ほどなくして
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セルゼルノは相変わらず探しに行くのを面倒臭がり、目の前までやって来るのをだらだらと待ち続けていた。やがてしばらくすると、運良くそれらしき者が通りかかった。
その男はフードを深く被っており、顔に影が落ちているためか、その顔は窺えない。だが歩き方もぎこちない上に右腕が変に揺れて不気味な雰囲気を醸し出している。
セルゼルノは確信し、立ち上がって声を掛ける。男はこちらを一瞥すると途端に駆け出した。
間違いない。分身だ。セルゼルノはその後を追い、一本道を駆ける。
男の足は速かったが、二人の距離はしだいに縮まっていった。セルゼルノは男に向かって右腕を伸ばし、走りながら強く念じる。
しかし戻って来る気配はない。速度が落ちる素振りも無く、速くなっている気さえする。
風を受けて男のフードが脱げ、その頭が露わになる。
否、そこに頭はなかった。真っ黒に塗りつぶされた何かがそこにはあった。それだけだった。それは分身である証拠だ。
あれほど長い年月が経ったにも関わらず輪郭を保っており、ズボンの裾から時折見える彼の足首は、薄い肌色をしている。それらは至近距離にも関わらず戻ってこないのと、関係がありそうだった。
セルゼルノは右手をさらに突き出しなんとか男のフードを掴むと後方に思いきり引っ張った。当然男の首はガクンと後ろに傾いて、そのまま後ろに倒れ込んでくる。
セルゼルノはその真っ黒な頭を抱えこみ、呟いた。
「戻れ」
すると、嘘のようにあっさりとセルゼルノの元へ戻った。
にもかかわらず、男の服は支えを失っていない。男の着ていたパーカーを持ち上げると、袖口から右腕がずり落ちた。それに手を伸ばそうとした時、微かに、誰かの呼ぶ声がした。