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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
五章:赤い毛糸玉現象
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嫉妬、あるいは羨望のような

 だけど気をつけるとしても、どう気をつければいいのだろう。

 食事の間、あれこれ考えたけど答えはない。

 今は洗い物を片付けたところだけど、やっぱりどうすればいいのか纏まらなかった。

 私が取るべき行動、とってほしいとクゥリさまが望む行動。

 だけどその前提条件には、私にもできる行動、というものが存在する。


 相手は魔術師、私は魔力を扱える程度の普通の人。貴族の嫡男ならある程度の剣術なども身に着けている――と本にあったから、アンディさんもそれなりに戦う術を持っているはず。

 ルナさんも魔術師だと思うし、そんな二人に私が何をどうすれば?

 ただ、私が対処するしないは関係ない気がする。

 私程度が気づくことなら、当然セレスタイトさまが気づかないわけもないし、あの人なら何を言うまでもなく最善のことをするだろう。そういう安心感というか、安定感はある。


 そこまで考え、少し思う。

 セレスタイトさまの、当たり前のようにやってしまうところを、その時に無理や無茶をしてしまうのではないか、とクゥリさまは心配なさっているのではないかと。

 これまでは自分で釘を刺せたけど、これからはそうもいかない。

 その時、もし私がクゥリさまの立ち位置なら、私も間違いなく私を使うだろう。

 だって私しかいない。

 味方といえるのは私くらい。

 セレスタイトさまに害意がないと言い切れるのは自分のことだからであり、クゥリさまがそう思ってくれたということは、素直に嬉しいと思う。

 だからこそ私にもできることを、と望むのは過ぎたことだったのだろうか。

 私はお姉さまのような教育も受けていないし経験もないから、望まれたようなことはできないのかもしれない。知識だけは読書で培ったけど、あまり役立たないのはもう知っている。

 あるだけの知識は、意味が薄い。

 知っているだけではダメだ。

 それでもやらなければならないなら、精一杯頭を動かさないと。

 足りない経験を、知識の量で補えるように。


 まず、セレスタイトさまについては保留にしておこう。

 日常的に気をつければいいし、特に意識しなくても何とかなる範囲だと思う。現状、セレスタイトさまに無茶をしている兆候は見えないし、たぶんそこは安心していいと思い、たい。

 次、というか残るもう一つの問題はアンディさんとルナさんだ。

 この二人、特にアンディさんはよくわからない。

 さらりと聞いた話では、アンディさんの役目はこの屋敷を囲む結界の管理だという。つまり私たちの監視が目的でもないし、仕事でもないはず。だけど彼は今、ここにいる。

 それはどうしてなのだろう。


 クゥリさまの侵入に気づいたから?

 ううん、それなら口頭で注意をするなりでいいと思う。わざわざ直接乗り込んでくる理由もないはずだし、ましてや住み着く意味があるようには考えられない。

 アンディさんがどの程度の地位かはさておき、貴族の嫡男なら忙しいと思うし。


 では、ルナさんが監視を任された? ので、ついてきた?

 これも少し変な気もする。宮廷魔術師のセレスタイトさまに、見習いだというルナさんを当てる意味が考えられない。何かあった時、対処できなかったら監視の意味が無いはずだし。


 だけど実はルナさんはすごい力を持っていて、という場合は?

 これは考えすぎ……かしら。

 そんなことを言い出したらあらゆる前提が崩壊してしまう。可能性は否定できない、というより肯定や否定できるだけのことを、私程度では感知することも不可能だから。

 本に書いてあった内容によると、魔術師として一定の力量を持つ人は、見た相手が自分と比べてどれくらいの力を有しているのか、なんとなく程度でもわかるという。

 当然、私はその域には遠く及ばない段階だ。

 そもそも魔術が使えないのだから、まず魔術師ではないし……。


 話を戻して――ルナさんが監視の仕事を任された、と考えた場合、前提条件はともかくアンディさんについては、実はすんなり説明がついてしまうのではないかと思う。

 流石に私も気づいたけれど、彼は、彼もかなり過保護な人だ。

 セレスタイトさまが私にするほどあからさまではない、だけど強い口調の中には確かにルナさんを気遣う響きがこもっていると思う。ワンピースの件は、少し過剰反応だったけど。

 例えば以前、ルナさんと一緒にちょっとした裁縫をしていると、どこからともなく現れたアンディさんが不機嫌そうに近くのソファーに腰掛け、こちらの作業が終わるまでしかめっ面で読書をしていたことがあった。本が逆さまになっていたから、建前だとさすがにわかった。

 あれはルナさんを見守っていたか、お姉さまの妹である私を監視していたか。

 ……両方、かしら。

 ともかくアンディさんはことルナさんが私――セレスタイトさまではなく、私ヴィオレッタと絡んでいると、妙にそばに寄ってくる、ような気がする。いつもは離れた場所で、持ち込んだのだろう見知らぬ装丁の分厚い本を読みふけっていらっしゃるのに。


 でもそこまで大事にする理由は、なんだろう。

 ルナさんが許嫁?

 そんな素振りはなかった、と思うから違う気がする。仮にそうなら私だけに突っかかる理由がよくわからない。そこはセレスタイトさまも含まれるべきなのではないかしら、男性だし。

 あれ、でもルナさんが直接的に絡んでいないから違うと思っていたけど、日々繰り返されているあの応酬が『それ』だったら? セレスタイトさまとのやり取りが、牽制だったら?


「……もしかして、アンディさんはルナさんを好きなのかしら」


 そうだとすれば私への態度も、嫉妬、というものになる……?

 彼は同い年のはずだけど、そんなことを考えてしまうとなんだか微笑ましく思える。きつい口調はあまり好きにはなれそうにないけど、その裏側がそんなに可愛らしいものだったなら。

 ほんわかした気持ちは、一瞬。

 やることを済ませて振り返ったその先には、真顔のアンディさんが佇んでいた。

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