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海賊シャーロット(3)

 薄暗い部屋にその男はいた。痩せた身体に黒のピッタリとしたスーツを纏っていた。髪の毛はボサボサで、眼だけが異様に赤く光っていた。


「船長、ターゲットが、また『ジャンプ』したぜ」

 コントロールパネルの前に座っていた、いかつい小太りの男が言った。

「位置は?」

 痩身の男が尋ねる。

「本船の後方に出現。七時の方向、仰角三十度、距離三万八千」

「チミチミとあっちこっちへとジャンプしやがって、鬱陶しい」

 今度は、舵輪を握っている若い男が言った。これも黒い合成皮革と思しきスーツを着ていた。


 そう、ここは海賊船の中。ギャラクシー77を襲っている、宇宙海賊船のブリッジであった。


「転舵回頭。追うぞ。主砲、次弾装填。発射準備」

「主砲、発射準備ぃ」

 砲撃手と思われる大男が、復唱する。

「船長、撃っても撃っても、『ジャンプ』して躱しやがる。小型艇を繰り出して、一気に乗り込んじまおうぜ」

 今度は、椅子の上に横柄に座り込んでいる男が言った。

「バカ言うな。相手は超光速宇宙船だ。大きく『ジャンプ』されたら、小型艇じゃ追い切れねぇ。こっちが本船で追っかけて『ジャンプ』しようとしても、小型艇を収容する間に逃げられちまう」

「面倒くせぇー。小型艇の下っ端なんて、置いてきゃいいじゃねーか」

 そんな会話が飛び交うところへ、船長のシャーロットが口を挟んだ。

「仲間を置いて行くだとう。そんな真似は、俺が絶対にさせん! 憶えとけ、この船の全員が、俺の家族だ。皆可愛い、俺の兄弟・子供達だ。誰一人も欠かす訳にはいかん!」

「…………」

 船長の言葉を聞いて、海賊達は黙り込んだ。

「相手は、あの巨大な船を『ジャンプ』させてんだ。そう何回もは続かないさ。ヤツが疲れたところを見計らって、乗り込んで制圧する。分かったな」

 小太りの男が、不承々々頷いた。

「主砲、次弾装填完了」

「測的よし。照準よし。主砲、いつでも発射よろし」

「よし、撃て!」

 海賊船長の命令とともに、大きな振動がして砲弾が発射された。それは薄い煙の尾を引いて、ギャラクシー77に向かって直進して行った。



 一方、ここはギャラクシー77の操船室。主電源の代わりに非常電源の明かりがオレンジ色に室内を染めていた。


「先輩、大丈夫ですか?」

 茉莉香(まりか)は安楽椅子の老パイロットを気遣っていた。息が荒い。

「心配は要らん。それよりお嬢ちゃんは、スキャンを急いでくれ」

 宇宙海賊の攻撃は、『ショート・ショート・ジャンプ』で、なんとか凌いでいた。視界の届く範囲への移動は、スキャンが必要ない分、短期間で実行する事ができる。ESPエンジンへの負担も、比較的少ない。

 しかし、いずれは限界が訪れる。ESPエンジンはただの機械(メカニズム)ではない。強力な超能力者の脳髄を組み込んだとは言っても、テレポートをする毎に疲労が蓄積するのだ。


<敵船、発砲。砲弾の着弾まで、八十秒。緊急全力回避>


 海賊の攻撃は続いていた。

「くっ……」

 敵の攻撃はギリギリで回避しないとならない。早すぎると、念動力で進路を変えられてしまう。『ショート・ショート・ジャンプ』と言っても、タイミングが難しい。経験の浅い茉莉香に任せることは出来ない。

 連続しての『ジャンプ』は、パイロットの脳にも疲労を蓄積させる。もう何回目の『ショート・ショート・ジャンプ』を行っただろうか……。

 老人の深い皺の間に、脂汗が溜まっていた。


<砲弾、急接近。着弾まで十秒、九、八、七……>


「今じゃ、『ジャンプ』」

 老パイロットは、砲弾を避けるため、もう十何回目かの『ショート・ショート・ジャンプ』を敢行した。

「ブリッジ、パイロット。『ジャンプ』成功。砲弾は回避した」

<パイロット、ブリッジ。確認した。敵船、本船の後方三万五千。敵船、回頭を開始。依然として接近中>

「あちらさん、諦める気は無いようじゃの……。ブリッジ、パイロット。荷電粒子砲での砲撃は可能か?」

 老パイロットがブリッジに尋ねた。何か考えがあるのだろうか……。

<パイロット、ブリッジ。荷電粒子砲のクールダウン完了。いつでも砲撃可能だ。しかし、そんなもんで、何をする気だ?>

「そうか、使えるんだな。ならば……。ブリッジ、パイロット。今から言うポイントに荷電粒子砲を照準せよ。発射のタイミングはこちらで指示する」

<パイロット、ブリッジ。了解した。荷電粒子砲、エネルギーチャージ開始。臨界まで三十秒。トリガー、そちらに回す>

「こちらパイロット、了解。……お嬢ちゃん、もう少ししたら、もう一度『ショート・ショート・ジャンプ』を行う。わしが合図をしたら、このスイッチを押すのじゃ」

 老パイロットはそう言って、コンソールパネルに並ぶスウィッチを見せた。

「先輩、これは?」

「荷電粒子砲の発射スウィッチじゃ。海賊共め、ギャラクシー77が、ただ逃げ回っているだけの船では無いことを、思い知らせてやる」


<砲弾、急接近。着弾まで、十秒、九、八、七、……>


「よし、『ジャンプ』」

 老パイロットは、またも船を『ショート・ジャンプ』させた。だがしかし、瞬間移動した先は、何と海賊船の目の前であった。褐色の岩塊がモニターパネル一杯に映し出されている。

「お嬢ちゃん、今じゃ」

「あ、はい。発射」

 茉莉香が慌てて、荷電粒子砲の発射スウィッチを押す。すると、ギャラクシー77の船外に設置されている荷電粒子砲が、一気にそのエネルギーを開放した。小惑星を改造した宇宙船に、熱核プラズマの奔流が命中する。そして、眩い光が飛び散ると、海賊の宇宙船から岩塊や構造物の破片が飛び散った。

「よし、全弾命中。離脱するぞ!」

 老パイロットがそう言った瞬間、モニター画像が暗転した。周りにほとんど何もない宇宙の真ん中に、ギャラクシー77は瞬間移動したのだ。


「ブリッジ、パイロット。敵船にダメージを与えた。本船は、約十二光年を移動した。各部の点検を急いでくれ」

<パイロット、ブリッジ。了解した。引き続き警戒を厳に>


 その声を聞いた途端、老パイロットは安楽椅子へとへたり込んだ。肩を大きく上下させている。息が荒い。全身は脂汗でグッショリと濡れていた。

「先輩、大丈夫ですか。……つ、冷たい。脈も早い。医務室、こちらパイロット。先輩が大変です。早く、早くドクターを」

<どうしたパイロット。状況を知らせろ>

「先輩が、パイロットが……死にそうなんです。お願いです。早くドクターを」

 茉莉香は激しく泣きじゃくりながら、マイクに叫んでいた。

<りょ、了解。急行する。すぐに着くから、それまで何とか保たせてくれ>

「そ、そんなぁ。「保たせてくれ」って言われても、……分かんないよぉ。先輩、先輩、死んじゃヤダよう」

 安楽椅子の上でぐったりとしている老パイロットの細い手を握りしめ、そう言い続けるしか茉莉香には出来なかった。


 老パイロットの生命は。そして、茉莉香達は宇宙海賊から逃げ切ることが出来たのだろうか……。





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