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お前が神を殺したいなら、とあなたは言った  作者: ふじやま
エピローグ:天に自由を、地に希望を、我らの魂に平穏あれ
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アルール歴2190年 8月14日(+8秒)

――デリク卿の場合――

「役割分担なのですが、ライザンドラとしては将来的に構築する新宗教の教祖には、ナオキが相応しいと考えます。

 それが、あなたの強みを最大化する選択です」


 ……その言葉がライザンドラ司祭の口から漏れたとき、私は反射的に「やはりな」という感想を抱いていた。


 私はナオキを下に見たり、ましてやライザンドラ司祭を軽く見積もったりするつもりはない。それはありえない判断だ。

 しかしながらナオキはかつてライザンドラ司祭を地獄のような娼館から身請けした人物であり、その当時は帝都ですら「辛酸を嘗めていた世紀の才媛ライザンドラ・オルセンを死地から救い出した有徳の士がいる」と軽く話題になったほどだ。つまり常識的に考えれば、彼らの間には男女の関係が(それも相当に深いレベルで)存在する。

 だからこの3人の中では比較的できることが少ないナオキに対し、一種の名誉職として「教祖」の座をあてがうというのは、ライザンドラ嬢(・・・・・・・)にとってみれば自然な流れと言える。

 こういう情実が混じった人事をすれば、それはやがて巨大な陥穽となるというのは歴史的事実だが、さすがのライザンドラ司祭といえどもこの欲望には逆らえなかったか――と、そんなことを思った。


 だがライザンドラ司祭から指名を受けたナオキは、明らかに動揺し、驚愕し、己を見失っていた。少なくともこの指名が二人の間でかわされていた談合ということだけはなさそうだ。ナオキは間違いなく卓越した演技の能力を持ち、感情を隠し通すことにかけては私などとは比較にもならない技術を備えているが、いまの彼の狼狽はホンモノだ。感情がすぐ顔に出る私が保証してもいい。


 案の定、うろたえた顔のまま、ナオキはしどろもどろになって抗弁を試みた。


「いや待て、ライザンドラ。それは……それはありえん。ありえないだろ。

 誰がどう見ても、新しく信徒を獲得し、彼らを俺たちの教団に依存させるにあたって、その看板として最も向いているのはお前だ。

 デリク卿、あなただってそう思うでしょう?」


 ナオキの問いかけに、私も小さく肩をすくめて同意を示す。ナオキの扇動力はたいしたものだが、ライザンドラ司祭のそれはもはや常人が届きうる範囲を超えている。教祖として壇上に上がるなら、適任なのはライザンドラ司祭だ。


 けれどライザンドラ司祭は、まるで違う角度から反論した。


「お二方の懸念はもっともです。

 しかしながら、ライザンドラが新しい教会の主座を占めるという案には、重大な問題があります。

 そもそも人間は、新しいものを拒絶します。新しいものに対してすぐに飛びつく人々もいますが、彼らは少数派です。普通の人(・・・・)の大多数は、たとえ『世界が変わってほしい』と痛切に願う心情にあってすら、同時に大きすぎる変化(・・・・・・・)を拒みます。

 これは明らかな矛盾のように思えますが、『人は適切な範囲での変化を求めている』と言い換えれば、わりと通り一遍のことを述べているに過ぎないことは明らかです。

 つまりライザンドラたちが作る教会は、新しすぎてはならないんです」


 だったらなおさら、高徳の司祭として名を馳せるに至ったライザンドラ司祭のほうが、教祖として適任であろうに……と思ったが、よくよく考えてみると、確かにライザンドラ司祭よりもナオキが教祖に立ったほうがバランスが良くなる可能性も高い。


「もうお気づきかと思いますが、新しい教会を作っていくにあたって、ナオキには『誰の目にもわかる新しさ』であってほしい。一方で私はナオキを支える人間として、『世界は今までとそれほど大きく変わるわけではない』ことを人々に保証します。

 なお後者の仕事については、デリク卿にもご協力頂きたいと思っています」


 ライザンドラ司祭の言葉を聞いた私達凡俗2名は、しばし黙り込んだ。黙り込むしかない。彼女の指摘は、あまりにも正しいからだ。

 やがてナオキが、渋々ながらといった風情で口を開いた。


「……わかった。ならば俺が教祖を演じよう。

 ま、俺にしても、教祖をやってみる(・・・・・)のは、これが初めてじゃあないしな。ライザンドラもデリク卿も、さすがにそんな仕事で生活費を稼いだことはないだろうし、その方向から見ても俺が教祖をやるってのは適材適所か……」


 ナオキが教祖として働いたことがあるというのは、これまた荒唐無稽の極みだ。要するに彼は「自分は異端教団を率いることでカネを稼いでいたことがある」と言ったも同然だからだ。

 だがこの男なら、それもあり得るかもしれない。極めて短期間で〈同盟〉を異端教団に作り変えてしまったその手腕が証明するように、それくらいには、この男は危険だ。


「では残るはライザンドラとデリク卿の役割ですが、ライザンドラは前述の通り、『これまでと変わらない、でも少し良くなる未来』を信徒に夢見させることに励みます。ですので――」


 水が向けられたので、私は彼女の言葉を引き取って自分が何者であるかを宣言する。


「私は世俗における調整を担当しよう。軍事の実務に関しては、さきの内乱時同様、シーニー君に全権を委任する。

 シーニー君はシーニー君で信頼できる部下(・・・・・・・)の獲得に余念がないようだから、最終的な決済権はこちらが持つにせよ、基本的にはすべて任せてしまって良いかと思う」


 私の回答を聞いたライザンドラ司祭とナオキから異議が出ることもなく、かくして我々3人の立ち位置は決まった。改めてその布陣を見直してみると、これはこれでなかなか良いチームになったな、という実感がある。さすがはライザンドラ司祭の慧眼、といったところか。

 そんな思いに浸っていると、ライザンドラ司祭が次の議題に移った。私はテーブルの上に置いたワイングラスを再び手に取り、軽く喉を湿らせながら、議事進行を見守る。


「さて、では最後の議題です。

 これからライザンドラたちは、実際に何をしていくべきなのか。

 これについては、まずはナオキの意見を聞きたいと思います。たとえナオキの見解が完璧でなかったとしても、この3人のなかで最も的確であろうことには、疑念の持ちようもないですから」


 指名を受けたナオキは、軽く咳払いすると、実に壮大かつ陰湿な計画を語り始めた。


「俺たちは、サンサ教区を手に入れたい。教区の教会はもちろん、サンサ自治区のすべてを掌握したい。

 現状、世界最強の武力を行使できるのがサンサ自治区だ。自治区単独で帝国全体と戦って勝てるわけじゃあないが、それでも最強(・・)っていう風聞には他に代えがたい価値がある。

 もちろん、俺にとってもライザンドラにとっても、サンサはホームグラウンドだっていう事情もある。デリク卿にとっても、卿の領地からサンサまではさほど遠くないから、連携するにあたって理想的だ」


 サンサ自治区をエイダ伯の手から奪う。そんなことが上手くいくものか――と口にしかけたが、よくよく考えてみると十分にその可能性はある。


「サンサ攻略の大まかな戦略だが、世俗と教会の双方で別々の方針が必要になる。

 まずは世俗関係から行こう。サンサ自治区を奪うためには、エイダ伯を転ばせる(・・・・)必要がある。だが二人とも気づいているだろうが、既に彼は半ば転びかけている」


 その通りだ。エイダ伯は帝都において英雄として扱われており、勝ち馬にあやかろうとする貴族たちは彼の周囲に群れをなしている。

 そしてこれは、様々な面において、非常に危うい。


「救国の英雄エイダ伯は、現時点における人類が得られるほぼ上限に近い注目と賞賛(・・・・・)をかき集めている。

 そんな立場に立った人間は、鋼鉄製の神経でも持ち合わせていないかぎり、どうしたって嬉しくなってしまう(・・・・・・・・・)。自分が大人物であるかのように扱われるのが嬉しくない奴なんて、いないんだよ」


 実に陰湿な指摘。だが私もそれには全面的に首肯せざるを得ない。南方での反乱を鎮圧して帝都に凱旋したときは胸が躍るほど誇らしかったし、にも関わらず次の皇帝が私を遠ざけたときには大いに落胆した。

 こればかりは「そんな安っぽい感情に踊らされるな」と言われても、「せめて1日くらいは喜んだり悲しんだりさせてくれ」と反論したくなる案件だ。無論、その「1日くらい」がどうしてもズルズルと尾を引くからこそ、賢い忠臣たちは私に諫言を与えてくれるのだが。


「従って、まずはエイダ伯にはもっと(・・・)嬉しくなって(・・・・・・)もらう。

 具体的な処方は、デリク卿にお任せすることになる。だが旧オルセン家の有象無象だの、エリートを集めて再構築したシャレット家で思ったより自分には才能がないことに気づいた奴だのを使えば、『エイダ伯を褒め称え隊』は簡単に作れるはずだ。

 それからこれもデリク卿にお願いしたいことだが、七名家とサンサ自治区との貿易を促進するように手回しをしてほしい。ただ、エイダ伯が露骨に怪しむような、片務的貿易案は避けたい。難しいと思うが、何か手は打てそうか?」


 ナオキの問いに、私はしばし黙り込んでしまう。

 まずそもそも、サンサには帝都の市民が欲しがるようなものがない。

 ニリアン領で食べた干し柿は絶品だったが、干し柿を交易したところで経済規模はたかがしれている。

 椅子を筆頭とした家具も良いものだが、交易品としては重すぎる(・・・・)し、運んでいる途中で傷がつくと一気に価値が落ちる。

 竹簡聖書は魅力的な産物だが、需要と供給のバランスを見通せる商品ではなく、大規模かつ計画的に事業を進めるには不向きだ。しかも人気が出ると他領でも生産が始まって過当競争に陥る危険性がある。

 ……と、そこまで考えたところで、私はふとエイダ伯の言葉を思い出した。


「――貿易でなくても、とにかくサンサ自治区がこれまでにない規模でカネを稼げるような変化が起きればいい、という条件であれば、可能だ。

 具体的に言えば、サンサ自治区を最新の避暑地として帝国貴族に売り込む。帝都入りしたエイダ伯は、帝都の夏の暑さに毎日愚痴を言っているが、逆に言えばサンサ自治区は避暑地として開発できるということでもある。

 ダーヴの街ほど帝都から遠くなく、それなりに大きな都市の郊外で、風光明媚なスポットを見つけられれば、そこに別荘(ダーチャ)を建てて売るというビジネスを展開できる。これが上手く行けば、別荘地周辺により大きな市場も立つだろうし、高級品の商いも増える。

 この案でどうかね、ナオキ君?」


 私のアイデアを聞いたナオキは、即決で返答した。


「素晴らしい。完璧だ。

 この計画が走り始めたら、ライザンドラは『交流不足がサンサでの諸問題を難しくした』とでもなんとでも理由をこじつけて、教会の富裕層にもサンサ自治区でのバカンスを推奨してほしい。

 あと、また皇帝陛下に会うことがあれば、皇帝にもサンサ自治区での避暑プランを勧めてくれ。実際に皇帝が避暑に行くかどうかは問題じゃあない。皇帝から『それも良さそうだ』の一言が貰えれば、十分だ。

 その上で、別荘の需要に対して供給がまるで追いつかず、最新の流行を追うことに命が懸かってる連中が歯ぎしりしながら高値で別荘を競り合うような展開が望ましい。

 そういうレベルになれば、七名家だって本気でエイダ伯との商談(・・)を要求するよな?」


 なんとも陰湿な策だ。ナオキの発想はもはや悪魔的とすら言える。

 だが間違いなく、別荘地の権利を巡る戦いが加熱すれば、七名家がそこに介入するなり、交通整理するなりせざるを得ない。

 結果、エイダ伯は今後もしばらく帝都に留まらねばならなくなる。これは「ちやほやされて嬉しいから帰りたくない」のではなく、「サンサ自治区に大きな利益をもたらしてくれる事業を成功させるためには帝都で交渉するしかない」からだ。

 つまりエイダ伯は、感情と理性の双方の面から、帝都で活動し続ける理由を得ることになる。


「ともあれ、そんな感じでエイダ伯がいつまでもサンサ自治区に戻ってこないとなると、サンサ自治区では徐々に『エイダ伯は帝都の惰弱な娯楽に溺れたのではないか』とか言い出すやつが増えていくことになる。

 ましてや南の猿ども(・・・・・)を大量にサンサに呼び込む政策を推進するために帝都に居残っているとなれば、武張った連中はエイダ伯を露骨に軽蔑するだろう。観光業ってのは、その手の連中にはおっそろしくウケが悪いからな」


 ナオキの指摘は正しい。かつて竹簡聖書が流行ったときに立ち上がった貴族向けの自然観光ツアーも、最終的には地元との軋轢が原因で廃れていった。

 独立独歩の精神が旺盛すぎる地域住人の偏狭な色眼鏡を通して見ると、観光産業は「金持ちに娯楽を提供して施し(・・)を受け取る男娼女娼の仕事」でしかなく、彼らのプライドをいたく傷つけるのだ。


「そうやって帝都とサンサ自治区の間でエイダ伯の評価に格差がつくようになれば、必然的にサンサ自治区は荒れる。突然の幸運にあやかったエイダ伯が、貧しい自領民のためを思って太い(・・)産業を誘致すればするほど、サンサ自治区の有力者たちの間では『エイダ伯はサンサの戦士としての誇りを南の猿に売り渡した』という評価が高まるだろう。

 もちろん、この観光業を5年も上手くやれれば、その手の不満は消し飛ぶ。誇りたかく郷土愛にあふれた戦士たちは、笑顔で客を歓迎するようになる。カネにはそれだけの力があるからな。

 だからこそ俺たちは、最初期に発生する不安定さを最大限に拡大し、利用する。

 具体的に言えば、サンサ山にはかつてエイダ伯に粛清された家の残党も住んでる。粛清されるに相応しいクソ野郎どもだが、一通りの恩は売っておいた。あとは連中に武器と資金と『今がチャンスだ』の一言をくれてやれば、連中はやるべきことをやるだろう」


 ふむ。成功率の高い計画だと思うが、エイダ伯暗殺まで、そう上手く進むだろうか? 疑問に感じた私は、その点についてナオキに問を投げてみた。

 彼の答えは、これまた陰湿かつシンプルなものだった。


「暗殺が成功しようがしまいが、それは問題じゃあない。

 サンサの掟に照らしてアウトだとして罰を与えられた者たちが語る言葉のほうが、今のエイダ伯が語る言葉よりも、現地の戦士たちの琴線に触れる(・・・・・・)ものであればいい。

 むしろ俺としては、あのクソどもが暗殺に失敗してくれるほうが、嬉しい。

 腐敗した権力に対して正しい言葉(・・・・・)を吐いて誅伐を試みるも、権力者によって虫けらのように踏み潰された――そういう展開のほうが、その正しい言葉(・・・・・)は人々の心に残りやすい。

 人間が生きてりゃどうしても毀誉褒貶があるが、死んだ人間の残した言葉は滅多に評価が変わらない。そうやって死人の言葉で焚き付けていけば、じきにエイダ伯の親戚縁者なり兄弟なりが、彼を背後から刺すさ。サンサの健全で精悍な精神を守るために、な」


 なんともぞっとする(・・・・・)以外にコメントし難い計略だが、これまた忌々しいくらいに筋が通っている。

 とはいえ、まだ気になるところはある。サンサ自治区の一部を避暑地として運営することに関し、エイダ伯が反対意見の多さに負けて、事業を撤回する可能性はないだろうか?


 その問いにもまた、明確な答えが用意されていた。


「最初に言ってしまえば、その可能性は排除しようとして排除しきれるものじゃあない。

 だがそうしたらそうしたで、サンサ教区は不安定化する。そもそもいまのサンサ教区は食料自給率に見合わない人口を抱えているから、帝国との交流が減れば、その年の冬から破綻は目に見える形で顕在化するだろう。

 それに、帝国との貿易や観光を拡大すること、それそのものは完全に正しい方向性だ。そして今この段階においても、『皇帝に大きな恩を売ったエイダ自治区は、帝国との交易を今まで以上に拡大するべきだ』と訴えてる連中は少なくないだろう。

 だから伝統を重んじたエイダ伯が拡大策を採用しなければ、今度は商売人や懐の苦しい貴族たちがブーブー言い出す。どっちにしても、サンサ教区は不安定化せざるを得ない」


 そういう板挟みが発生するのは、私にもさんざん経験がある。

 デリク家の伝統を守るべきだと主張する家臣もいれば、デリク家はもっと新しい事業に手を広げて時代に取り残されないようにすべきだと主張する家臣もいる。そして彼らの意見はどちらかが完全に誤りというわけでもないし、今この段階では正しくても将来において裏目にでることだってある。

 かくして、大貴族の家長は彼ら忠実なる家臣や家族たちの間で板挟みになりながら、調整と決断を繰り返すことになる。


 だから木っ端貴族が「平民が苦しもうが知ったことか!(=利害調整のバランスシートに「平民の利害」まで入れていられるか!)」と叫ぶのは、その貴族が自分の能力不足を露呈させているだけではあるし、弁護の余地などゼロなのだが、とはいえ「貴殿も苦労しているのだな、まずは一杯飲もうじゃないか」と言ってやりたくなる気持ちとなると、ゼロではない。


「ともあれ、俺はエイダ伯が鎖国路線に急変する可能性は低いと見ている。

 繰り返しになるが、重要なのは、彼がこれからやろうとすることは、領民の幸福を守ろうとする世俗の支配者として理想的だっていうことだ。

 それがわからないエイダ伯じゃあないし、だからこそ『困難を乗り越える』ことを選ぶだろう。この手の暑苦しい体育会系のノリは、〈エイダの掟〉にとって最も価値あるものだしな」


 困難に際して最善の努力を尽くすタイプの人間に対し、最善を尽くすことによって破滅する状況を仕立てる。間違いなく合理的ではあるが、個人の感想を言うなら「おぞましい」の一言に尽きる。


「さて、世俗世界関係はこんなものか。

 最終的にはデリク卿の息がかかった人間がサンサ自治区を統括するようになればいい。理想を言うなら現ニリアン卿だな。彼女は見栄えもいいし、決断力といい胆力といい、地元の人間にもウケる要素がてんこ盛りだ。

 一代前のニリアン卿は地元の戦士たちとも関係が良好だったというから、その孫娘がサンサのために立ったとなれば、自分たちの可愛い孫(・・・・・・・・・)が立派に育ってくれたっていうテンションで乗っかってくる老戦士たちも少なくないだろう。

 あとはライザンドラがひと押しすれば、ニリアン卿がサンサ自治区のまとめ役になるだろうさ。適当な地元の老人を補佐あたりの地位に呼び込めば、その手のうるさがたに対する筋も通せる。

 いずれにしても最重要視すべきは、時間だ。時間をかけすぎると、経済的に充足したサンサ自治区の世論が『やっぱりエイダ伯は偉大だ』で統一されたり、あるいは帝都でエイダ伯の勢力が伸びすぎるのを嫌った貴族連合軍がエイダ伯をハメる可能性が高まる。そうなっても挽回の手はあるが、できればその前にすべてを終わらせたほうがいい。

 で、問題は教会のほうだな。こっちのほうが、話はもっとデリケートだ」


 ナオキは一息ついて茶を口に含むと、今までよりもさらに昏い案を語り始めた。

 そして彼の語る未来を聞いて、私は直前に抱いた個人の感想(・・・・・)が間違っていることを知る――彼のおぞましきプランには、更なる底があったのだ。

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