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大航海(4)

「目的地を星間マップにて照合。ESPエンジン、ジャンプ先目標に設定。スキャン開始」


 ギャラクシー77の総船室で、茉莉香(まりか)は次のジャンプの準備をしていた。


(今度は、昨日みたいな失敗はしないんだから!)


 彼女は前回のジャンプの時に、護衛のフリゲート艦を間違って破損させてしまったのである。恒星間航行用宇宙船であるギャラクシー77の超光速航法『ジャンプ』では、随伴艦との同時転送は想定されてはいたものの、建造以来、百年以上使われてはこなかった機能である。茉莉香のように経験の少ないパイロットには、酷な仕事ではあった。

 しかし、強大な超能力を持った宇宙海賊──シャーロットの一味に狙われているのである。戦闘を全く考慮していない移民船であるギャラクシー77だけでは、対処できる問題ではなかった。どうしても戦闘のプロである『軍隊』に護ってもらう必要があったのだ。そのための護衛艦だった。それを壊してしまっては、元も子もない。茉莉香は、今度こそ失敗しないと心に誓っていた。


 しばらくすると、茉莉香の手元のコンソールが点滅した。スキャンの結果が出たのだ。

「あ、……あれ? 何、この結果」

 茉莉香は、ディスプレイに表示された結果に、眉をひそめた。

<パイロット、ブリッジ。どうした、時間がかかっているな。未だスキャンは終わらないのか?>

 とうとう、ブリッジから問合せが来た。

「あ、はい。ブリッジ、パイロット。スキャン終了しました。終了しました、が……」

 茉莉香はそこで口ごもってしまった。

<どうした、パイロット? 何か問題があったか?>

 ブリッジの担当から、重ねて質問があった。

「あ、あのう……、スキャンの結果なんですけどぉ。目標宙域の広範囲に、点在する質量を感知しました。ジャンプには不適当かと……」

 茉莉香は困惑しながら、そう報告した。

<点在する質量? それは確かか?>

「はい。間違いありません。こんな事って、よくあるんですか?」

 茉莉香は、ブリッジの担当に返答した。

<いや。ぼくが担当になって二十年近くになるが、定期航路に設定された宙域に、不明な質量が点在するなんて事は初めてだな。記録でも、百年以上この航路を使っているが、こんな事は先例がない。開拓期の時代ならとにかく、安全な定期航路として確立してからは、ジャンプ先に障害物があるなんて記録はないんだが……>

 ブリッジの航法担当者は、そう答えると、しばらく応答が無くなった。


<パイロット、ブリッジ。ジャンプ先目標を変更する>

 しばらくして、総船室に指示があった。

「ブリッジ、パイロット。へ、変更、ですか?」

 茉莉香は、驚いて訊き返した。

<そうだ、パイロット。航海長や船長に相談して、航路を変更することにした。星系外での事故は、取り返しがつかない。少しでも危険な徴候があるなら、それは排除したい。目標を、セクターK37、ポイント23γに変更。再スキャンを行ってくれ>

「パイロット、了解。目標を、セクターK37、ポイント23γに変更。再スキャンを始めます」

 茉莉香は、そう返答して指示に従った。どこか腑に落ちないところはあったが、恒星間航行では、危険を最小限にするのが鉄則だ。宇宙では何が起こるか分からない。あらゆる事態を想定する必要があるし、そのための『目的地スキャン機能』であった。


 しばらくして、再スキャンの結果が出た。

「え? そ、そんな……。どうして?」

<パイロット、ブリッジ。再スキャンの結果は出たか?>

 ブリッジから、再度の問合せがあった。

「ブリッジ、パイロット。再スキャンの結果が出ました。出ましたが……」

 茉莉香が口ごもる。

<どうした? 何があった? まさか……>

 ブリッジの担当が不審がった。

「スキャン結果ですが、セクターK37、ポイント23γにも、複数の質量体を感知。ジャンプ先目標としては、不適当かと……」

 茉莉香が、予期しなかった結果を報告した。

<何! 本当か? そうか……>

 担当者が困惑する。

「間違いありません。再設定したジャンプ先目標にも、イレギュラーな質量体を感知しています。……いったいこれは、どういう事でしょう?」

 茉莉香も混乱してきた。


(あたしが、どっかミスしたのかなぁ……)


 経験の浅い茉莉香は、マニュアルにないイレギュラーに困惑していた。

 コンソールの向こうでは、航法担当者が押し黙っていた。


──どうしたのだろう


 彼女は不安になった。

 しばらくすると、ブリッジから通信が入った。

<パイロット、ブリッジ。ジャンプは一旦延期する。三十分後にブリーフィングを行う。二回のスキャン結果をまとめて、船長達に報告できるようにしておいてくれ>

 航法担当者からの返事がこれだった。

「あ、はぁ。延期ですね。パイロット、了解しました。ESPエンジンを、一旦通常モードに戻します。機関室には、こちらから連絡しますね」

 茉莉香がこう応えると、

<ブリッジ、了解。主機関、通常モードへ。船内には、こちらからアナウンスを行う>

 との返事であった。

「こちらパイロット。了解しました」

 茉莉香は、どこか変な気がしたものの、ブリッジの指示に従うことにした。何しろ経験が違う。新参者が、余計な事を言う状況ではない。星系外では、少しのミスが命取りになりかねないからだ。

 彼女は、コンソールを操作すると、機関室に連絡をとった。

「機関室、パイロット。今回のジャンプは延期になりました。ESPエンジンを通常モードに戻します。五分ほどしたら、軽く調整をお願いします」

<パイロット、機関室。何だ? ジャンプは延期かぁ。何かあったのか、お嬢>

 機関室から、不躾な返事があった。機関長である。

「ジャンプ先目標に設定した宙域に、イレギュラーな質量体が観測されたんですよぉ。大事を取って、ジャンプは延期だそうです。三十分後に、対策会議を行うようですよぉ」

 茉莉香が、そう応えた。

<不明な質量? 珍しいな。小惑星でも破裂したのかな?>

 機関長が、とぼけた声で返事をした。

「分かんないです。あたしも、経験少ないですから」

<そうだよなぁ。……了解。ESPエンジンを戻してくれ。機関の調整はこちらで行う>

「お願いします」

 彼女は、そう答えると通信を切った。そして、コンソールを操作して、主機関を通常モードに変更する。

「しかし変だなぁ。定期航路なのに、ジャンプ先にイレギュラーがあるなんて。しかも、二箇所とも……」

 茉莉香には、今回の件は偶然ではない気がした。何か人為的な臭いがする。それは、経験は浅くとも、ESPエンジンとリンクを行ったパイロットにしか分からない、勘のようなものだった。


──何かとてつもない事が起ころうとしている


 茉莉香は、そんなよく分からない不安のようなものを感じていた。




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