顔色を悪くさせるのも仕方ない。「審問会派に手配書を出されたらもうお終いだ」という風聞は、審問会派が長い時間をかけて広めてきた常識だ。それゆえ昨今では手配書が出ただけで自首してくる者も珍しくない――さもなくばケイラス元司祭やエミルのように、確実な死を迎えることになるから。
けれどライザンドラ見習いが指摘したとおり、手配書のシステムはその風聞に支えられている側面も大きい。そしてその事実は、審問会派以外には知られてはならない――そのあたり、察しは悪いが頭は良いユーリーン司祭が気づかないはずがない。「今の話を聞かなかったことにする」と言うのも当然だし、こちらとしても是非そうして頂きたい。
状況が整理できたところで、私は話を元に戻す。
「審問会派による手配書の実効力について理解して頂けたところで、話を元に戻すとしよう。
つまりナオキは、我々が知る限り彼のスタート地点となるダーヴの街を起点として考えると、右腕たるパートナー兼暴力装置に加え、相当な資金を得て、姿をくらました。
審問会派内部には彼の手配書が回ったが、ユーリーン司祭にもご想像頂ける理由をもって、この手配書は当面、審問会派の外部に出ることはない。
つまり現状、ナオキは彼の事業を、プラス収支で回している」
ユーリーン司祭はお茶を一口飲んでからゆっくりと頷き、ライザンドラ助手は軽く天を仰いでから同意の言葉を発した。
「一方で審問会派はハルナ3級審問官を失い、特別行動班の精鋭を何人も失い、そして現状においてはサンサ教区での捜査終了を求められている。
つまりナオキ本人に手を伸ばそうとした我々は、膨大な人的被害を出した挙句、政治的に困難な状況に追い込まれた。
政治的立場の悪さについては主に私のミスに由来するものなのだから、これを他人事のように言うのは忸怩たる思いではあるのだが……」
あの洞窟の、最奥の部屋で味わったなにもかもが脳裏によぎり、心の奥で熾烈な憤怒と悔恨がドロドロと渦巻くのを感じる。いまはその思いに身を委ねるべき場合ではないというのに。
「結局、サンサ教区に向かった我々審問会派が得たのは、貴女がた2人だけだ。
けれど私はといえば、ライザンドラ見習いをさんざん疑い、ユーリーン司祭にニリアン領での成果すべてを投げ出させるという苦渋の決断を強いた、当人でもある。通り一遍の謝罪で許されることでは、ない。
だがその反面、私は今でも、当時のライザンドラ見習いを疑ったことも、またニリアン領でユーリーン司祭が行った改革のすべてを凍結したことも、何もかも必要なことだったと確信している」
ダメだ。自分でも、自分の言葉と理論が乱れているのがわかる。一度深呼吸でもして、落ち着きを取り戻すべきだ。
だが私はそう思いながらも、喋り続けてしまう。
「ナオキはただ単に行方をくらませたというだけではない。
サンサ教区で彼が何を意図して動いていたのか、我々は理解できていない。
審問会派の教理課はニリアン領における改革を精査したが、教理に反するものはまったく見いだせていない。彼らですら『理想的な改革であり、今後100年の教会のあり方を考える上でも、前向きな検証と検討がなされるべきである』というのが結論だし、最初にあの改革を知った私もまったく同じことを思った。
そして実際にニリアン領に出向き、極限の地に生きる人々の生活をこの目で見て、彼らの素朴だが純粋な信仰を知ったうえで、そんな彼らに『お前たちのやっていたことはすべて間違いだった』と語らねばならなくなったことを、ひどく心苦しく思う。
むしろナオキの狙いは、彼が領民たちに与えた希望を我々が奪い去るという、現在の構図そのものなのではないかとすら、疑っている」
そうやってまくしたてるように喋る私を、ユーリーン司祭がすっと手で制した。
「カナリス2級審問官。あなたは興奮し、混乱しています。
まずはお茶を。それからお菓子を。
そして、この困難な状況を、分割して考えてはみませんか?」
自分よりずっと年下の、ほぼ駆け出し司祭と言っても問題ないような若い彼女に、何もかもを見透かされたような気がして、私は思わずギクリとして言葉を止める。
そして彼女に言われるがままに、茶をひとくち飲み、それからクッキーを1枚、手に取った。
そんな私を見ながら、ユーリーン司祭は人差し指でメガネをちょっと直すと、落ち着いた口調で語り始めた。




