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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
一章:余命は100日
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青い人

 取り引きを受け入れた私は、そのまま教会の奥にある個室へと案内された。案内、というよりも連行、あるいは運搬とした方が、構図としては正しいかもしれない。

 あのまま腰が抜けたというか、足に力が入らなくなった私は、両脇を騎士に抱えられて若干引きずるように運ばれたから。そのまま部屋の中に放り込まれた辺り、荷物扱いだと懷った。


「しばらくここでおとなしく待て」


 そういった王子は、扉を閉めて私を閉じ込める。

 私を運んだ騎士たちも、部屋の外で待機するのみのようだった。いや、これはどちらかと言うと私の逃亡を防ぐための配置かもしれない。今の私には、逃げる体力などないけれど。

 いくら屋敷にこもりっぱなしの生活を送ってきたといえど、この状況からいろんなことを考える頭くらいはある。仮に部屋から脱出できたとして、王子に付きそう騎士などがたった二人であるはずがない。そもそも私を連れてきた彼らは、流石に帰っていないだろうし。

 私にできることはただでさえ少ない体力を温存すること。

 つまり、ここでおとなしく待つこと。

 そのことを改めて認識しながら立ち上がり、一度、部屋の中をぐるりと見回す。

 ここは応接室として使われていたのだろうか、穴などが開いているけれどソファーなど、客をもてなすのに必要なものは一式揃っている感じの部屋だ。

 まだ奥に部屋が一つあるようで、応接室兼仕事部屋として使っていたのかもしれない。

 私が暮らしていた屋敷にもそういう感じの部屋があり、古くからの召使によると父や祖父が使っていたのだという。もっとも父亡き後は、軽く掃除をするのみで放置されていたけれど。

 今いる場所が応接用の場所なら、この奥はどうなっているのだろう。

 私は誘われるように、そちらへ歩いて行った。


「……おや、誰かと思えば」


 軽く扉を押し開いた先には、なんと先客が一人。

 手枷に足枷、私以上に人の手を借りなければ移動もままならないのではと思うほど、絵に描いたような罪人といった風貌をした青い髪の、見知らぬ青年だった。

 逆光に黒い衣服は溶けるようで、その中にうねるような長い髪が浮かんでいる。

 青い髪、ということはこの人は『魔術師』だ。

 魔力、マナ――様々な呼ばれ方をするその特別なチカラを持つ、あるいは目覚めさせた人はみんな普通ではない見目になる。虹色に揺れる瞳、透き通るガラスのような翼。

 もっとも多いとされるのが、彼のような通常ではありえない色の毛髪。

 その色は人によって様々だと言われていて、赤もあれば薄い桃色、緑まであるという。大昔には売り物とされていたらしく、今も彼らの『普通ではない部分』を売買する悪い組織がいるという。……流石に遭ったことはないけれど、読んだ本にそんなことが書いてあった。

 そもそも魔術師に逢ったのも、これが初めて。

 彼らは世界をめぐったり、どこかの国に仕えているものだ。ひと目でわかるその特異さもあってあまり表には出てこないというし、思わずしげしげ見つめてしまう。

 ……ううん、ちがう。

 魔術師だからというよりも、彼のその『青』があまりに綺麗で。不躾だし失礼だということはわかっているのに、流れる青、揺れる青から、目を離すことができなくなってしまう。

 目を奪われる、魅了されるって、たぶんこういうことなのね。

 窓辺に座り外を見ていたらしい彼は、私から向けられる凝視にも近い視線など気にした様子もない。慣れている、のかも。それどころか、扉に隠れるようにしている私を見つめ返し。


「へぇ……」


 そうつぶやき、なぜか笑みを浮かべる。

 青い目が、きらり、と水面のような光を揺らした気がした。

 居心地の悪さのようなものを感じ、思わず視線をそらす。もし別の誰かがもう一人ここにいたらそうでもなかったかもしれないけれど、今、ここにいるのは私と彼だけ。

 この人は、どうしてこんなところにいるのだろう。

 決して人数が多いわけではない魔術師が、拘束されてこんなところ、に。

 まさか、この人が王子が言っていた『相手』?

 見た感じの背格好は、王子と同じくらいの立派な青年。私くらいの年頃の結婚相手としては特に問題ない年齢であるように見えるけれど、どう考えても『ワケアリ』な人だろう。

 そう考えると、優しげであるとも言える微笑みも、また違って見える。


「君がヴィオレッタだね」

「はい……ヴィオレッタ・ヴェルテリス、です」

「そっか……うん、やっぱり綺麗だ」


 にっこり、と笑顔を添えてなぜか見た目を褒められる。

 綺麗、なんて言われるのはいつもお姉さまで、初めてそう言われた。シンプルな世辞、そうお世辞に決まっているのに、なぜか胸の奥がきゅっとなって視線を向けられなくなる。

 頬に熱が、ふわふわと集まってくる変な感覚に襲われた。

 恥ずかしい時と、なんだか似ている。

 あれ、でもこの人はどうして私の名前を知っているのだろう。私は体調のこともあって社交界には一切出ていない。貴族でも私の存在は知っていても、顔を知る人は少ないはず。

 彼は言い切った。

 この人は、私がヴィオレッタ・ヴェルテリスだと彼は知っている。


「僕はセレスタイト・ノア。一応、宮廷魔術師をしていたよ。君のお姉さんの味方をしたら普通に怒られて、普通に不興を買って、普通にクビになって、これから君と結婚する予定」


 そういった彼は、ゆっくりと立ち上がると軽く一礼して見せた。

 まるで、絵本の中の『王子さま』のように。

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