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続雨
*
あの子の手が異様に冷たいと思った時から逃げ出しておけばよかった。
後悔の色がにじむ。だがそれももう手遅れだ。少女はもう、目前まで迫って来ている。
「ねぇ、君の心はどこにあるの? 教えてよ。僕はどうしてもそれが欲しいんだ」
「何、言ってるの?」
少女が、悦子に向かって手を伸ばしてくる。
「ねぇ、どこ? どこなの? 頭にあるの? 心臓にあるの? ねぇ、ねぇ」
悦子は、その不気味に笑う少女から後退りする。
しかし、足が竦んで思うようにいかない。そうしているうちに足元に落ちていた棒状の物に躓き、転んでしまう。甲高い金属音を立てたそれは、鉄パイプだった。近くの工場の廃材か何かだろうか。鉄パイプは転がっていき、少女のつま先に当たって止まった。少女はそれを手に取ると、薄ら笑いを浮かべた。
「大丈夫だよ。僕はただ、君のその、温もりが欲しいだけなんだ」
そう言って、少女は鉄パイプを振り上げる。
悦子は、今にも消え入りそうな加須そい声を上げた。
「助けて、セルゼルノ」
――――真後ろで、コンクリートの抉れる音がした。