プロローグ
改稿いたしました。(2017年8/26)
この機会にどうぞ。
ダイヤモンドをぶちまけたような宇宙の中心に聳え立つ、白く大きな神殿の最奥。
王の間に、二柱の神たちがいた。
一人は、全ての創造神、神王。その身分と巨躯に見合う、巨大な玉座に席を取る。
肩まであ茶髪に長い髭を携え、老齢の賢者の如きその風貌は、伝承そのものだ。
「――――セルゼルノ。今日お前を呼んだのは、この世界の、いや、我らの存続にさえ関わりかねん重要な案件があったからじゃ。それも、御主にしか成し得ぬことでな」
セルゼルノと呼ばれたもう一人は、床に敷かれた赤いカーペットの上に、やや猫背気味に跪き、その重い瞼でぼんやりと虚空を見据えていた。
神王より若く、むらのある白髪を生やす。有無を司りし神、セルゼルノ。
彼は神王の声に我に返ると、そっと、安堵の溜め息をつく。
というのも彼は、今まで数々の大失態をしでかしてきたのである。
つい先日も、誤って銀河の一つを消滅させたばかりだ。
「と、言いますと?」
再来する睡魔を振り払うべく頭を振って、セルゼルノは尋ねた。
「唯一生き物の住まう星、地球に、人間という高い知能を持った生物がいるのは知っておるな」
神王は身を乗り出し、試すような視線を投げかけてくる。
両腕にはめた白金の腕輪が、小さく金属音を立てた。
「はい。存じ上げております」
無論、嘘である。いつも用も無く辺りをうろついているだけの彼が、知るはずもない。
「その者たちは、かねてから星の外に興味を持っておってな。とうとう宇宙へ飛び立つことのできる装置を造り上げおった」
「……はぁ」
どれも初めて聞くことばかりで、セルゼルノは戸惑いの色を隠せない。
「もしそれに人間が乗り宇宙を見れば、理が破られ、たちまち世界は崩壊することとなる」
「何とっ!!」
その声色からようやく事の重大さを察し、セルゼルノは驚く素振りを見せる。
「そこで、この世界で唯一居特に役割の無いお前に、新世界を造ってもらいたい」
セルゼルノは冗談だと信じたかったが、神王は本気らしかった。
「七日で、ですか?」
「案ずるな。何も一から創れとは言わん。今あるこの世界を、そのまま真似ればよい」
「それはつまり、この世界の予備を造れ、と言う事ですか?」
「そう言う事じゃ。世界の崩壊によって我らの居場所が無くなっては困る。多少この世界と違っていても良い。期限は七日じゃ、今すぐ取りかかれっ!」
神王が右腕で空を薙ぎ払うと、途端に一陣の強烈な風が吹き荒れた。
「嘘だろぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぉぉっ!!」
セルゼルノは身構える間もなく背後に現れた扉の向こうへ吹き飛ばされてしまう。
そこには何も無く、空っぽな空間がいつまでも続いていた。
扉が閉ざされ取り残されてしまったセルゼルノは、なんかもう面倒臭いなぁと、早くも脱力感と言う名の絶望に打ち拉がれ、しゃがみ込んで頭を垂れる。
しばらく経つとやがて堪りかねたように小さく扉が開き、隙間から一冊の分厚い本が投げ込まれた。
すぐに駆けより拾い上げると、表紙には、記されていた。
『ゼロから始める世界創生 ~世界の理とその造り方~』
表紙を捲ると、かなり大雑把な項目が並ぶ目次があった。
「なるほどね」
セルゼルノは口元から笑みを零し、さっそく最初の項目を開く。
『世界創生時最重要事項』
大袈裟だと思いつつも、セルゼルノは独り、読書に興じ始めた。