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お前が神を殺したいなら、とあなたは言った  作者: ふじやま
お前が神を殺したいなら、とあなたは言った
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アルール歴2186年 6月21日〜 (+263日)

――ライザンドラの場合――

 レナート軍と帝国・教会連合軍がぶつかったペレサの戦いの序盤は、連合軍優勢で推移した。帝国軍の長弓隊と、神聖騎士団の騎兵隊は、しょせんは素人の群れでしかないレナート軍を綺麗に引き裂いていった。

 連合軍兵士と指揮官の多くは、開戦から20分もたたない段階で、この戦いの勝利を確信したと言う。それほどに、双方の戦力差は圧倒的だった。


 とはいえ連合軍も、けして無傷で戦えていたわけではなかった。

 レナート軍兵士の大半が構える粗末な槍には、前夜のうちにたっぷりと汚物が染み込ませられたようで、たとえかすり傷であっても致命傷になる可能性を秘めた武器となっていた。


 このため戦闘開始から30分ほどでレナート軍が崩れ始めたとき、連合軍もまた統一した行動ができなくなった。


 神聖騎士団は異端者を一人でも多く殺すため果敢に馬を進め、あるいは逃げ散るレナート軍の群れに向かって飛び込んでいった。

 けれど帝国軍兵士は、「勝ち戦と決まった戦い」において無駄死にすることを嫌い、あまり真面目に追撃しようとしなかった。また帝国軍の最精鋭は主に長弓兵だったため、「勝機においては率先して精鋭部隊が先陣を切る」という行動様式もまた、取り得なかった。


 これはまさに、連合軍が最初から抱えていた温度差を象徴していた――しかもこの遠征の間、彼らの熱意の差は広がることこそあれ、縮まることはなかった。


 かくして追撃戦が始まった段階で、連合軍の隊列は不自然なまでに縦に長く伸びた。敵軍に負けず劣らず統制を失おうとしている自軍の様子を見て、連合軍指揮官の脳裏には一瞬、嫌な予感が走っただろう。


 その予感は、おそらく誰も予想していなかったような形で、実現する。

 地元(・・)で戦っているという地の利を活かして森の中を抜けたレナート軍別働隊が連合軍の側面に出現。弓兵だけで編成されたその部隊は、連合軍に向かって猛然と攻撃を開始した。


 これだけであったならば、神聖騎士団も帝国軍も、冷静に対応できたはずだ。

 側面を取られたといっても、せいぜいが300人程度の小部隊。しかも見たところほぼ全員が弓兵で、その練度はたかが知れている。帝国軍の指揮官は冷静に後詰めの部隊を自軍長弓兵隊の前に出し、長弓兵隊には敵弓兵隊を射殺せと命じた。


 だがそのとき、この世の地獄が口を開いた。

 敵弓兵隊の前に、常識ではあり得ない部隊が出現したのだ。


          ■


 その部隊は、まったくの非武装だった。

 あえて武器らしい武器と言えば、手に持ったプラカード程度だろうか。プラカードには「腐敗した教会に天誅を」と書かれていた。


 だがその部隊をもっとも特徴づけているのは、その構成員が全員、年端も行かない少年少女たちだったということだ。少女のなかには、どうやら妊娠しているらしき体つきをした者もいた。

 少年少女たちはプラカードを天高くかざし、幼い声で「天誅」と唱和し続けた。


 神代からこのかた、「戦場」と呼ばれる場所においてはあり得なかった状況に、帝国の精鋭長弓隊は凍りついた。


 無論、彼らは戦闘のプロだ。「あれが何か」など、誰もが一瞬で理解していた。

 それでもなお彼らは「あれは何だ」と呟いて、呆然と立ち尽くした。


 立ちすくむ彼らに向かって、敵弓兵隊からの矢が降り注ぐ。長弓隊を守るべく前にでた歩兵隊は盾をかざし、矢の雨から味方を守ろうとしたが、限界はある。長弓兵は弓に矢をつがえたまま、一人、また一人と倒れていった。

 前線指揮官は必死で「撃て、奴らを殺せ」と叫んだが、長弓兵たちはどうしても矢を放てなかった。中には敵の弓兵隊に向かって矢を放った者もいたが、その矢が少女の一人を貫いたのを見て、二の矢は撃てなくなっていた。


「こんなものが、戦争であるものか!」


 誰ともなしに、そう叫んでいた。


 帝国軍の指揮官は、それでもまだ冷静さを保っていた。最後の予備部隊を集結させると、敵弓兵隊に対する突撃を命じたのだ。

 射撃戦では少年少女を誤射することもあるだろうが、白兵戦となればそういった危険はだいぶ薄くなる。それでもやってしまう(・・・・・・)ことはあるだろうが、一度白兵戦の狂熱が始まれば、兵隊たちはむしろ女子供関係なく皆殺しにするだろう。帝国軍の指揮官は、「戦争にはそんな側面もある」ことを、ちゃんと知っていたのだ。


 だがその冷静な判断(・・・・・)こそが、レナートの待っていたものだった。


 最後の予備となる歩兵隊が、レナート軍の弓兵隊とプラカード部隊(・・・・・・・)の殲滅に向かって突撃を始めたそのとき、ネウイミナ男爵が率いる騎兵50騎が戦場を大きく大きく迂回して――迂回と言うより、完全な別働隊として動いて――連合軍本陣に後背から襲いかかった。

 そしてこの奇襲に呼応して、潰走していた自軍をレナートは立て直した。具体的に言えばレナートとその同志たちは逃亡していた自軍兵士を背後から切って捨て、「我ら神の戦士にあるのは、勝利か、死かだ! 戦え神の子らよ、悪魔の手先に天誅を下せ!」と叫んだのだ。


 言うまでもなくこの手の鼓舞は、一瞬しか効果を発揮しない。それに、戦っても死、逃げても死ということになったとき、多くの兵士は「その場で呆然と立ちすくむ」のが精一杯だ。

 けれどレナートたちは、こういう極限状態(・・・・)に最適化するように、兵士たちを訓練していた。そして逃れられない死を目前にしたレナート軍の兵士たちは、訓練で仕込まれたとおり、「戦って死ぬことで、なるべく早くこの恐怖から逃れよう」とし始めた。

 神聖騎士団の騎兵があちこちで人の波に飲み込まれ、大地に引きずり降ろされては、人間の形が残らぬほど徹底的に破壊(・・)されていった。騎兵という研ぎ澄まされた槍の穂先(・・・・)は、狂気という泥沼に飲み込まれようとしていた。


 もしこのとき帝国軍の指揮系統がまとも(・・・)であれば、帝国軍はすぐさま歩兵隊に神聖騎士団の救援を命じただろう。

 そしてこの一時的な混乱は一瞬で収拾され、レナート軍は怒り狂った神聖騎士団の精鋭騎兵隊によって、その全員がミンチに変えられていたはずだ。


 けれどネウイミナ男爵以下50騎の騎兵隊の攻撃によって、帝国軍の本陣は一時的に麻痺していた。長弓隊は弓を諦めて短剣を抜き、さらには事務方や伝令隊までもが剣を構えて、場を荒らし回る騎兵の群れと戦っていたのだ。

 だがこの混乱も、レナートが練った策の本命ではなかった。

 ネウイミナ男爵が率いる騎兵隊は、敵軍本陣を麻痺させることを目的とみせかけ、その実、彼らが高々と掲げている軍旗を狙っていたのだ。


 その狙いは、達成された。

 帝国軍の軍旗が掲揚されていたポールは地面に打ち倒され、軍旗は泥に塗れた。


 そしてその瞬間、戦場のど真ん中で前進も後退もできずにいた帝国軍歩兵隊の中から、悲痛な叫びがいくつも上がった。


「軍旗が! 俺達の軍旗が!

 もうダメだ、俺達の負けだ! 俺達は異端者どもに、皆殺しにされるんだ!」


 その叫びの幾ばくかは、レナートが送り込んだ内通者によるものだった。

 けれど内通者以外にも、似たようなことを叫んだ者はいただろう。


 かくして、帝国軍が大きく崩れ始めた。彼らにしてみれば、本来これはローリターンだがローリスクな戦いのはずであって、こんな狂気の深淵に付き合わされるはずではなかったのだ。

 彼らの目の前で、一騎、また一騎と神聖騎士団の騎兵が倒れていくのも、彼らの恐怖を煽った。「天誅!」という叫びは戦場を支配しつつある一方で、連合軍側といえば「逃げろ」「撤退だ」「踏みとどまれ」といった混乱した叫びが交錯するばかり。


 そしてこのタイミングで、ネウイミナ男爵の騎兵隊は撤退を開始した。

 これによって帝国軍の指揮系統は回復し、軍旗も再び掲げられたが、彼らをして「戦況はもう修復不能」という判断を下すことになった。

 連合軍は部隊をまとめなおし、神聖騎士団の騎兵隊を救出し、組織的な防戦が可能な状態に持ち込まねばならないが、そのすべてを同時に実現するのは不可能と決断するほかなかったのだ。


 だがここでも、足並みの揃わない連合軍という巨大な組織的欠陥が、彼らに牙を剥いた。神聖騎士団は徹底抗戦を、帝国軍は一時的な撤退と陣容の立て直しを主張し、相互の見解は相容れようとしなかったのだ。

 貴重な時間が罵倒合戦で空費され、その間にも前線で兵士たちは倒れていった。


 だからこのとき、この地方特有の激しい土砂降りが戦場を襲ったのは、天佑だったと言えるかもしれない。

 5m先も見えないような激しい嵐に、戦場は一瞬で泥沼に変わった。騎兵は機動力を完全に奪われたが、それは歩兵も同じだった。


 地元の事情に詳しいレナートは、この豪雨を前に、すばやく撤退を命じた。この地の大自然は人間の暴力など一顧だにしないほどに凶悪だということを、彼はよく知っていたのだ。

 連合軍もまた、これでは転進(・・)するしかないというところでようやく意見の一致を見た。猛烈な豪雨の中では、主力となる騎兵と長弓兵が使えない。それどころか一歩前に進むことすら困難なこの状況では、戦闘どころではないのは明らかだった。


 かくしてペレサの戦いそのものは、両軍痛み分けで終わった。


 だがそれは連合軍にとって、真の地獄の幕開けでしかなかった。


 バケツを引っくり返したような豪雨が過ぎた後、連合軍はここまで輸送してきたほぼ全ての糧食が泥水に浸り、せいぜいが持って数日という状態になってしまったことを知ったのだ。


          ■


 ペレサの戦いでの戦死者数は、両軍ともに、あまりよく分かっていない。お互いに戦死者の数を正確に数えられるような状況ではなかったからだ。

 けれどペレサで戦った帝国軍兵士のうち、生きて帝都に帰還できた者は、28名に留まる。飢えと熱病、繰り返される自殺攻撃に、撤退路に先回りして仕掛けられる罠。それらは着実に連合軍の数を削り、彼らがネウイミナ男爵領に侵入したときに建てた駐屯地に戻った頃には、生存者は300名を切っていた。


 そしてその300名のほぼ全員――つまり28名以外――が、駐屯地の土に還った。噂では300名のうち半数以上は完全に精神を病んでおり、やむなく慈悲(・・)を与えるしかなかったと言われる。残り半分は、病気で死んだ。

 ペレサの戦いの全貌が伝わっているのは、この「病気で死んだ半数」の中に、数名の上級指揮官が含まれていたからだ。彼らは半ば錯乱した言葉で戦いの経過を報告すると、蝋燭の炎を吹き消すようにしてフッツリと死んでいった。


 ペレサの戦いの顛末と、3000の精鋭が全滅したという凶報は、帝都を大いに揺るがせた。一部にはサンサ教区における包囲戦を例に挙げ、「ネウイミナ男爵領もまた同様に包囲されるべきではないか」という案を出した者もいるそうだが、そのあまりに非現実的な案はその場で却下された。ネウイミナ男爵領の境界線は長く、密輸ルートを完全に遮断するのは明らかに無理筋だ。


 ペレサの戦いは、この「スピリドの反乱」における戦訓を2つ、帝国に残した。

 1つは、地の利は完全に敵軍にあるということ。帝国軍はネウイミナ男爵領特有の過酷な自然環境に加え、長過ぎる補給線の負荷にも耐えねばならない。

 もう1つは、雑兵の群れと思われたレナート軍が、遠征軍とほぼ互角に戦ってみせたということ。補給のことを考えるとこの戦いは少数精鋭の部隊でなんとかしたいところだが、遠征軍3000をレナート軍4000が押さえきったことを鑑みるに、この戦いを「質の差」で勝つことは難しい。


 この難題は、帝国貴族と教会上層部の間で、見事なまでにたらい回しにされた。こればかりは彼らを非難するのも酷というものだろう。

 これはもともと「こうなってしまう前に何かしら手を打つべき問題」であって、ことここに至って正面から問題を粉砕するのは不可能――とまでは言わないが、不可能に近いコストがかかる。


 とはいえこれ以上「スピリドの反乱」を放置すれば、帝国の威信は傷つき、教会の信用は失墜する。ネウイミナ男爵領は辺境中の辺境とはいえ、異端教団による公然たる実効支配を許してしまったというのは、「論外」以外に評価できない。

 が、迂闊に手を出せば前回の遠征軍と同じ結末になりかねないし、そうなったら帝国と教会は致命的な傷を負いかねない。


 ここにおいて立ち上がったのが帝都に栄えある七名家(もはやシャレット家は名家としてカウントされていないらしい)のひとつ、デリク家の当主だ。


 彼はスピリドの反乱を鎮圧するにあたって、3つの条件を出した。


 1つ。スピリドの反乱は帝国と教会が一致団結して解決すべき緊急事態であることを、少なくとも自分に協力する者は認めること。

 1つ。この反乱とどう戦うかの決済権と責任を、すべて自分一人に集めること。

 1つ。反乱鎮圧に必要となる経費はデリク家が建て替えるので、鎮圧成功後に帝国と教会で均等に分担して支払うこと。


 実に傲岸不遜な条件であると同時に、帝都の良識派は「ここまで言わなくては問題解決のスタートラインにすら立てないのか」と絶望した条件でもあるが、帝国と教会は最終的にこの条件を飲んだ。


 ちなみに1年前に即位したばかりの若き皇帝アグノーメン8世は、統治の場においては「善し」しか言わない暗君と思われていたが、デリク卿のこの提案に対しては丸々3分間沈黙してから「善し」と言ったことから、実は意外な賢帝なのかもしれないと言われるようになった。

 そしてアグノーメン8世が賢帝であることは、スピリドの反乱の鎮圧を通じて明らかになっていく。


          ■


 スピリドの反乱鎮圧を請け負ったデリク卿は、しかしながら、ほぼ半年に渡って帝都から動かなかった。

 彼はこの理由として「夏場にネウイミナ男爵領に向かえば、伝染病や突然の豪雨で軍隊が溶ける(・・・)」と語ったが、デリク卿の出した条件(・・)を「大言壮語」と批判した貴族たちは、もうこの段階で「デリク卿は臆病風に吹かれた」という陰口を叩きまくった。


 それから半年が経過し、帝都に秋風が吹き始めた頃になって、デリク卿は3000ほどの軍勢を連れてネウイミナ男爵領に向かった。

 だがネウイミナ男爵領に到着したデリク卿は、軍勢をぴくりとも動かす気配を見せなかった――むしろネウイミナ男爵領の風土病にやられた兵士が次々に後送されては、必死の治療の結果一命をとりとめて前線に戻ったり、あるいは治療のかいなく死んだりし続けた。

 反デリク派はこれを見て一層大声で、彼のことを「臆病者」と吹聴した。


 それから3ヶ月が経過して、ついにデリク卿は軍を動かした。今度の遠征隊は潤沢に補給物資を蓄えていたが、前回のようにこの物資が一瞬で生ゴミに変わらないという保証は、どこにもなかった――むしろ時期的にはそろそろ雨の季節が近づいており、それはまさに前回のような豪雨が訪れる季節の到来でもあった。


 男爵領に侵攻(・・)してきた帝国軍に対し、レナートは前回と同様に焦土戦術を取った。また少年少女からなるプラカード隊や、あえて死病に感染した決死隊も、前回同様に準備万端だった。

 デリク軍はゆっくりとその数を溶かしながら、軍勢を先へと進めた。そして結果的に前回と同じペレサ郊外で、デリク軍とレナート軍は相まみえることになった。レナート軍は6000に膨れ上がっており、一方でデリク軍は2900ほどに数を減らしていた。


 両軍の戦闘は、まずは前回とだいたい同様に推移した。

 デリク軍が擁する精鋭騎兵隊はレナート軍をやすやすと切り裂いた。今回はちゃんと歩兵が騎兵隊を援護する形で動いていたのが、唯一の差だろうか。

 だがこの状況はレナートにとって、おあつらえ向きだった。

 デリク卿の本陣を守る歩兵は少なく、予備はほとんどいない。前回のように本陣に対する奇襲を仕掛ければ、前回とは違って総指揮官たるデリク卿の首を取れる可能性すらある。


 もしかしたらレナートはこのとき、「デリク卿は武人としての才覚には長けていない」という帝都での評価を思い出していたかもしれない。

 そしてその逸る思いのあまり、デリク卿が何をもって(・・・・・)評価されているかということを、失念したのかもしれない。


 デリク卿が指揮を執る本陣への奇襲の前段階として、プラカード隊を動かそうとして右手を上げたレナートは、その次の瞬間、絶命した。


 レナートを殺したのは、彼の背後を固めていた同志たち(・・・・)だ。


 デリク卿はスピリドの反乱の本質を、〈同盟〉の残党による決起であると見抜いていた。そして〈同盟〉の残党たちがレナートの同志として活動していることも、掴んでいた。

 だから彼は、レナートがかつて連合軍に仕掛けた策と、似たような策を講じた。

 つまり、組織内部の温度差を利用したのだ。


 そもそも〈同盟〉のメンバーは、あまり賢いとも、我慢強いとも言えない、食い詰め貴族の子弟たちだ。

 そんな連中がネウイミナ男爵領などという地の果てに何年も押し込められているのみならず、自分たちが主役(・・)ではなく助演(・・)でしかないことに、耐えられるはずがない――それがデリク卿の読みだった。


 この読みをもとに、デリク卿はスピリドの反乱に参加している元〈同盟〉のメンバーの実家を秘密裏に訪ね、長い長い交渉と懐柔と脅迫の末に、それぞれの家の恥部である阿呆ども(・・・・)の性格や嗜好を聞き出した。


 半年かけて基礎的な情報収集を続けたデリク卿は、同時にネウイミナ男爵領に諜報員を忍び込ませ、レナート以外の元〈同盟〉メンバーと連絡が取れるような体制を整えていった。

 これもまた、デリク卿の大胆不敵な読み(・・)だ。

 一般的に言って異端教団はこの手の()がつくことを、極端に恐れる。だが教会が二人の傑出した潜入審問官を犬死させたことによって、レナートは逆に「教会は諜報員ひとつまともに使えない」といった類の油断をしている可能性が高い――その読みもまた、見事に的中した。


 ここまでくれば、デリク卿にしてみれば「あとは赤子の手をひねるようなもの」でしかない。ネウイミナ男爵領に入ったデリク卿は、指揮下の兵士を土地の()に慣らすのに並行して、レナートの同志たちにコンタクトを取った。

 そして彼らに「帝都での安全な余生」を約束することで、彼らを裏切り者として仕立てることに成功した。


 レナートを失い、教団の中枢メンバーがまとめて裏切った「スピリドの反乱」は、事実上そこで終わりを告げた。


 だがこの反乱鎮圧劇の終幕(・・)において、デリク卿は再びその果断さを世界に知らしめることになる。


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