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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
八章:月は扉の向こう側
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身分を捻じ曲げる力

「まぁ、とりあえず聞き出した内容を説明するか」


 ルナさんの分のお茶を新たに用意した後、クゥリさまはそう口を開く。

 昨夜、私はあの一件の後すぐに寝入ってしまい、ルナさんはそれから間もなく部屋を抜け出してアンディさんに詰め寄ったものの、セレスタイトさまたちが止めて寝かしつけられた。

 つまり、私はもちろん、ルナさんもまだ詳しい説明はされていない。

 例えばアンディさんの動機とか、そういうところだ。


 しかし、聞いてみればその理由は単純な構図をしていたと思う。

 国家を巡る陰謀に直結しているわけでもなく、ただ、ルナさんとのことを考えて、考えすぎた結果の惨事。ほとんど独断と言ってもいいくらい、小さくまとまった話だ。

 二人の未来に大きく影を落とす壁、それは身分の違い。

 ルナさんとの結婚を周囲に認めてもらうために、アンディさんはどうしても有力な後見をつけたいと思った。そうすれば、ルナさんとのことを反対されなくなると、彼は考えていた。

 しかし身近にいる貴族は後見になってくれない。なぜならば、彼らはルナさんを蹴落としたいものばかり。どう説得しても、条件をつけても味方にできるとは考えられない。

 しかし彼女ならば、蹴落とされる側だったのを逆転した彼女ならば。

 そう思い、聖女ヤヨイに嘆願したのだと。


「で、頼まれた通りセレスタイトを殺しに来たわけだ」

「そんな……!」


 にわかには信じられなかった。

 私は彼女のことは、ほとんど知らないと言っていい。名前と、どういう見た目をしているのかというくらいしかわからない。だけど、こんな大それたことをするようには見えなかった。

 どちらかというと、そう、私と似たような雰囲気を感じたように思う。

 そんな人が、セレスタイトさまを殺そうだなんて。

 だけど理由は?

 あの人は目前に死が迫っている、死ぬことはもう決まっている。

 それを彼女が知らないはずがないのに。

 どうして、の一言すら口から出てこない私に、クゥリさまは苦笑を返した。


「まぁ、信じがたいよな。なにせ相手は『聖女さま』だ。当然周囲は、その言葉の重さを教えているはずなんだ。本人にその気がなくても、誰が武器として振りかざすともわからない」

「そう、ですよね……お姉さまも、教育係からいろいろと、自分の立場の意味や、重さを教えられたと言っていました。妹の私も、決して無関係ではないから覚えておくように、って」

「末裔でそれなんだから聖女そのものがきつく、厳しく言われてないわけがないよな。現に彼女の後ろには王族縁者の公爵家を筆頭に、多数の貴族が名を連ねている。それらの娘がそばにいて、教育係兼話し相手もしているらしい。……らしい、んだが、このざまなんだよなぁ」


 このざま、というのはアンディさんとの取り引きについてだと思う。

 そういう良からぬことを吹き込む誰か、を排除するために、多数の令嬢を周囲に配置しているのだろうに、その合間を縫うように近寄った彼が、聖女と取り引きをしてしまった。

 そういうことを避けたかった側からすると、頭が痛いに違いない。

 今はまだ、私たち当事者しか知らないけれど……。


「一番最悪なのは、聖女の後見がグルって可能性だな」

「……まさか」

「可能性は低くない。ノア家はセレスタイトを叩き出したが、あの才能、あいつの血、因子というやつがほしい一族はくさるほどいる。しかもセレスタイトは男だからなぁ……お嬢さんにはちょっとアレかもしれないが、それこそ子どもだけ作っていただくってことも、まぁ、できなくはない。本を見るなら読んだことあるだろう、王が複数の女性を囲う制度」

「はい。王族の血を絶やさないように、という理由で異国で使われている特別な制度、ですよね? ハレムとか、後宮と呼ばれるような。だけどその制度を使っている国はもう少ないと聞きました。医療技術の進歩のお陰で、そこまで子どもを残さなければならなくなったとか」

「お嬢さんは勉強熱心だな。概ねそのとおりだ。セレスタイトは、そういうこと――複数の女性と関係をもつことを『歓迎される』魔術師なんだ。才能は本物だからな。だからこそ手に入れたいと思うし、同時に『奪われるくらいなら排除する』と考えることも有り得る」


 奪われる、というのはセレスタイトさまが誰かと結婚をするとか、そういう次元のものではないのだろうと薄っすらと悟る。この場合はたぶん、セレスタイトさまの子どもを敵対関係あるいは気に入らない一族が手に入れる可能性、の方を指して『奪われる』としていると思う。

 他所の一族が子どもを手に入れるくらいなら、殺してしまえということなのだろうか。

 私にはやっぱり理解できない世界だ。

 その後、流石にあれを共同所有は物理的に無理だろうしなぁ、という物騒極まりないつぶやきが聞こえたような気がしたけれど、私は何も聞こえなかったことにして流した。


 ともかく、クゥリさまの見立てだとセレスタイトさまはいろんな意味で、何らかの目的で狙われる『標的』になりうる人なのだ、ということは間違いないらしい。

 魔術師としての才能があり、職業としても花形。

 さらに……えっと、見た目もすごくきれいな人だし。

 結婚した今も実感が薄く、いつか言われたことを今も引きずっているところからすると、そう認めるのも何だかムカムカしてしまうけれど、とても異性にモテていたのだろう。

 私みたいに見た目も中身もお姉さまに遠く及ばず、血筋しかなく、それさえもすっかり風化している令嬢よりよっぽど、セレスタイトさまの方が引く手数多だったに違いない。


「つっても詳しい所は、またこれからだな。今のところ、話の出処というか、取引相手が聖女だってことしかわかってない。ルナが半狂乱になったのを抑えるのと、セレスタイトがここの防衛を先にした方がいいって言い出して、そっちにかかりっきりになったからな」

「……あの時は、ご迷惑を」

「いや、自分絡みであんなことになったら、誰だって怒るさ」


 気にすんな、とクゥリさまはルナさんを撫でる。

 それでもルナさんはうつむいたまま、唇をきゅっと強く閉ざしたままだった。

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