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第四十八太陽系(7)

 ギャラクシー77は、現在、第四十八太陽系のドックで船体の修理を行っていた。


 その日、船長とチーフエンジニアは、ドックの修理責任者とミーティングを行っていた。

「で、修理の進み具合はどうですか?」

 船長は、まずそう切り出した。

「まぁ、ざっと半分てとこかな。時間的には、あと三週間ほどで終わると思うよ」

「三週間かあ。航路変更と合わせると、約二ヶ月の遅れですね。船長、後で航海長と相談したほうがいいですね」

 ギャラクシー77のチーフエンジニアがそう言った。

「それよりも、何だぁ、あれ、……えーと、あれ(・・)を何とかしてくれ」

 ドックの修理責任者は、苦々しい顔でそう言った。

「あれって何ですか」

「あれだよ、あれ。……えーと、そう。移民だよ。あの移民とかいう連中をどうにかしてくれ」

「彼等が何か悪さをしましたか」

 船の航海の半分は、移民の輸送である。船長は、移民が何か問題を起こしたのではないかと考えた。

「いやぁ、あの連中がさあ、『ここで働かせろ』ってうるさいんだよ。何とかしてくれないか」

「働かせろ、ですか……」


 移民の殆どは、本国での貧困が元になった経済難民のようなものである。どんなところでも、働けて金を稼げるところがあれば、そうしたいだろう。

 しかし、それを許してしまうと、各所の太陽系に、ドッと移民が押し寄せることは目に見えている。第七十七太陽系のように、地球型環境の惑星が存在しない太陽系では、彼等の生活を維持するだけで、莫大な経費がかかってしまう。機械やロボットを使うよりも、安く働かせられるからこそ、移民は重宝がられるのである。この太陽系の環境では、食事だけでなく、気密服を着せるところから始まって、宇宙環境での対応や、作業ロボットの取り扱いの教育まで、素人に訓練をしなければならない。使い物になるまでの初期コストや、その後の維持費が掛かり過ぎるのだ。誰が好き好んで移民を受け入れようと思うだろうか。


 これは、船長にとっては、頭の痛い問題であった。


 きっと彼等は、「働かせろ」と言うだけでなく、「途中で降りたのだからその分の切符代を払い戻せ」とも言うだろう。しかも、うまく言って聞かせないと、暴動を起こしかねない。だからこそ、移民は第二隔壁より外に収容しているのだ。いざというときに『投棄』出来るように。


「分かりました。移民の件については、私から移民部に言っておきましょう。えーと、それ以外に何かトラブル等はありませんか?」

 船長は渋々そう言うと、修理責任者は、

「んー、特には無いな。……あ、そうそう、修理の代金だが、『エトウ財団』につけといていいか? 結構な金額になるが」

「見積りと変わらないのであれば、それで結構です。軍からは何か言ってきましたか?」

「取り敢えずは何も。そっちは、うちと関係ないからな。直接交渉してくれよ」

「分かりました。それでは、修理の件、よろしくお願いします」

 そう船長が言うと、修理責任者は、

「くれぐれも、……えーと、そう、移民だ。移民にはちゃんと言っといてくれよ。漏らさず、残さず持って帰ってくれよ」

 と、放漫に言い放った。

「分かりました」

 とだけ応えて、船長とチーフエンジニアは会議室をあとにした。


「厄介なことになりましたね」

 帰りのチューブで、チーフエンジニアが船長に話しかけた。

「そうだな。移民か。全く、困った連中だ」

 船長は腕を組むと、溜息を吐いた。


 基本的に、移民は『地球のお荷物だった者達だ』と、認識されている。そういう意味で、第七十七太陽系だろうが、第四十八太陽系だろうが、どこへ行ってもお荷物には変わりないのである。

 各太陽系が移民を受け入れる場合、安いコストで農産物や鉱物資源を確保できる労働力であるからに他ならない。流刑者ででも無い限り、機械やロボットを使った方が安ければ、そっちを使うのだ。

 最もコストのかからないところで生産し、高く売れるところへ販売する。汎銀河的に植民が行われる時代になっても、グローバルな事業体の形は同じであった。そのため、富める者はより多く富を得、貧しきものはより貧しくなる事に変わりは無かった。

 それに対して、武装蜂起した者たちが、宇宙海賊であった。少なくとも先月までは。


 その意味で、宇宙海賊シャーロットの存在は、異例とも言える。彼等は、金品を狙うだけではなく、特定の移民船のESPエンジンを狙ってきた。超光速航法──実はテレポートだが──を使いこなし、生身でESP攻撃をしてくる彼等は、ギャラクシー77にとっての天敵である。

 これからの航海を無事に行うためにも、軍の協力を得る必要があると、船長は考えていた。


 船長達が、ドックの会議室からブリッジへ戻ってきた時、ちょうど保安部長と移民部長が顔を合わせていたところだった。何か、口論していたようである。

「何をしている」

 と、船長が声をかけると、

「船長からも言ってやって下さい。移民をなんとかしろって」

 と、保安部長が怒ったように応えた。

「どうしたんだ? また、移民が何かしたのか」

 船長が、やれやれと言った面持ちで話しかけると、保安部長はこう応えた。

「移民たちが、修理中で第二隔壁が開いているのをいいことに、勝手に奥へ入ろうとしているんです。中に入ってきても、移民に発行しているバーコードでは、物の提供もサービスも受けられないのに」


(また、移民か。困ったものだ)


 船長は、次々に難題を持ち込む移民に対して、うんざりし始めていた。

「分かった。移民部長、取り敢えず移民を隔離してくれ。船体の破損部分への気密隔壁を完全に閉鎖しろ。私が許可する。それから、保安部は、移民の移動の際に引率をすること」

 船長がそう命令すると、保安部長は、

「どうして! なんで保安部が、移民のお守りまでしなけりゃならないんです。それは、移民部の仕事だ」

 と、驚いたように返した。

「移民の暴動を防ぐためだ。船内の治安を守るのが、保安部の仕事だ。文句を言ってきたら、発砲しても構わん。ただし、威嚇のみに限る。なあに、隔壁の向こうに隔離してしまえば、奴らも大人しくなるだろう。二人共、こんなところで喧嘩をするな。直ちにとりかかること。これは命令だ」

 船長は、保安部長と移民部長に、そう命じた。

 多少強引でも、移民達を隔離しなくては、修理に支障が出かねない。「これ以上ドックの修理責任者に文句を言われたくない」という心理も働いていた。


 船長に命令されて、二人は渋々ブリッジから退出した。

「船長、大変ですね」

 側にいたチーフエンジニアが、気の毒そうにそう言った。

「私もこの船を任されて二十年になるが、毎度、移民には苦労をさせられる。全く、何とかならないもんかね」

「何とかなるようでしたら、奴らも移民なんかにはならなかったでしょうね」

 チーフエンジニアのこの言葉に、船長は溜息を吐くと、疲れたようにキャプテンシートに身体を預けた。彼はコンソールを操作して、自分宛てのメッセージを確認すると、必要な処理をして返信をしていた。

 その時、船長はそれらのメッセージの中に、暗号化された秘匿通信を見つけると、眉をしかめた。差出人は、エトウ財団の会長からだった。

「しばらく、船長室で執務をする。帰って来るまで誰も通すな。必要事項があれば、メッセージで伝えてくれ。船務長、ブリッジはしばらく任せる」

 船長はそう言うと、ブリッジの出入り口へ向かった。

「了解しました」

 船長の背中を、船務長の声が追いかける。


 船長室に入ると、彼は扉をロックした。執務机の前に座ると、先ほどの秘匿メッセージを開こうとした。画面に現れた解錠用パスワード入力のダイアログに、船長のみが知るパスワードを入力し、生体認証を終えると、メッセージが解読され、画面に内容が表示された。


 メッセージを読み進めるに従って、船長の顔は険しくなっていった。

 本分には、


『宇宙海賊シャーロットとその一味を生きたまま(・・・・・)捕らえること。そのための協力を軍にも要請してある。シャーロットは、新型ESPエンジンの製造に欠かせない人物であると、財団は判断した。方法は問わない。超法規的措置の実行を許可する。ミッションのための認証コードは、以下を参照せよ』


 と、書かれてあったのだ……




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