ESPエンジンの子供達(7)
移民街区に突然現れた子供達は、ギャラクシー77に侵入してきた宇宙海賊達の生まれ変わった姿だった。『ESPエンジン』に内蔵された脳神経は、自分の血を受継ぐ超能力者達が、恨みや憎しみを忘れて健やかな人生を全うする事を望んでいた。茉莉香は、その願いを叶えるために、軍と乗務員達を相手に一芝居打ったのだ。
シャーロット達は、操船室に導かれて『彼』の想いを知らされた。その上で、茉莉香は、海賊達が死んで跡形もなく消滅したように見せかけたのだ。
それは、電子知性体群が味方になってくれたお陰で、船の監視システムを通じて軍の作戦参謀や船長達の記憶に刻み込む事ができた。更に、公式の記録や報告書にも、そう記載させる事に成功。記者会見での『軍』と『エトウ財団』からの公式発表を以って、『宇宙海賊シャーロットの一味を殲滅する事に成功した』と全銀河的に周知させる事が出来た。
後は、第七十七太陽系到着まで、子供の姿に再生させたシャーロット達を、移民街区で密かに匿う。終点に到着したら、彼等を開放する。それだけだ。
──後の人生は彼等が決めるだろう
願わくば、憎しみや辛い過去を忘れて、穏やかな人生を全うして欲しい。『彼』も少女も、そう望んでいた。
「あたしが──あたしと『彼』が出来る事は、せいぜいそこまで。あの人達は子供に戻しちゃったから……。ちょっとだけ心配だけれど、あの子達だったらきっと元気に生きて行けるよ。あたしは、そう信じてる」
話し終えた茉莉香は、そう言ってニッコリと笑った。
それを聞いていたコーンは、
「そうだね、ボクもそう思う。シャル達、とっても元気。それに仲良し。一緒なら、寂しくない。第七十七太陽系に行っても、強く生きていけると思う」
と言って、笑みを返した。
「しっかし、まさかコーンに見破られるとはなぁ。思っても見なかったよ」
長話を終えた茉莉香は、そう言ってエヘヘと笑いながら淹れ直したお茶をすすっていた。
それを見ていてコーンは、ハッと何かを思い出したような顔をした。
「そう言えば、ボク、どうやってシャル達に出遭ったか、未だ話して無かったね」
それを聞いた茉莉香は、
「えー、それって長くなる? きっとコーンの事だから、移民街区を散歩でもしていて、遊びに誘われたんでしょー」
と、あまり気の乗らない返事をした。
ところが、コーンは何か大事な事を思い出したようで、こう茉莉香に話し始めた。
「ボクがシャルに気が付いたのは、船外で作業していた時のこと。その事を、マリカに話しておかなきゃだと思う」
コーンのやけに真剣な顔に気が付いた茉莉香は、手に持っていた湯呑みを一旦お膳に置いた。そして、不思議そうな顔をして、コーンの事を見つめた。
「……? それって、大事な事?」
彼女が記録を調べた限りでは、
船外に居たコーンが、どういうつもりか移民街区へ行って、
監視カメラの映像や船のアーカイブスを調べていた、
そして、『あの子供達』と出遭ってた、
それだけだと思っていた。だが本当は……、
「ボク、宇宙で『あの子達』の声を聞いたんだ。とってもとっても微弱で、微かなモノだったけれど、確かに聞こえた。それで、その元を探しに移民街区へ行ったんだ」
コーンは膝立ちになって、シャル達に出遭った経緯を説明しようとしていた。
「ボク、保安部に入って、色々教えてもらた。それ以外にも、いっぱい練習してESPを鍛えたよ。……未だ、船の甲板は通れないけど……」
彼は、その時の失敗を思い出したのか、そこで、ちょっと口籠った。
「そりゃぁそうだよ。船の甲板は『エネルギー伝導装甲システム』で、ESP波を遮断するように強化されて……いる……も、の……」
笑って言葉を返したものの、彼女は段々とそれが秘めている重大さに気が付き始めた。
「って、えー! あの子達のESP波が、宇宙にまで漏れてたのー。それって、無茶苦茶大事なところじゃん。どうして黙ってたのよ、コーン」
茉莉香は、自分が気が付かなかった事を棚に上げて、眼前の見習い保安部員に言葉をぶつけていた。
「あ、ゴメン、マリカ。ボク、言うの忘れてた。シャル達の事、教えるのに精一杯で。マリカ、ゴメン」
どうしてか、少女に頭の上がらない彼は、平謝りしていた。
「あ、いや、ごめん。コーンだけの所為じゃ無いよね。……そう言えば、ESP制御バンドの事も言っていたような……。兎に角、今のままじゃ、マズイよね」
彼女の気付いたのは、『子供達の超能力がESP制御バンドで抑えられていないどころか、ESP波を通さない筈の船内隔壁やエネルギー伝導装甲システムさえ通り抜けて仕舞っていると言う事だ。
現在、軍も含めてこの船に搭載されている程度のESPディテクターでは、これ程微弱なESP波が検出される事はまず無いだろう。しかし、茉莉香のように、いつか大きな超能力を得て、それが制御出来ずに外に漏れるかも知れない。
考えられる可能性は、『ジャンプ酔い』、もしくは超空間通信へのノイズ混入だろう。
茉莉香の居るギャラクシー77の船内ならまだしも、船を下りてから発現して仕舞ったらフォローのしようがない。
折角、普通の子供から再び人生をやり直すチャンスであるのに、彼等の周りの者が超能力の事に気が付いたら、同じ過ちを繰り返してしまうかも知れない。
──何とかしなきゃ
そんな思いが、茉莉香の心の内を満たしていた。
「マリカ、どうしよう。シャルはあのシャーロットと同じ人間だから、超能力もおんなじモノを持ってるんだよね。このまま放っておいたら、超能力を抑えるどころか、大きすぎる能力を制御しきれなくなって暴走させるかも知れない。そんなの、シャルにも周囲の人達にも不幸な事だよね。お願いだ、マリカ。マリカの……、マリカと『ESPエンジン』の能力で何とかしてあげられないかな」
少し蒼ざめて懇願するような少年の顔を見て、少女は「フゥー」と溜息を吐いた。
「ああーと、ちょっと言葉が足りなかったよね。あの子達の超能力は、それ程大きくはないんだ。ESP波が漏れ出たのは、多分、ESP制御バンドの設定が上手く出来てないだけだと思うよ。まぁ、やっつけでやっちゃったからなぁ……」
彼女はサラリとそう言うと、お善の脇に胡座をかいた。片手で頬杖を突くと、「ムゥー」と唸っている。
「えっとぉ……、え? マリカ。シャル達の本当の姿って、あのムキムキの宇宙海賊達だよね。超能力の他にも、記憶を取り戻したら、色々マズイ事になるんでしょう。ボクは、今日感じたESP波の事は、何か大きな事が起こる前兆かも知れないと思って……」
深刻な顔をして子供達の事を心配しているコーンを見て、茉莉香は「プッ」と吹き出して仕舞った。
「な、マリカ。何を笑うですか。コレ、重大な問題と、ボク思うよ。真剣に考えてよ」
それを聞いて、彼女は背筋を伸ばすと、
「ゴメン、ごめんなさい。いやぁ、だってコーンがスゴく真剣な顔をしてるんだもん。ほんとにゴメン」
と言って、彼に謝った。しかし、顔は未だ笑っている。
「あっと、あのね、コーン。さっきも言ったけど、彼等の超能力は、そんなに強くないんだよ。まぁ、強い超能力者に育つ素質はあるかも知れないけどね」
茉莉香は、苦笑いを浮かべながら、そうコーンに説明し始めた。
「あれ? でもマリカ。シャル達は、代謝機能を制御して子供の姿に変身させたんじゃないの?」
コーンは、保安部などで学習した超能力の知識に照らし合わせて、そう疑問を述べた。
「うーん、まぁ似たような事をしたんだけどね。具体的には、彼等を一旦『胎児』の状態まで戻して、新たに『幼児の状態までに成長させ直した』んだ。言葉とか日常の簡単なルールとかは暗示で覚えさせたけれど、基本的に以前の記憶は全く持っていないんだよ。だから、コーンが心配するように、海賊の頃の事を思い出して、また戦争を仕掛けようとかは無いから」
茉莉香は、真剣な顔をしている彼に、事情を話した。
「でも、超能力とかは? DNA情報は全く同じなんだから、超能力も以前と同じに使えるんだよね」
コーンは、茉莉香に説明されても、未だ不安を拭いきれないでいた。
「そこもね、多分、大丈夫と思う。多分、だけれど……」
彼女の語尾の曖昧さが、少年には危うく思えた。それで、
「だったら、いつか大きな超能力が発現して、手に負えなくなるんじゃ……」
と、呑気そうに見える少女に訊いてみた。
「それね。うーん、それなんだよなぁ。『エトウ財団』の研究結果では、単にDNAマトリクスや遺伝子情報が同じだけでは、必ずしも同じように超能力を発揮するとは限らないんだそうだよ。それはね、人間の脳は、生まれたての赤ちゃんの時と、成長した後は全然違うんだよ。赤ちゃんの脳神経は、生後十数ヶ月以上もかけて成長するんだ。それこそ、脳の神経シナプスの構造が変わってしまう程にね」
それを聞いた少年は、最初、何の事を言われているのか、すぐには理解出来ないでいた。
──脳神経の成長度合いと超能力──これには大きな繋がりがあるのだ
「人間の場合、脳神経系の構造は、出産の時に完成している訳じゃないんだって。さっきも言ったように、一年以上もかけて徐々に形作られていくんだよ。生まれたばかりの赤ちゃんって、立って歩く事はおろか、喋る事も見る事も出来ないよね。それどころか、耳や鼻からの音や匂いの情報を処理する事すらままならない。馬とか牛とかだと、生まれてすぐに立って歩くし、おっぱいだって自分でお母さんの乳首を探して飲むでしょ。そう云う他の動物達と比べて、人間って超未熟児の状態で生まれるんだ。分かる?」
少し真面目な顔をして説明する茉莉香は、そこまで喋ると、お茶を手に取った。
ちょっと冷めかけてはいたが、喉を湿らせるにはちょうど良かった。
「うーん、なんとなくだけど、分かった。ボクのオジさん達、ヒドイひとだったけれど、自分の子供には優しかった。一番下の赤ちゃんが生まれた時、凄い喜んでたよ。生まれたての赤ちゃんをボクも見せてもらったけれど、ぐにゃぐにゃで、泣いてばかりだったような……」
彼は、天井を見上げながらそう呟いていた。
「で、超能力の発現にも、脳神経の構造は強く関係するの。だから、単純にDNA情報を元に、クローンを作ったからと言って、超能力も同じように発揮できるとは限らないんだ。シャーロット達を一旦胎児に戻したのは、脳の神経構造をリセットして、これまでの嫌な記憶を忘れて欲しかった事もあるけど、大きすぎる超能力を持たせたく無かった事もあるんだよ。それに、寿命の問題もあるしね」
茉莉香は、少し自慢げにそう話していた。今まで苦労して成し遂げたのに誰にも話せなかった事を、この少年に話せる事が嬉しいのだろうか。
「代謝制御を使った『変身』では、姿形は変わるけれど、若返ったと言っても体細胞のテロメアの長さが元に戻る訳じゃないんだ」
またしても、茉莉香は生物の教師のように、やや難しい事を説明し始めた。
「てろめ……や? それ、何なの。ボク、よく分からない」
案の定コーンは、話に着いて行けなくなって仕舞った。
「うーんとね、テロメアってのは、DNAの端っこについてる糸くずみたいなモノなんだ。これは、細胞分裂をする度に少しずつ減っていくの。そして、テロメアが短くなると、その細胞はそれ以上分裂できなくなって死んじゃうんだ。つまり、テロメアってのは、細胞や個体の寿命を司っているものなの。だから、『変身』を使うと……」
そこまで言われると、さすがにコーンにも理由が分かる。
「『変身』だと、姿は子供になっても、寿命が伸びる訳じゃない。そのままじゃ、すぐに寿命が来て、死んじゃうって事だね」
「だぁい正解」
茉莉香の言わんとした事を理解して、褒められたコーンは少し誇らしげだった。
「だから、マリカは、『変身』じゃなくって『再生』を使ったんだね」
彼にも、徐々に茉莉香達の行った企てが解り始めて来ていた。
「そう。『再生』は、一旦受精細胞の状態にまで戻してから、新たに生まれ直す方法なんだ。まぁ、欠点と言えば、脳組織がリセットされちゃうから、記憶が引き継がれないこと。それから、すぐには、大きく成長させられない事なんだな。……超短期間だったから、ホント、苦労したよ。本当は三歳児くらいが一番丁度良かったんだけれど。子供だけで生きていく事を考えて、五歳児くらいまで育成しなきゃならなかったんで、苦労したよ。ブレインハックまでして、言葉と一般常識を覚えさせることのしんどい事、しんどい事。AI達が手伝ってくれてなきゃ、計画は破綻してたよねぇ。……今考えると、あたしって、かなり危ない橋を渡ってたかも」
自分で言っておきながら、少女は蒼い顔をしていた。それを察して、コーンは彼女を元気付けようとした。
「だいじょぶ。マリカ、ちゃんと出来てた。だって、シャル達、とっても楽しそうだった。仲間達の結束も強くて、皆で助け合って生きてたよ。これ、全部マリカのおかげ。あの子達にはナイショにしなきゃだから、代わりにボクが言うね、『ありがとう』」
そう言って、コーンは畳に額が突くほどに深々とお辞儀をした。
「あっ、あーと。コーン、そこ迄しなくても良いよ。わたしも『彼』も分かってるから」
バカ丁寧な少年の態度に、少女は面食らって仕舞っていた。
オロオロしながら、コーンの頭を上げさせると、淹れ直したものの少し冷めて仕舞ったお茶を手に取って、彼に湯呑みを握らせた。
「ほらほら、コーン。ありがとね。ちょっと冷めちゃったけど、お茶、飲んでくれると嬉しいな。お煎餅もあるんだよ」
茉莉香にそう言われて、やっと上半身を起こして座り直したコーンは、持たされた湯呑茶碗を一瞥すると、口に運んだ。そのまま一気に流し込む。少年の喉が、ゴクゴクと音を立てているようだった。
「ふぅー。マリカ、ありがと。落ち着きマシタ」
そんな彼を見て、少女もホッとしたようだった。
そして、彼女は何かを思いついたような顔をすると、正面に座っているコーンの両手を取った。
「な、な、なんデスカ、マリカ」
少女の行動に、彼は、少しドギマギして戸惑っていた。
「今更なんだけれど、コーンにはお願い事があるの」
彼女の言葉は、いつになく真剣味を帯びていた。
「分かてるよ、マリカ。ボク、秘密、絶対に守る。絶対、誰にも言わない。一生言わない。墓まで持っていくヨ」
少年は、茉莉香を安心させようと、知っている限りの日本語の約束を意味するだろうと思う言葉を並べた。
「うん、ありがとう。でも、あたしがお願いしたいのは、その他にもう一つあるんだ」
茉莉香は、真剣な瞳でコーンを見つめていた。少年の頬に、ほんのりと赤みがさす。
「えっ、あ。……うん、だいじょぶ。ボクに出来る事なら、頑張って何でもやるよ。任せてよ、マリカ」
自分を頼られた事で、少年の胸中には、『頑張る』と『彼女のため』と云う、二つの単語がぐるぐると回っていた。
「えっとぉ、二つ目のお願いはね、あの子達の事を、さり気なく見守って欲しいの」
それを聞いたコーンは、大きく首を縦に振ると、
「うん、モチロン」
と応えた。
「よかったぁ。あたしは、船のパイロットの仕事があるから、そう簡単には移民街区には行けないから。船の電子知性体群も頑張ってくれているけれど、監視カメラを使ったモニタリングや、隔壁シャッターを操作して危なそうな人を他へ誘導するくらいの事しか出来なくって。丁度、困ってたところなんだ。コーンだったら、元移民だし、あの子達とも友達になってるし。保安部の仕事と称して移民街区へ行く口実も作れるしね」
そう言いながら、彼女は彼の両手を握ったまま、上へ下へとブンブンと振っていた。
「あ、ああ、うん。ボク、ガンバる。マリカのお願いってだけじゃなく、『友達』を護るためだから」
そう言って、コーンはニッコリと笑った。
それを見た茉莉香は、両手を離すと、早速こう言ったのだ。
「じゃあ、最初の仕事ね。あの子達の『ESP制御バンド』の調整をして欲しいの。……え? なによ。そんな顔しないで。超簡単だから。メーターから出ている端子を繋ぐだけ。後は、メーターの針が真ん中になるようにダイヤルを回して調整するの。簡単でしょ」
急にそんな頼み事をされた少年は、口をポカァンと開けていた。
「大丈夫。コーンなら出来るわ。調整器は、保安部の診療室で受け取れるように手配しとくから」
ニッコリと笑う茉莉香の顔に、何一つ言い返せないで、少年は苦笑いを浮かべていた。
「お願いね、コーン。もう、あなたしか頼れる人がいないの。あの子達の事、どうかよろしくね」
「……う、うん」
早速のお願いに、彼はそう言って頷くしか無かった。
丁度その時、玄関の方で<ガチャリ>と音がした。
「ただいまぁ。ごめんねえ、遅くなっちゃった。今、お素麺をゆがくからね。コーンくん、もうちょっとゆっくりしていけるんでしょ」
茉莉香の母──由梨香が買い物から帰ってきたのだ。
「えっとぉ、それがそのう……」
由梨香の声に、コーンは上手く言葉を出すことが出来なかった。
「お帰りなさい、お母さん。ごめんねぇ、コーンさぁ、急に保安部の仕事が入っちゃったんだって。すぐに任務に復帰しないといけないらしいの」
「あ、ああ、そうなんです。ここに寄ったのも、仕事の途中で……」
茉莉香の強引な進め方に、コーンは話を合わさざるを得なかった。
「ええー、そうなの? お母さん、残念だわ。折角、コーンくんとお茶を飲みながらお話がしたかったのにぃ」
由梨香は、買い物袋を玄関の隅に一旦置くと、そう言って残念がった。
「そうだ、小袋のお菓子があったから買ってきたのよ。コーンくん、持って行って。お仕事、お腹すくでしょう」
「そうだよ。持って行きなよ、コーン」
母の提案に、茉莉香も賛成すると、彼の方を見て「バチッ」とウインクをした。
(あっ、そうか。『あの子達に持って行け』って事だな)
茉莉香の思うところを察したコーンは、
「ありがとうございます。いただきます」
と言って、由梨香の差し出したレジ袋を受け取った。中には、三種類程のお菓子が透明な袋に分けられて入っていた。
「それじゃあ、マリカとマリカのお母さん、ありがとう。お邪魔しました」
そう言って、コーンは帽子を被り直すと玄関から外へ出た。続いて茉莉香達母娘も見送りに出た。
少年は、しばらく後ろを振り返って手を振ったりしていたが、二人が見えなくなったところで、フッと姿を消した。移民街区へ向けて瞬間移動したのだ。
それからしばらく経ったころ、少年はもう一度シャル達と出遭った広場にやって来ていた。小高いその場所からは、遠くに五〜六歳くらいの子供達が走り回っているのが見えた。
(うん。皆、元気。今度はお土産を持ってきたよ。それから、君達は孤独じゃない。ボクやマリカや、それに君達の遠いご先祖様が見守っているからね)
少年は、「おーい」と声を掛けると、大きく片手を振りながら、子供達の方へと走って行った。




