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私の旦那さまは余命100日  作者: 若桜モドキ
二章:嘘と本当と知らないこと
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新婚? いいえ同居です

 同居。

 何ともあっさりとした言葉に、一瞬ぽかんとしてしまう。

 だけどたぶん、これは同居という方が、確かに正しいと思う。だって私とセレスタイトさまは別に、縁談があったわけでもないし、恋愛関係にあったわけでもない。

 政略というには、あまりにも関係が希薄。

 というよりも、通常の結婚で考えられる状況のうち、一つ屋根の下で暮らしていく以上を求められてもいなければ、互いに望んでいるわけでもないのなら、やっぱりこれはただの同居。

 ……同棲、という言葉もあるようだけど、そういう感じでもないし。


「あ、そうそう、ここの間取りのことなんだけど」


 ハーブティを飲みながら一息ついたところで、セレスタイトさまは家の間取りについて説明を始めた。まず今いる所はリビングで、奥にダイニングがあり、さらに奥にはキッチンと裏口があるという。玄関ホールを挟んだ反対側には、簡単な書庫を設けているとのこと。

 二階には客間がいくつかと、セレスタイトさまが寝起きしている部屋。

 あと、その横に仕事用の簡単な書斎。

 お風呂などの類は一階と二階、両方にあるという。

 地下もあるそうだけれど、魔術に関する研究などをする部屋や、それに使う機材や薬品などを置いてある部屋しかないので、危ないから入ってはいけないと言われた。

 書庫には魔術に関する資料が多いらしく、でも小説などの一般的なものがないわけではないから好きに使っていいという。仕事部屋でもある書斎には、専門書しかないとか。


 専門書、というのは魔術に関する研究資料。

 普通の人には、何について書いてあるかもよくわからないものばかりらしい。

 宮廷魔術師は大雑把に分けて、一つは騎士団に所属して有事の際に戦う魔術師と、城の防衛と同時に魔術に関する研究などをしている研究職、この二つの役割がある。

 セレスタイトさまは、どちらかと言うと後者の研究職。

 戦うことはあまり好きではない、そうだ。

 やれと言われたらやれなくはないけど、とさらりと言えるところが、少し怖い。


「荷物の揃えは後々何とかなるとして……えーっと、まずは食事にしようか」

「食材は、あるのですか?」

「魔術を使った保存庫に野菜類は入れてあるし、この前魔力充填しておいたから……なんやかんや一週間くらい家を開けてるけど、まだ充分に食べられるはずだよ」

「魔術の、保存庫……」

「知り合いの魔技術者からまだ試作段階のを強……借りてきたんだ。完成に向けてのテスト要員としてね。僕みたいに潤沢に魔力がなくても、一般的な水準の魔力でも動かないと、流石に大衆向けの売り物にはならないから。おかげで買いだめできて助かってるよ」

「そんな便利なものが、あるのですね」

「まだ改良の余地がありすぎて、燃費が悪いシロモノだけどね」


 そう言いながらセレスタイトさまは立ち上がると、キッチンがある方へ歩き出す。

 これから食事を用意するらしい。おそらく、一人で。というより、私を計算に入れていないのだろうと思う。待っていてという言葉すらなかったところからして、たぶん。

 無理もない、かもしれない。

 普通の貴族令嬢は、料理など滅多にしないものだろう。必要に迫られるか、そういう趣味でもなければ。私は後者というか、そもそも作りに行ける状況でもなかった。

 私が動けばみんなも動いて、その分迷惑もかけてしまう。

 作ってみたい、と本を読んで思ったことは多々あったけれど、面倒を見てもらっている側なのだからと我慢していた。でも、これからはそういうわけにもいかない。

 私は前のめりになりながらも立ち上がると、セレスタイトさまの服を掴んで。


「わ、私もやります、お料理、やります!」

「え? 大丈夫なの? そういうことしていない、と思うんだけど」

「大丈夫です、お任せください!」


 不安そうな表情を、大丈夫、の一言でグイグイと押していく。ここで引いたら最後、片付けなどのちょっとした手伝いすらやらせてもらえないような、そんな気がしたからだ。

 確かに作ったことはない、でも片付けとかの雑用ならできると思う。

 流石にお皿を運べないほど虚弱ではないし、そこまで足手まといにはならないはず。


「そう? ……じゃあ、少し手伝ってもらおうか」

「よろしくお願いします」

「いいよ。料理は作って覚える方がいいだろうしね。刃物は持たせないから、混ぜたりするのを任せようかな。食べられないもの、食べてはいけないと言われていたものはあるかい?」

「いいえ……しいて言うなら、もう少し食べる量を増やすべきだ、とは」

「少食?」

「……はい。お姉さまにも、もっと食べなさい、と会うたび言われていました」


 お姉さまなりに食の細い妹を心配していたのだと思う、食べ物に関しては特にあれこれ言われていた。元からそれほどふっくらしていないのに、会うと『痩せたかしら』と言われたり。

 そんなに極端にやせ細っている身体なのかと不安に思ったこともあるけれど、健康上には問題がない範囲のようで、主治医の先生にもとやかく言われなかった。

 なので、お姉さまが心配性なだけなのだと思う。

 ただ、やはり食べる量を増やすようには、時々言われていた。

 健康に問題はない範囲ではあっても、やはり食の細さは懸念材料になっていたらしい。運動量を増やしたせいか、妙にお腹が空くようになっていたので、以前よりは増えたとは思う。

 そこまで聞いたセレスタイトさまは、うーん、と腕を組んだ。


「そうだなぁ。とりあえずメニューは明日考えるとして、今日はサラダとスープと、あとはありあわせの何かでメインかな。肉はあったと思うから使おうか。お肉はいける?」

「ちょ、ちょっとだけなら……脂っこいものは、苦手で」

「わかった」


 任せて、と得意気に笑うセレスタイトさまについて、私もキッチンへと入っていった。

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