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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
四章:幽閉の監視人
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未来のこと

 朝、サラダとスープを作りながら、なんということもないひとときを過ごす。

 そこまで火加減が難しくない――だろう、ということで、私はスープ作りを任されることになった。もちろん凝ったものなら私では難し、でもこれはごく普通の朝食用。

 余っている野菜をさっと煮込むだけでいいから、私にでもできた。

 あとはサラダを少々。今日はさっと湯通しした温野菜。

 味付け、ドレッシングに関しては、何種類か教えてもらったので基本的にそれを日替わりでやりくりしている。いずれ調味料類を新たに手に入れたら、別のものを教えてもらう予定だ。

 魔力の使い方に関しては、ゆっくり、という感じ。

 少なくともコンロの点火と消火、これはできるようになった。

 あとは加減さえ覚えれば、またできる料理が増える。

 最近、セレスタイトさまが自炊していた理由が、なんとなくわかってきた。必要に迫られてと言っていたけれど、きっとご本人も楽しいと思っているから続いてきたのだと思う。

 料理は楽しい。

 具体的にここが、と言えるほどできることは少ないけど、なんだろう。刺繍とは全然違うことをやったり考えたりするのが、私にとってはとても新鮮で楽しいと感じられたのだろうか。

 もっと、もっとたくさん覚えたい。

 そしてセレスタイトさまに、おいしい、と言ってほしい。

 今も言ってくれるけど、もっと。


「……そろそろいいかな?」


 くつくつと煮立ったスープの味を見て、それから火を消す。

 野菜は小さく、ころころとした大きさにしているので問題なさそうだし、お肉もひき肉にして小さめに丸めてあるから大丈夫だと思う。味に関しては、それこそ問題ない。

 ……あらかじめ、セレスタイトさまが整えてくれているので。

 決まった味付けのスープはいいのだけれど、こういうその時にあった材料をざっと煮込んだという感じのものとなると、どうにも塩でザっとした味付けにする以外の選択肢がなくて。

 セレスタイトさまなら追加でいろいろ、例えば今回だとひき肉のお団子を入れることでまた違った風味に仕立てた。あとハーブなどの香辛料も、うまく使いこなしている。

 以前よりはできるようになったとはいえ、私はまだまだだ。

 未だに刃物は、触らせてくれないし。

 ただそれに関しては、やはり『怖い』という感情が強いのである意味ありがたいけれど。


「サラダは食べる前に作業して、メインはセレスタイトさまが作る。……朝だから卵料理になるのかしら。あれ、でも卵はもうないかもしれないから、違うものになるのかも」


 コンロから鍋をおろし、じゃまにならないところに移動させる。

 ここでの生活に慣れてゆとりが生まれて、楽しみになったのは食事だった。意識したことがないからわからないけれど、以前と比べて明らかに食べる量が増えていると思う。

 あれからクゥリさまを経由して、エメレさまからの差し入れである服が、出かけられないけれど出かけるのに不自由しなさそうな数で届いたけれど、着れなくなってしまうかも……。

 でもセレスタイトさまは、前が食べてなさすぎたんじゃない、と笑うだけ。クゥリさまはたくさん食べるのが当たり前なのが見てわかるので、おそらく同じような答えしかないし。

 そもそも、他に誰も居ないとはいえ男性に体格の相談は……ちょっと。

 幸い今のところは気にしすぎの範疇だけど、少し気をつけた方がいいかもしれない。

 ここでの生活はあくまでも一時的なもので――いずれ、私はお姉さまがいるであろう場所に向かう。そこでは以前はもちろん、今の生活のような日々を送れる保証なんてないのだから。

 ただひとつ心配なのは、お姉さまのこと。

 無事に過ごしていてくれれば、いいけれど……。


 はぁ、と思わずため息がこぼれた時。

 遠くの方で、何かが軋むような高く小さい音が聞こえた、気がした。

 魔力の使い方を教わり始めてすぐに教わったことに、魔術を使った時の現象、というものがある。それは炎を出すとかではない、基本的に魔術師でなければ感知できないこと。

 例えば魔術を使えば、そこには特有の残滓が残される。

 残滓は個人個人で違うため、そこから術者を特定することもできるのだそうだ。残滓と呼ぶくらいには本当にかすかなもので、しばらくすると消えてしまうので万能ではないという。

 そして、魔術には音もある。

 さっき私の耳が拾い上げた小さい音、あれもその一つ。

 習い始めてしばらくした頃、私はクゥリさまが来るたびに聞こえるそれに気づいた。あれは結界をすり抜ける際に使う魔術が、結界とぶつかることで音がより鮮明になっているという。

 基本的には至近距離、つまり術者にしか聞こえないものだとか。

 ただ結界には魔術をぶつけるため、普通より大きく音が鳴るらしい。


 ――お嬢さんの場合、魔力が豊富なだけじゃなく敏感なのかもなぁ。


 とは、クゥリさまの言葉。

 私は魔術や魔力といったものに対する感覚が、人より優れている可能性があるらしい。書物で調べたところによると、そういうものはほとんど生まれ持ったものなのだとか。

 使いどころは多少限られるものの数が少ない才能ではあるようで、いざとなったらそれに特化した魔術師として職を得ることも可能、と少し前に読んだ本には書いてあった。

 もう少し使えるようになれば、この力で生活の糧を得ることができるかもしれない。

 その頃にはセレスタイトさまは、と思うとあまりうれしく感じないけれど。

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