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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
八章:月は扉の向こう側
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嵐は終わらない

 深夜過ぎた時間だった。

 集合住宅の一角に構えた自宅で、クゥリはちょうど眠ったばかり。だがその眠りを妨げるように、窓をコツコツと叩く小さい――だが確実に安眠妨害となる音が聞こえたのは。

 それは黒い手のひらサイズの鳥が、小さくいくちばしで窓を叩く音。クゥリは眠い目をこすりながらも、それがセレスタイトが飛ばしてきた魔術の一種であることがすぐにわかった。

 小鳥は何も言わない、言わないが。

 セレスタイトからの突然の『使い』となると、何を言わずとも感じ取れるものがある。

 クゥリは顔を乱暴に洗って眠気を覚ますと、着替えもそこそこに家を飛び出した。

 そして屋敷に辿り着いてみると、もはや周囲に何かあったことを隠す気もないくらいに張り巡らされた彼の結界と、それらの作業のせいで若干疲れた顔で玄関の外にいた家主の姿。

 これは余計なことに首を突っ込んだかもしれない。

 今更なことを、改めてクゥリは思った。

 その思いは、現実のものになる。


「状況的にお前が連絡飛ばしてくるのはありえん、と馳せ参じたらこのざまだ」

「空気の読める友人で嬉しいよ」

「言ってろ」


 こつりこつり。

 再び寝静まった夜の屋敷に、足音と話し声が響く。

 セレスタイトがこっそりと結界を巡らせたため、部屋を一つ吹き飛ばすようなことでもしない限りは、眠っている彼女たち――ヴィオレッタとルナには何も届かないし、聞こえない。

 なので声をひそめることなく、クゥリとセレスタイトは会話をしていた。


「二人を部屋に置いてきてよかったのか?」

「大丈夫だよ」

「例の坊やがもし単独犯でなかったら?」

「その可能性も考慮しているけど、その時は周囲を巻き込んで応戦して、誰もが見知る大騒動にしてやるだけだし。例えば屋敷を爆破する、そして街中を逃げ回りながら戦う、とか」

「外道か」

「闇討ちよりはマシだと思う」


 まぁそれはともかく、とセレスタイトは続け。


「失敗が露見するには時間が掛かるし、そもそも屋敷には結界を張り巡らせてある。腐ってもこの手の魔術が得意な彼のお手製だからね、こうなってしまってもそれくらいの仕事はしてもらわないと困るな。もう少し時間があれば侵入者を感知したら即座に攻撃を与え、消し炭を作るところまでするんだけど、流石にそれをやるには準備不足でね」

「手が早いねぇ、そして物騒だねぇ……」

「最悪、相手がエメレ家となると、まだ全然足らないと思うよ」


 言われ、たしかにそうだなとクゥリも思う。

 貴族としても、魔術師一族としても、エメレ家ほど恐ろしい家もない。

 いや、あえて上げるならノア家がそれに勝るとも劣らないが、そんなことセレスタイト相手に言うまでもないことだ。そのノア家に幼いころから所属していた身の上なのだから。

 とはいえノア家は、自分たちの利のあることでもない限りは出てこないだろう。

 良くも悪くも、そういうところはしっかりしている。

 彼らはエメレ家を好まないため、むしろこちらの味方につく可能性のほうが高いのではないだろうか。敵の敵は味方、そういう理論だ。まぁ、セレスタイトが頼っている様子が微塵もないところから、これもまた意味のない推察と期待――期待らしきもの、であろうが。


「で、肝心の坊やはどこだ?」

「リビングに転がした」

「……首を?」

「そんなことするわけないじゃないか、つまらない」


 面白ければやるのか、と思ったクゥリだが、黙っておいた。

 セレスタイトは基本こういう男だ、ということを忘れないようにしなければいけない。

 そしていざリビングに入ったところそこにアンディ・エルテはいたし、首もぶった切られることはなくちゃんとつながっているが、確かに床に、無造作に『転がされて』いた。

 おそらく魔術で補強したのだろう縄を、ぐるぐるに巻きつけた状態で。

 手首足首はもちろん、腕もぐるぐると胴体に縫い付けるように固定されているし、太もももびっちりと身じろぐこともできないくらいに縛り上げられている。

 しかもところどころに護符を織り込んだ、対魔術師の拘束仕様というおまけ付きだ。

 あまりのえげつなさに、クゥリも流石に苦笑しか出ない。


「ご丁寧に魔術封じの護符つきか。容赦ねぇな」

「陣の中に放置でもよかったけど譲歩してあげた方だよ」

「あぁ、そう……」


 譲歩の意味を問いたくなるが、もう深く考えないことにしよう。

 魔術封じの護符は全身に高熱にうなされるような倦怠感が、陣の場合は全身を刺すような小さい痛みが走る。魔力を食い荒らすことで封じる、という仕組みからくる影響だ。

 死に至るほどではないが、軽くはないため一種の罰として扱われている。

 なお、もっと軽く、簡易な魔力封じの方法はあるのに、あえてそれを選んでいるところに友人の性格の悪さと、何よりも明確な、殺意にも等しい怒りをクゥリは感じ取った。

 余計なヤツに余計なケンカふっかけたなぁ、と憐れみすら浮かぶ。


「それで、この坊やは何をしたんだ?」

「めちゃくちゃ怪しい格好でヴィオレッタを驚かせた」

「……」


 クゥリも流石にこれには鋭い視線を向けざるを得ない。それで話が済むなら自分を呼びつけるわけないだろう、という言葉を、細めた目に乗せてセレスタイトに突き刺した。

 冗談だよ、とセレスタイトは答えて。


「僕を殺しに来たんだろうね」


 淡々と、他人事のように笑っている。

 ……一発殴っておいた。

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