呼び寄せ
今回から三章です。
サブタイトルはいつも後から適当に考えたものを使っているので、あまり気にしないでください。
あれから早くも一週間が経とうとしていた。
長かったテスト週間が終わり、校門から出てくる生徒たちは皆、どこか楽しげだった。
「ねぇ悦子、テストも終わったことだし、これからカラオケでも行かない?」
後ろから肩を叩かれて、肩をビクリとさせ振り返ると、悦子のクラスメイトであり幼馴染でもある恵美と同じくクラスメイトの真奈が屈託のない笑みを浮かべて立っていた。
「ゴメン、今日ちょっと用事があるんだぁー」
悦子はその誘いを申し訳なさそうに断る。
「えぇー!! まぁたぁー!? ちょっとどうしたのよ悦子。ひょっとして、彼氏でもできたぁ?」
恵美はわざとらしく素っ頓狂な声を上げ、茶化すように肘で突いてくる。
「そんなんじゃないって」
悦子はそれを苦笑いで誤魔化す。
「ホントにぃ?」
いつもは真面目な麻奈も、テスト終わりで浮かれているのか珍しくからかってくる。
「ホントだってぇ――――……何あれ?」
呟く悦子の顔からは、笑顔が消えていた。
「ちょっと、誤魔化さないでよ……」
悦子の視線の先を目で追うと、二人の顔からも笑顔が消え、怪訝な顔になる。
三人の視線の先には、怪しげな男がいた。男は、体を斜めに傾けているのか、右肩より左肩の方が高い位置にあり、歩く度に右腕が、壊れた玩具のように揺れ、その足取りも、かなりぎこちない。フードを深く被っているため、その顔は窺えないが、心なしか、笑みを浮かべているように見える。校門を出てすぐの通りを、帰宅中の生徒たちとは逆方向に歩くその男は、角を右に曲がり、姿を消した。その先の通りは、いつも悦子が神社に向かう時に通っている道だ。……なんとなく、嫌な予感がする。悦子は、今日は神社には寄らず、おとなしく恵美たちと帰ることにした。
*
「あぁあー。遅いなぁー、悦子」
一方セルゼルノはと言えば、神社の前の階段に腰掛け、暇そうに足をばたつかせていた。
ちなみに自己紹介されていないのに名前を知っているのは、神だからではなく、ただ単に、借りていた教科書の裏に書いてあったからである。
「あぁー。前みたいに戻れって念じたら、また戻ってこないかなー」
言いながら、だるそうに右腕を上げ、だるそうに呟いた。
「我もとに戻れ」
……そのまましばらく待ってみるが、意志が弱いのか、一体も戻ってこない。
なんとなくムッとしたセルゼルノは勢いよく立ち上がって両手を力強く上げ、叫ぶ。
「いい加減戻って来いやぁーーーー!!」
すると数体の霧状の分身がきて、手の中へと消えていった。さらに付近に、多くの分身たちが近付いて来ているのを感じた。しかしそれらはなぜか、姿を現さない。セルゼルノが手繰り寄せようとしても、霧状の分身と違い、ずっしりとした重みを感じ、うまくいかない。だがセルゼルノの声に反応し、こちらに向かって来ている事には違いない。セルゼルノは再びコケだらけの階段に腰を下ろし、満足げに笑みを浮かべた。
*