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海賊シャーロット(6)

 何も無い宇宙空間を漂うギャラクシー77を、大きな振動が襲っていた。


 シャーロット達、三人の宇宙海賊は、無数の隔壁を物ともせず、船の中を機関室へと進んでいた。その様子は、遠く離れた操船室でも感知することが出来た。


<パイロット、ブリッジ。宇宙海賊が機関室に向かっている。いずれも強力な超能力者だ。直ちに避難せよ>

 ブリッジからの通信がそう告げた。

「そんな事言われたって、無理よ。先輩は今、危篤状態なのよ。今にも死にそうなのに、動かせる訳ないじゃない」

 茉莉香(まりか)はベッドの傍らで、そう叫んでいた。

「ここは危ない。君だけでも逃げなさい」

 老パイロットの治療を続けている医師が、そう茉莉香に言った。

「じゃ、じゃあ、医師(せんせい)達は? 先輩はどうなるの?」

 白衣の医師は、顔を横に振ると、茉莉香の両肩にそっと手を置いた。

「私達はギリギリまで治療を施してみる。いいから君は逃げなさい」

 優しいが、強い力のこもった声だった。

「あたし……あたしだけ逃げるなんて出来ない。ESPエンジンを奪われたら、どっちみち、あたし達は宇宙の放浪者になるのよ。何もない空間で、徐々に餓死していくの。だったら……、だったら、今、殺された方がましよ」

 茉莉香は抵抗した。

「そんな事を言うもんじゃない。今は逃げる。その方が生き残れる確率が上がる。君は生きるんだ」

 医師は、尚も茉莉香を説得しようとした。だが、彼女を逃がすには、もう時間が無かった。今度はすぐ近くで大きな爆発があった。操船室が大きく揺れる。揺れの影響なのか、入口の扉が少し開いていた。


「船長、ここは操船室のようですぜ」

 と、野卑な男の声が聞こえた。船に侵入した宇宙海賊達である。

「ここは、適当にすっ飛ばして、早く機関室へ行きましょうぜ」

 シオンと呼ばれていた男がシャーロットに言った。

「いや、ここは百年以上に渡って、俺の先祖を顎でこき使ってきた奴らの部屋だ。先にパイロットってやつをバラバラに切り刻んでやらなきゃ、俺の気が済まねぇ」

 中央に立つ一際壮観な男──海賊船長シャーロットはそう言うと、操船室の入口から堂々と中に入って来た。連れのゲッツとシオンも、後から着いて来る。

「あなた達は誰! ここには危篤患者がいるの。ヒドイことはしないで」

 茉莉香は海賊達の前を遮るように立つと、そう言った。

「お~やぁ、元気なお嬢ちゃんだね。ここは危ないから、小さい子はすぐにお家に帰りましょうね」

 ゲッツが馬鹿にしたように茉莉香に言った。

「ダメ。あなた達、宇宙海賊でしょう。あなた達の狙いは、ESPエンジンじゃなかったの。だったら、こんなところにいないで、早く機関室に行けば」

 それを聞いたシャーロットは、ニヤリと笑うと、こう言った。

「その通りだよ、お嬢ちゃん。俺は宇宙海賊シャーロット。こいつらは、俺の部下のゲッツとシオンだ」

「へへへへ、冥土の土産に教えといてやるよ。俺がゲッツな。それから、そっちの冴えない奴がシオンだ」

「何だよ、冴えない奴って。ゲッツの方がよっぽど小汚いぞ」

 すると、ゲッツはシオンの胸ぐらを掴むと、

「何が小汚いって。シオン、俺に喧嘩売る気かよ。ま、勝負してやってもいいが、俺の『超長距離探知』の能力がなけりゃあ、船には戻れないんだぜ。その辺をよぉく考えてからモノを言うんだな」

「何を偉そうに。お前の能力なんか、俺の『プラズマ』に比べりゃ、線香花火じゃねぇか。隔壁一つ、まともに壊せない奴が、大きな口をきくなよ」

 ちょっとしたきっかけから、海賊達は互いにいがみ合い始めた。しかし、そこをシャーロットが止めた。

「ゲッツもシオンも、いい加減にしろ。二人共、脳みそ吹き飛ばされたいか!」

「船長……」

「す、済まねえ」

 船長に叱咤され、二人は大人しくなった。

「見苦しいところを見せたな。ま、そういうことだから、お嬢ちゃんはそこを退きな。大怪我するぜ」

 しかし、茉莉香は譲らなかった。

「パイロットが憎いなら、あたしを殺して。あたしが、ギャラクシー77のパイロットよ」

 しかし、これを聞いた海賊達は、哄笑で以って答えた。

「えっへへへへ。お前みたいなチンクシャがパイロットだって。笑わせるな」

「どうせ、こんな状況で、頭が変になったんだぜ。可哀想になぁ」

 ゲッツとシオンが笑うと、茉莉香は意地になって三人を睨みつけた。

「う、嘘じゃないわ。前のパイロットが老衰で引退して、今はあたしがパイロットなの」

 それを聞いたシャーロットは、チラと老パイロットが治療を受けているベッドの方を見た。そして、鼻先で笑うと、こう言った。

「ふぅーん。「前のパイロットが使いもんにならなくなった」ってのは本当らしいな。だが、お嬢ちゃんが次のパイロットとは、到底信じられねぇな。お嬢ちゃんがパイロットだって言い張るのなら、何か一芸でもやってみ」

 と、シャーロットは少女に無理難題を言った。

「船長、そんな意地悪をこんな小さい子にするもんじゃねぇぜ。大きく育てりゃ、コイツ、美人になるぜぇ」

 シオンが口を挟んだ。シャーロットはシオンを睨みつけると、

「お前がそう言うなら、このガキはお前にくれてやる。好きにするがいい」

「いい玩具を貰ったな、シオン」

 ゲッツもシャーロットも、茉莉香をバカにしたように薄笑いを浮かべていた。

「ありがとよ、船長」

 シオンはそう言うと、ニヤニヤ笑いながら、茉莉香に近づいてきた。

「やめて、来ないで……来ないでぇ」

 茉莉香が強く彼等を拒否した途端に、シオンが頭を押さえて苦しみ始めた。

「うっ、ううあああ。あ、頭がぁ……」

「どうしたシオン。……ウグ、こ、これは!」

「しまった、このガキ、ほ、本物のパイロットだ。なんて、強烈な、て、テレパシー波だ。の、脳みそが沸騰しそう、だぜ」

 海賊達の脅しに、茉莉香は必死だった。「何とかして、ここにいる先輩達を守らなきゃ」という一途な思いだけで偶然に発動した力だった。

「くぅぅぅぅ、ガキだと思って舐めてたぜ。し、シオン、プラズマを」

「ちきしょう。せ、船長、頭が痛くて、集中できねぇ」

「こ、この俺のサイコバリアを以ってしても、ふ、防げんとは……。なんという、強力なテレパシーだ。ゲッツ、シオン、……動けるか」

 シャーロットも残りの海賊達も、床に膝をついていた。

 しかし、茉莉香の必死の抵抗もここまでだった。やはり、パイロットとしての訓練を少しばかり積んだだけの彼女には、このような巨大な超能力を長時間発揮する事は出来なかったのだ。

 とうとう茉莉香は力尽きて、ペタンとその場に座り込んでしまった。同時に、テレパシー波も弱まる。海賊達は息を吹き返すと、茉莉香に近づいていった。

「なんてぇガキだ」

「つー、まだ頭がガンガンするぜぇ。このガキが、どうしてくれようか」

「待ちな、ゲッツ。そいつは、俺が船長からもらったんだ。俺の好きなようにさせてもらうぜ。良いだろう船長」

 シオンがそう言うと、

「ふむん、まあ良いだろう。シオン、そのガキはお前に任せる。連れて帰ってもいいが、二度とこんなオイタをしないように、しっかりと躾けておけよ」

 そう言われたシオンは、へたり込んでいる茉莉香に近付くと、彼女の襟首を掴んで高く持ち上げた。そして、強く言い聞かせるようにこう言った。

「今日からお前は、俺の下女だ。何でも言うことをきくんだぞ。分かってんのか、こら!」

 シャーロットとゲッツは、それをニヤニヤしながら眺めていた。

 実はシャーロットは、「上手く育てれば茉莉香が自分達の戦力になる」と考えたのだ。コイツは鍛えれば物になると。それ程、茉莉香のテレパシー能力は成長していた。

 海賊達が再び茉莉香に乱暴しようとした時、空中に眩く輝く光が現れた。それは、意思を持っているように茉莉香を捕えていたシオンを跳ね飛ばすと、シャーロットやゲッツを襲った。

「何だ、これは。シオン、プラズマだ」

「オーケイ、船長。これでも喰らいやがれ!」

 シオンがプラズマのビームを光の塊に向かって放つと、それは何かの壁に当たったかのように弾かれ、霧散した。

「何ぃ、サイコバリアだと。何者だこいつ!」

 シャーロットが驚愕していると、光は茉莉香を守るように海賊達の正面に降りると、人の形をとった。

「マリカ、イジメル。ボク許さない。お前たち、悪いやつ。ボク、マリカ守る」

 そこにいたのは、浅黒い肌をした少年だった。

「コーン……」

 茉莉香は人影を見て、思わず口走った。

「誰だよコイツは。船の乗組員じゃなさそうだし、……移民か?」

 ゲッツが怪訝な顔をした。

「ゲッツ、シオン、気を付けろ。ソイツは俺と同等クラスのサイコバリアを使える。それにテレポートもな。念動に至っては想像もつかない」

「船長……」

 ゲッツもシオンも、シャーロットの言葉に押し黙ってしまった。


──このガキが、それ程の強力なエスパーだとは……。


 相手は、十二光年を飛び越えてきた強力なエスパーが三人。果たして、コーンは茉莉香を守りきれるのか……?




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