四日目
「あぁーあ。遠くで光ってる星なんて外見と大きささえそっくりにすればいいけど太陽系の惑星は自転したり公転したりさせなきゃなんねぇから面倒臭いな」
……宇宙飛行士が聞いたら卒倒しかねないほどの妄言も、神であるセルゼルノの前では何気ない愚痴でしかなかった。しかしいくら神とはいえ、さすがに一人だけでは限界がある。セルゼルノはそう感じ始めていた。……決して面倒臭いわけではない。あと、寂しいわけでもない。
辺りを見回して、自分一人である事を改めて確認すると、
「またアレ作るか。神王にはもう使うなって言われてたけど、この際仕方ないよな」
自分で自分に言い訳し、もう一人の自分、隣に立っているのをイメージする。
しかしなぜかうまくいかない。そしてふと思い出す。銀河を消してしまって以来、神王に分身のイメージの記憶を封印されてしまっているのだった。
「あぁー、何とかならないもんですかねぇー」
何か他のイメージの仕方があれば封印など関係ないのだが、分身は使用される機会が極端に少なく、神王以外、やり方を知っているもの自体少ない。
「あぁーあー一人じゃ世界造れないやぁー。もう諦めよっかなー」
セルゼルノは駄々をこねる子供のように、世界と繋がる扉のほうを向き、大声でぼやく。
しかし反応は無い。セルゼルノは舌打ちをして、本を乱雑に捲り出す。
すると最後の項目に、なぜか分身の作り方と書かれたページを見つけた。
「なぁーんだ。やっぱり作っていいのか。ま、そりゃそうだよな」
方法がわかりさえすれば後は何も難しい事は無い。
セルゼルノはさながら量産機の如く、次々と分身を作り上げて行った。
それが、災いの発端になるとは思いもせずに。
*
神王の座る玉座の前で、今日も一人の神が跪いていた。
セルゼルノと比べると一回り大きく、無造作な青い短髪に、健康的な角張った輪郭を持つ体。
その神は、トーガを思わせる真っ白な服の下に丈の短い水色のワンピースを着用し、その裾の下からは、筋肉質でたくましい太ももが伸びている。
「神王様」
唸るような低く力強い声と、爽やかな磯の香り。
「なんじゃ」
果たして誰が、この姿を見て、この声を聞いて――――
「地球には、性転換、というものがあるそうですよ」
――――女だなんて、思うものか。
「……お前もか」人はこの状況をデジャヴと呼ぶ。
「まぁそれはまた今度話すとして……」
「まぁ、構いませんが」
始まりの神アダムは、不服そうに顔を顰めながらも立ち上がり、踵を返して去って行った。
「――――って、お前の用はそれだけかぁーーーーーーーーーーーーーー!!」