自慢のお姉さま
ヴェルテリス侯爵家には、それはそれは美しい令嬢がいる。
不相応な身分の高さと言われながらも、他の誰も敵わない高貴な血を引き、生まれてまもなく第一王子――つまりは未来の国王の許嫁とされた、美しい娘。
彼女は幼い頃から城で暮らし、王妃として必要な教育を余すところ無く注がれた。すでにその地位も未来も盤石で、国王夫妻に付き添って国内外の来賓に会うことも少なくない。
物腰は優美、かつ洗練されたもの。
このような女性が王のそばに控えるならば、この国は安泰だろうと誰もが言う。
そう、その『令嬢』こそが私の姉ミオリア・ヴェルテリス。
なんて素晴らしい、私の自慢であり、心から誇ることができるお姉さま。
黒曜石のような長い髪も、黄金色の瞳も、そのすべてが美しい。
同じような色なのに、私とはまるで違って見える。
『かわいいヴィオレッタ、あなたがわたくしの心の支えよ』
なんてお姉さまは言うけれど、それは私の言葉。
生まれた頃から身体が人より弱くて、その頃よりは多少改善された今でさえも、社交界には出られていない私。両親も亡くなった私が、いずれお姉さまかその子どもが継ぐ予定の領地で悠々自適に静養生活を送れているのも、お姉さまがお城で戦っていらっしゃるからなのよ。
そう、お姉さまは常に戦っていらっしゃる。
いくら国王夫妻の覚えがよくても、お姉さまを妬む人は多い。親を亡くした現状、私やお姉さまの足元は、どうしたってもろく崩れてしまいそうな部分ができてしまう。
そこに『未来の王妃』という要素は、とても重い。
お姉さまがその重さを、ものともしない姿すら人々に畏怖と尊敬、嫉妬を与えてしまう。
……私だって、お姉さまのご高名が重荷に感じることが、あるくらいだもの。
嫉妬だってした。どうして私はあの人のようになれないのだろう、とお姉さまには何の非もないことを考えてしまったことだってある。自己嫌悪で何度、潰れそうになったことか。
お姉さまが素晴らしければ素晴らしいほどに、私にも視線が向けられてしまう。
私は病気という程ではないけれど、元気というわけでもない状態がずっと続いて、背格好だけ見たらまだ子供のような状態で成長が止まってしまった。お姉さまは女性としてあんなにも魅力的だというのに。それもあって、すっかり落ち込んでしまった頃もあった。
だけどお姉さまは忙しい合間を縫って遊びに来て、手をとって微笑んで。
『かわいいヴィオレッタ。あなたは、あなたのままでいいの』
そう言ってくれた。
私にとってお姉さまは光。
太陽なの。
許嫁にして婚約者である王子との結婚を間近に控え、手紙のやり取りも途切れ途切れになりつつあっても、私はずっとお姉さまの幸福を信じ、早くその姿をみたいと思っていた。
そのために苦手な食べ物を口に入れるようにしたし、主治医の先生と相談して運動を始めてみたりもした。だって私はお姉さまの妹、お姉さまの晴れの舞台に、私も行くのだから。
そしてこの瞳に、最高に綺麗で幸せなお姉さまを。
……そう、信じていた。