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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
四章:幽閉の監視人
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これこそ信仰

 睨み合う二人を置いて、私とルナさんは二階に向かった。

 ルナさんが、荷物を部屋に置きたいと言ったからだ。

 あのまま放っておいても大丈夫、とルナさんがいうのを信じた形になる。心配じゃないといえば嘘になるけれど、私にあの状況を何とかする力なんてなかった。アンディさんはルナさんが、セレスタイトさまは私が言えば、言葉の応酬をやめてくれるとは……思うけれど。

 それに二人はこれから、いつまでかはわからないけれどここに住むという。

 じゃあ、必要になるのは部屋だ。

 男の人と女の子だから、ちゃんとわけなきゃいけないし……。

 幸い客間に余裕はあって、毎日の掃除で綺麗に整えられているから、二人が寝起きするのに問題はない感じだった。問題は誰がどこの部屋を使うか、というところになる。


「お部屋はどうしましょう」

「あたしは……あたしは、どこでも構いません、妹さま」


 自分とアンディさん、二人分の荷物を抱えたルナさんが言う。

 妹さま、というのはどういう意味だろう。確かに私は『妹』だけれど、私自身は何の権力も持たない『元貴族』だし、お姉さまもすでにこの国では立場などなくなっているし。

 仮にお姉さまに何もなくとも、そんな風に呼ばれる人間ではないのに……。


 それからルナさんは何も言わず、そのまま近くにあった部屋に入っていった。

 そこは私が寝起きする部屋の直ぐ側にある客室で、ルナさんはそこに自分が背負っていた袋をベッドへ投げるように置く。アンディさんの荷物は、入ってすぐのところに置かれた。

 まさかここで一緒に、と一瞬考えたけど、この部屋は左右にまだ空き部屋がある。どっちにするのか、あるいは離れた客間にするのかわからないから、ひとまず置いた感じだろう。

 いくら同じお師匠さまのところにいるとはいえ、きょうだいでもないのに流石にちょっと先走ったことを考えてしまった。ただルナさんの態度から、必要とあらばそれも辞さないという感じがしてしまって、不安というか、驚いたというか、そんな感じだった。

 ……仮にそのつもりだとしても、ベッドは一人分しかないから無理だと思うけれど。


 そういえばベッドのシーツとかは、やっぱりお洗濯した方がいいのかしら。

 部屋の床などは見た感じ綺麗にされているけれど、洗濯、となるとやっぱり魔術でぱっぱっぱとできるわけではないようで、干されているのを見たことがないから手付かずだろうし。

 あとでセレスタイトさまに相談しよう。


「妹さま」


 外套も脱いでベッドに投げたルナさんは、戸口に立っている私の前に戻ってくる。

 それから恭しく一礼して、顔を上げ、まっすぐ見つめてきた。どこかぼんやりしたところのあった先ほどまでの雰囲気は一変し、ぴんと張り詰めた緊張感が肌を撫でる。

 ふと、ルナさんはもしかして私と話がしたかったのでは、ということを考えた。

 言い合う二人を置き去りに、荷物を運ぼうとするのは少し不自然だ。一応、アンディさんが自分の言うことをある程度は聞き入れてくれると、自分が言えば止まってくれるのだと。

 それを、彼女は知っているはずなのに。


 だけどそこまでして、私と二人っきりになる理由は思いつかない。

 私ではなくお姉さま絡みかな、と考えるけど、お姉さまとの繋がりが絶たれていることを知らないわけもないし。あるいは単に、分担作業で監視するということなのだろうか。

 もやもやと考え込んでいると、ルナさんが意を決した顔で口を開く。


「ここにいる間、あたしのことはメイドのように使っていただいて結構です」

「え?」

「少しの家事なら、先生のところでやってますから。お任せください」

「いえ、自分でできることはやりたいですし……」


 突然の申し出に、ただただ困惑するしかない。

 そもそも妹さまだなんて呼ばれる身分でもないし、と続けると、ルナさんは髪を乱すように勢い良く首を左右に振って、一歩前に出るように私の手を握り締めると。


「あたしにとっては、あなたがすべて。あたしは、あなたのしもべです。相手が誰であろうとも、あなたに危害を加えるすべてをあたしは許さない。すべてをもって排除します」

「だけど別にお仕事があるルナさんに、そこまでされるわけには」

「いいえ! 妹さまは妹さまです! あたしは、妹さまを守ります。アンディは監視するのが仕事だけど、直接何かする子じゃないから安心してください。妹さまには敵の指一本触れさせずよう、必ずその身をお守り申し上げることを、ルナ・フィライの名に誓いましょう」


 強い口調で、そう宣言する。

 敵、敵とはなんだろう。

 考えられるのは王子と聖女――だけど、あの二人を『敵』にするとなると、まず身近なところではアンディさんが『敵』になる。そしてそれ以上の多くが、私たちの『敵』だろう。

 例えば、セレスタイトさまでもすべてを倒すことはできないはずだ。

 ルナさんがどれくらい強いのかわからないけれど、それでも無理だと思う。

 だけど彼女はしっかりとした声で、はっきりと言い切った。


「おまかせください、我が君」


 さま付けから更に上へ置かれた、ような。

 い、いや、この状態の彼女には何も任せられないというか、何を任せればいいのか思いつかないというか、私よりアンディさんやセレスタイトさまの方が仕事が多いはずだとか。

 ルナさんは、やっぱりよくわからない……。

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